第175話 新型機運用テスト

 空中で行われている激戦はともかく、格納庫から出てきた4機目のクラレントMk-Ⅱマークツー。その背中には、他のクラレントと異なりウイングバインダーが存在しないが、全体的なフォルムは1号機ハイペリオンと2号機アストレアによく似ている。

 これこそが、本来の仕様。量産を前提とした設計のクラレントMk-Ⅱマークツー

 開発責任者シルルが1号機の設計に手を加えた結果、比較的標準的な設計であるアストレアとの性能比較に適さない機体となってしまったため、1号機本来の設計仕様で造られたクラレントMk-Ⅱマークツーの4号機である。

 そしてそのテストパイロットを務めるのは――メグ・ファウナである。


「僕はソリッドトルーパーの操縦は不得手なんだけどねえ」


 にもかかわらず、なぜテストパイロットをさせられているのか。

 その理由は単純である。

 まず、搭載された操縦支援OSの性能実験のために、一定基準以下の操縦技術の人間であること。

 そしてこのOSが、おそらくではあるが滅茶苦茶な動きをさせるであろうことから、その動きに振り回せても耐えられそうな人間であること。

 この2つが理由だ。

 なにせこのOS、アッシュとベルの操縦を元にして支援OSとして搭載している。

 並みの機体ではパイロットの反応速度に対応しきれないような操縦をする2人の戦闘データを元に作られたOSが、素人の反応に対してまともな反応をする訳がない。


『聞こえるかい。メグ』

「はいはい。こちらメグちゃん、今コクピットの中にいるのー」

『……』

「無視しないでくれたまえよシルルちゃん」

『少なくともお前さんよりは年上だ。……惑星ベンダーの生き残りだとしてもな』

「昔の話だよ」

『200年前に滅んだ惑星だぞ。ベンダー人がそこまで長生きだと思わなかった』

「ベンダー人は自分達を改造しすぎたんだよ。僕みたいにね」

『そのあたりは深く追求しないでおこう。早速だが、テストを開始するぞ』


 無人操作のクレストが現れ、銃を構える。


「実弾は?」

『入っていない。ペイント弾だ。だが、当たればそれなりの衝撃があるぞ』

「まあ、それはそうか。で、何を?」

『その機体にも同じようにペイント弾が装填されたライフルが装備されている。あと、本来はビームソードを装備しているが、今回はスタンロッド。各武装1回以上使ってほしい』

「理由は?」

『射撃の時のデータと、近接戦闘でのデータが欲しい』

「了解」


 攻撃のためにクレストがライフルを構える。

 そして、発砲。それを避けようとしたメグだが――機体の方が勝手に動いた。


「うわぁっ!?」


 バックステップで飛び退き、着地する寸前で背部のスラスターで減速を行うとともに脚部のスラスターを噴射させて地表をすべるように移動しつつ回り込むように弧を描く。

 回避としては間違った動きではない。

 だが、銃口が向いた瞬間から回避のために機体が動き出し、パイロットが攻撃を認識して動き出そうとしたときはスラスターの噴射が始まっていた。

 いくらなんでも早すぎる。

 これでは扱いにくいなんてものではないし、意図しない加速はパイロットにとって負担になる。


「待って、これやばい!? ていうか、機体のステータスもモニタリングしてるんよね!?」

『まあうん。正直、予想以上にOSの補正が強くて驚いてる。すぐ調整するから、もう一度頼めるか?』

「頼むよ、本当……。こんなのが正式採用機とか頭いかれてるとしか思えないね」

『設計担当としては遺憾である。が、現場の声を聴かないとこういうことになるといういい例だ。以後反省はしない』

「しないんだ」

『いいかい、メグ。量産機というのは、超ハイスペックな機体を誰にでも扱えるように性能をデチューンした機体の事を言うんだぞ』

「それはごく一部の例であって、大半はそうじゃないと思うよ」



 惑星ネクサス――地表から30キロメートル上空。

 そこで戦う3機の機体。

 互いにビームを撃ち合い、徒手空拳に重力場を纏わせた一撃を、同程度の重力場で相殺。そのまま手を弾いて押し返す。

 一歩も引かない3機は、ぶつかり合うようにビームソードを展開して急接近。

 3つの光の刃が重なり、火花を散らすなり弾ける様にして同時に下がる。

 当然だ。

 ビームソードの刃は、重力場で作った型の中にビームを照射し続けることで刃を形成している。

 それを他の重力場と衝突させれば、当然反発して弾き合うし、無理やり押し付け合えば今度は重力場が崩壊し、それに伴い中に収められていたビームが散弾のように飛び散り、機体の装甲に穴をあける。


