第179話 蹂躙

 展開しているラウンドの部隊を一方的に蹂躙する2機のクラレントMk-Ⅱマークツー

 可変機である1号機ハイペリオンの高速飛行形態による攪乱とビームライフルによる牽制。

 それにあわせて足をとめた相手から、2号機アストレアがビームマシンガンとビームソードで撃破していく。

 アストレアの行動に注視すれば、今度は攪乱と牽制に回っていたはずのハイペリオンからビームが飛んできて撃墜される。

 そもそも。旧式化しはじめた機体であるクレストを凡人以下の人間が近代化改修を行った程度の性能しかないサルタイアが、かつてラウンドの軍事力をたった1人で支えていた天才シルルが本気で造った最新鋭機の性能に並ぶ事ができるわけがないのだ。

 加えて。その最新鋭機たるクラレントMk-Ⅱマークツー――その1号機から3号機は量産化を目的としていない、製作者がそれに乗るパイロットを想定して当初の設計から大きく変更して完成した機体。パイロットと機体の相性は最高レベルである。

 機体の性能差が戦力の決定的差ではない、というベテランであろうとも、流石にもっと高性能な機体でなければ反応すらできない。


「あと何機だ」

「センサー範囲内にいるソリッドトルーパーはあと3機です」


 ビームブレードをウイングバインダーに収納しながら、ベルはアッシュの質問に答える。

 あとは艦艇のほうだが――さっき1隻沈めて以後はまだ手を出していない。

 何せ、こちらの武装はビーム兵器がメイン。戦闘艦ならば装備していて当然のビーム攪乱幕を展開されれば、一切攻撃が通らない。


「どうします? ブリッジを落としますか?」

「そうしたいんだが……ッ!!」


 4隻のトゥルウィス級巡洋艦と、3隻のキャスパリーグ級戦艦が一斉にミサイルを発射。

 それらはすべてアッシュとベルへと向かう。

 殺到するミサイル。

 それに対し、アッシュはウイングバインダーに収納されているビーム砲を展開。旋回しながら照射し、一気に薙ぎ払う。

 ついでに、そのまま伸びたビームは艦隊が展開していたビーム攪乱幕を撃ち抜きたった1発で攪乱粒子を完全に散らしてしまった。

 それだけの威力をもつ攻撃。普通は連発できないのだが――即座に2射目が放たれた。

 今度は艦隊を守るビーム攪乱幕はない。ほとんど威力減衰しない高出力ビームがキャスパリーグ級戦艦のブリッジを撃ち抜いた。


「これでまた1隻」


 ビーム砲を収納しながら、次の標的を定めようとすると、残ったサルタイア3機がハイペリオンとアストレアめがけてアサルトライフルを構えて突撃。

 射程距離に入るなり引鉄を引く。

 が、その距離まで接近しておいて気付かないわけがなく、ハイペリオンが前に出てビームシールドを展開。シールド表面に発生したビームが、弾丸を一瞬にして消し炭にする。

 そして、それを展開したままハイペリオンはサルタイアへ向かって突撃。ビームを展開したシールドを装甲に押しつける。


「アッシュさん、それえげつないですよ」

「使えるものは何でも使うだけさ」


 常時照射状態のビームが装甲をごっそり削り取る。

 正しくは、焼き切る。

 コクピットのある胸部装甲をごっそり消失。中にいた人間は――迫りくるビームの壁に怯えながら焼け死んだことだろう。

 胴体を半分以上消失したサルタイアは四肢を投げ出し、宇宙空間を漂う鉄屑と化す。

 それをビームの照射をやめたシールドで弾いてどかすなり、即座に次の機体へビームライフルの銃口を向けるが、相手もバカではない。

 狙いを付けさせないように左右にわかれて挟撃しようとする。

 が、そこへアストレアのビームマシンガンのビームが弾幕を展開。咄嗟に回避するために制動をかけたせいで足が止まる。


「そこッ」


 左手に持ったビームマシンガンを90度傾けて右手に握られているものと一直線上に連結させるアストレア。

 アストレア専用武器として開発されたビームマシンガンのビームランチャーモードである。

 当然、散発的にビームを放つため単発ごとの威力が下がるビームマシンガンよりも重たい一撃を放てる。

