開戦前
第174話 Mk-Ⅱ
アクエリアスの事件の後、世界は大きく動いた。
まず、今まであまり表に出ていなかったウロボロスネストという組織の存在が公表。彼等が関わったと思われる事件の一覧も公開された。
特に衝撃的であったのは、惑星国家アルヴの女王とウロボロスネストの構成員が入れ替わっていた、という事。
さらには惑星サンドラッドへのPD-01投入。これも大きな話題となった。
勿論、情報ソースはミスター・ノウレッジ。宇宙で最も信用のおける情報屋からのリークである。
尤も。その情報も元はそれらの多くに関わってきた『燃える灰』からミスター・ノウレッジに提供されたものであるが。
そして古代兵器ゾームによって環境が維持されていた惑星アクエリアスであるが、ネクサスが惑星連盟に提出した資料通り、徐々にではあるが海洋環境が悪化し、生物の大量死が確認され、惑星中の酸素濃度の減少も確認できている。
緩やかに滅びへと向かう惑星。当然、廃星へ一直線。早急に脱出計画が組まてはいるが――まあ、案の定完全にパニック状態。
次々と惑星を離脱し、最寄りの惑星への避難をするものが大多数。惑星連盟の救助艦隊を待たずして、人口の4割程度が母星を脱出したという。
それに対し、なぜか批判を受けるネクサス。
回避不能な結末ではあったとはいえ、その猶予を短くしてしまったのは間違いなくあの場に居合わせたエクスキャリバーン――つまり、惑星国家ネクサス所属の艦艇である。
ある程度の批判を受けることは当然と言えば当然の事だろう。
「全く。アタシ達がいなけりゃその猶予すらなくみんな塵すら残らず消し飛ばされてたかもしれないってのにね」
UNN《ユニバーサルネットワークニュース》の記事を見ながら、マコは言う。
実際、そのあたりの話はまるごと切り捨てられ、まるでゾームを倒した事そのものが問題であったかのような書き方をされている。
報道の自由、とはよく言ったもので、よりキャッチ―で読者が喜ぶような嘘は言っていないが正確でもない、という絶妙なラインであるため、訴えたところで状況は好転することはない。
無論、しないよりはマシであるし、そもそもウロボロスネストがゾームを覚醒させなければこんな事態は起きていなかった。
『しかし、ただの荷電粒子砲がそこまでの威力を持つものなのか?』
「モルドが居なかったらアタシ達もヤバかったよ」
『――――』
と、なぜか居ついたモルドがネクサスの工廠の窓から中を覗き込み、サムズアップをする。
『……あれは、エアリアに戻らないのか?』
そんな巨人の存在に、レジーナはやや困惑しながらマコに訪ねる。
まあ、目の前で始祖種族の遺産の1つであるオームネンドが動いているのだから、困惑しないほうがおかしいともいえるが。
「まあ、ネクサスはようやく自国の兵器を製造可能になった、って段階だからねー。アレがいるだけで首都防衛は万全だってさ」
『どんな超兵器なんだアレは』
「キャリバーンに搭載されてる縮退炉あるじゃん? あれを敵からえぐり出したのがモルドなんだって」
『……なるほど』
「それはそうとして……なんでアロンダイトが量産されてるのさ」
工廠の中で組み立てが行われている無数の機体。
その大半がアロンダイト――正確にはそのSpec2と呼ばれる仕様のもので、改良後後2回目の戦闘でぶっ壊れてアクエリアスの海に沈んだ機体と同型の外見をしている。
『これらは戦闘支援用の機体だ。それに、クレストをベースとした機体とは異なり、これらのアロンダイトは
「え、でもSpec2通りの性能だったらコストはかなり――」
『
「装甲と電子戦性能以外はSpec2以上。理想的な量産機ではあるね。完全量産化ってやつ?」
『そういうことだな。っと、出て来たか』
工廠の横に併設された機体格納庫。そこから3機の機体が固定されたまま運び出される。
「あ、最終調整終わったんだ」
『1号機ハイペリオン、2号機アストレア、3号機ネメシス。そのパイロットは――』
「アッシュ、ベル、アニマ。でしょ?」
『そして今から、摸擬戦形式で稼働テストを行う』
「……は? いやいや。それってせっかくの新型機を早速ぶっ壊すってこと!?」
『流石にそこまでは――』
しないだろう、と言い切ろうとしたレジーナだが、なんだかんだで付き合いが長くなってきた彼女自身、アッシュ達ならやりかねないと。
『止めるべきだったか?』
「いいや。どうせ本気でやっちゃうでしょ。アレ。流石にバイタルエリアへの直撃だけは避けるとは思うけど……」
瞬間。3機が同時に飛び上がり、互いに武器を向け合う。
ハイペリオンはウイングバインダーに内蔵されたビーム砲をアストレアに、右手に持ったビームライフルはネメシスに向ける。
アストレアは両手のビームマシンガンを、ネメシスは両の掌底部分に内蔵されたビームガンをそれぞれに向け合う。
三角形を描くような恰好でにらみ合う3機。
と、同時に閃光がすべての銃口・砲口から放たれ、それらすべては各機の展開する重力場の障壁によって歪曲ならびに拡散され、本体に傷1つ付けることなく霧散する。
それまではいい。
問題なのは、その攻撃の出力があきらかに高すぎるということだ。
『あの3人、バカなのか!? 下手をすれば一撃で相手を吹き飛ばすレベルの火力だぞ!?』
「ていうか、通信機ッ!! あんなのが地上の施設に当たったら洒落にならない!」
相手に当たっていて、かつそれが無効化されているからいいようなもの。
ビームの性質上、当然熱を持っている。そんなものが未だ大部分の開拓が進んでいないこの緑あふれるネクサスの大地に着弾したらどうなるか。
言うまでもなく、大火災である。そうでなくても、建造したばかりの施設に命中して新型機の生産ラインをぶっ壊しでもしたら目も当てられない。
「こらそこの3人! ビームでドンパチやるならもっと地上から離れてやれ!!」
『そもそも出力が高すぎる。互いを殺すつもりか!?』
が、その返答は――3機が工廠のほうを向いて頭を下げ、そのまま急上昇、である。
「……なんか腹立つな。後でシバくか」
『示し合わせたような動きだったな、今の』
「というか、テストだよねこれ。なんでマジのビーム撃ち合ってるのさ……」
『そこは知らん。いや、まあネメシスはあの手だから仕方ないが……』
ビームの閃光が真昼の空に幾筋も伸びていく。
それがあの3機のクラレント
そしてそれはかなり激しく、本当にどれか1機が撃墜されてしまうのではないか、と思えるほどだ。
「モルド、最悪アンタがアレを止めてよ?」
『――』
サムズアップが返ってきた。
多分、了承してくれたということだろう。
モルドは空を見上げ、3機の戦闘を眺めている。
「で、あの3機だと正式量産機用のテストベッドにならないから、って作った4機目のテストは誰がやるのさ」
『私はマコがやるものだと思っていたが……?』
「いやいや、アタシは無理でしょ。それに戦闘になると基本操舵にかかり切りだし、使う事ないんじゃないかな」
『と、なると……彼女か』
「彼女、って……えっ、ちょっと待って。まさかとは思うけど……メグ?」
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