「このくらいで基本装備の運用テストはいいか」

「ですね」

『でも、さすがにボクの固有装備と固有機能のテストはできませんね』


 クラレントMk-Ⅱマークツー3号機ネメシス。

 1号機ハイペリオン、2号機アストレアと大きくシルエットの異なるこの機体の固有武装は、エクスキャリバーンにも搭載されている重力衝撃砲グラビティブラスト

 威力は据え置きだが、それでもソリッドトルーパーの範疇に入る機体ではその重力兵器の搭載は破格の攻撃力と言える。

 故に、テストとはいえ有人機相手に攻撃することはできず、ネメシスを操るアニマはここで下がる。

 通常装備である腕部のビームガン兼ビームソードのデータは十分に取れたはずだ。

 残るは1号機の変形機能のテスト。そしてその相手は標準的な機体に近い2号機が務める。


「ベル、行くぞ」

「いつでもどうぞ」

「んじゃ早速いくか」


 1号機が変形を始める。

 高速飛行形態。大気圏内での空気抵抗を抑え、かつ推進器の方向を1方向に集中させることで直線方向への加速性能を向上させた形態だ。

 本体は寝そべるようになり、持っていたシールドは頭部と胸部を覆い隠して機首に。ウイングバインダーはそのまま主翼。下半身は反転して脚を曲げてメインスラスターとなる。


「変形は問題ない。あとは……これを実戦でどこまで使えるか、だ」


 高速飛行形態となったハイペリオンがアストレアめがけて突っ込む。

 主翼部分の高出力ビーム砲を連射しつつの接近。それに対し、アストレアは左手を突き出して重力場を展開。それによって攻撃の軌道を歪めることで攻撃を受けきり、右手に握ったビームマシンガン――否、2つのビームマシンガンを連結させたビームランチャーで反撃を行う。

 反撃として飛んできたビームランチャーの攻撃に対し、ハイペリオンは機体を反時計回りに回転し、横へ統べるように移動しながら変形。即座にビームライフルでの反撃を行う。

 今度はアストレアもビームを回避し、ビームランチャーを分解。両手にビームマシンガンを持ち、ビームの弾丸を連射。弾幕を展開する。

 その閃光の豪雨に対してアッシュは回避不能と判断。自身の機体を重力場で覆い防ぐ。


『すごい……』


 どちらも本気。ビームの出力も一切絞っていない。直撃すればどちらも死ぬ。

 仮に脱出したとしても、この高度だ。酸素なんてほとんどないし、そもそも機体サイズの関係で脱出装置が採用されない事の多いソリッドトルーパーの場合、空中での脱出はほぼ自殺に近い。

 にもかかわらず、アッシュとベルの2人は本気で殺し合いを演じている。

 互いの実力を測りながら、次の攻撃には耐えられるだろうかと思案しながら、戦闘は次第に苛烈さを増していく。

 光の刃が何度も衝突する。互いの装甲を拡散したビームの粒子が焼く前に離れ、距離が開けば即座に銃撃戦。

 だが、互いに攻撃が致命傷にならない。

 バイタルエリアに当たりそうな攻撃はすべて重力場による防御。

 それ以外は基本回避。徒手空拳を使おうとすれば、相手も同じように徒手空拳で対応。

 実力は拮抗している。

 いつまでも続けていられそうな、その戦闘を記録しているアニマは、幾筋もの閃光が飛び交うその光景を、美しいものであると感じていた。

 だが、そんな光景も終わりが訪れる。


「あっ」

「しまった……」

『って、ええっ!? なんで急に落下を……あっ』


 高機動戦闘を行えば当然その分大量の推進剤を消耗する。

 かつ短期間でバカスカビームを発振させまくり、重力場を何度も発生させれば、ジェネレーターからのエネルギー供給が間に合わない。

 ようするに、完全なガス欠である。


『クラックアンカー射出!』


 ネメシスの背部ユニット。まるでコウモリか翼竜の翼――より正確にはその骨格を思わせる左右3基ずつ計3対の槍型のパーツが射出され、本体と繋がるワイヤーを2機に絡めて引っ張り上げる。


「いやあ、助かった」

「お手数おかけします」

『勘弁してくださいよ、本当』

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