 加えて。アストレアに採用されたパワーブースターの効果により、一時的にではあるが出力を強化。

 その状態で放たれるビームランチャーの威力は――掠っただけでもソリッドトルーパー程度の装甲を融解させる。

 ベルの意図に気付いたか、連結するところを見たサルタイアは回避しようと全身の推進器をフル活用して機体を動かす。

 ――だが、遅い。

 ただのビームライフルならともかく、アストレアがパワーブースターを起動させた状態で使うビームランチャーを回避するのには遅すぎた。

 バイタルエリアは無事だが、その表面装甲は焼き切れ、下半身はごっそりえぐられ、脚部に充填されていた推進剤がビームの熱で誘爆したことで発生した爆発で機体が明後日の方向へと飛んでいく。

 残ったサルタイアが回収しようにも、2対1の状況ではどうすることもできず、あっという間に戦闘エリアから離れ、大破した機体は見えなくなってしまった。


「お前の方がやってることえげつないだろ。あれ酸欠で死ぬまで漂流確定じゃねえか」

「外したからたまたまそうなっただけです」


 ビームランチャーを分離させながら、ベルは目で残ったサルタイアを追う。


「……アッシュさん」

「解ってる」


 戦力たるソリッドトルーパーをここまで潰されて、敵の位置も把握できている状況であるのに、艦隊が撤退しようとしていない。

 艦載機すべてを撃墜された時点で損耗率は相当なものであるし、何より初撃で巡洋艦を1隻、さらに先ほどハイペリオンが放ったビームが戦艦を沈めている。

 普通なら、撤退を考えるほどの損害である。

 だが何故か、撤退しようとしていない。

 それを気にしつつも、2機で連携して残ったサルタイアを撃墜。

 改めて残った艦隊のほうへと銃口を向ける。

 そのタイミングで3隻のキャスパリーグ級戦艦のカタパルトハッチが開く。

 ブリッジを破壊された艦も、機能そのものは生きている。始末しておかなかったアッシュのミスである。


「悪い、ベル」

「今さらですよ」


 何か出てくる前に仕留めようと、ハイペリオンはウイングバインダーのビーム砲を再度展開し、アストレアもビームマシンガンを連結させてビームランチャーを組み立てると2機同時にビームを放った。

 が、再展開されていたビーム攪乱幕がそれを防ぐ。

 しかも、今度は先ほどよりも高濃度散布されていたせいで、ハイペリオンの高出力ビーム砲とパワーブースターを使用したアストレアのビームランチャーの同時攻撃も耐えきって見せた。


「もう1発いくぞ!」

「駄目です、間に合いません」


 3つの塊が宇宙空間に放出される。

 大きさは、ソリッドトルーパーだとするならば大きすぎる。タイラント系の機体だとしてもその姿は異様だ。


「あれだけのものだとは思えないが……!」


 照準を急遽変更。キャスパリーグ級戦艦ではなく、そこから出てきた金属の塊に狙いを定め、引鉄を引く。

 ハイペリオンの両肩越しに放たれた高出力ビームが塊を直撃。ビームは容易に貫通する。

 が、その際に起きる爆発があまりにも大きかった。


「ッ!?」


 まるで、核爆発。

 大規模な爆発を起こしたその塊は、自身を排出した戦艦すら飲み込んで周囲に衝撃波をまき散らす。

 衝撃波に押し退けられた他の2機はもちろんだが、ハイペリオンとアストレアもそれから逃れるために後退を余儀なくされる。

 その間にも、爆発によって発生した衝撃波の直撃をうけた艦隊はシールド越しに弾き飛ばされ衝突。互いのシールドが干渉し合うことで多大な負荷がかかったのか、シールドジェネレーターがバーストして艦内で爆発が起きる。

 もはや艦隊はドミノ倒しのような自滅の連鎖に陥り、こちらが何をしなくても勝手に沈んでいく。

 が、そんな中でも残った2つの塊が姿を変え始め、アッシュとベルの前に立ち塞がる。


「……あちらさんも、それなりに戦えそうな機体持ってるじゃあないか」


 それは、四肢を持つ、頭のない人型。

 機体の胸の部分に巨大な球体を埋め込まれたような異形の機動兵器が、ここに降臨する。

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