第173話 新たな力の目覚めは近い

 惑星アクエリアスから惑星ネクサスへと帰還したエクスキャリバーン。

 その艦体そのものにはほとんど傷はないが、艦載機に関してはボロボロ。

 主戦力であるクラレント、フロレント、アロンダイトの3機を失い、予備機であるクレストもその多くを失った。

 損失額でいうと――いや、計算するのも嫌になる。

 執務室でマルグリットは頭を抱える。

 あの時はああするしかなかった。他の案を出している時間的余裕もなかった。

 それは理解できている。理解している。それはそれとして、戦力の大幅減というのが痛い。


「シルル。新型機についてですが」

「ウチの製造速度をナメちゃ困るね。すでに稼働可能状態だ。パイロットも1号機がアッシュ、2号機がベル、3号機がアニマを想定している」

「急いでください。それに、量産化も」

「ああ。アルヴに卸した機体の時点で量産用のデチューンは完了している。クラレントの量産計画は順調さ。それよりも、だ」

「惑星連盟からの通達、ですよね」


 惑星アクエリアスの異常の原因。それが始祖種族の生み出した古代兵器ゾームが原因であると伝え、それを起動させたのがウロボロスネストであると、惑星連盟には伝えたが――当然、それについての詳細報告を催促されている状態である。

 とはいえ、マルグリットとしても説明できることは説明している。

 何より、下手にあのままアクエリアスに残り調査を行えばそれこそ越権行為だと言われかねない。調査に関しては、惑星連盟に丸投げするのが一番波風が立たない。


「まあ、こちらとしても得た情報はほぼすべて開示して、惑星のタイムリミットについてのこちらのシミュレーション。ゾームを機能停止させなかった場合の被害予測も提出済み。そしてあの時我々があの場所にいた理由も説明済みなんですけどね」


 あの時、惑星国家ネクサスの戦力であるエクスキャリバーンとその戦力が惑星アクエリアスにいた理由。

 それは、惑星ネクサスを発見する切っ掛けになったハイパースペースまで追跡してきた艦艇の船籍がアクエリアスであり、それが発覚したタイミングでアクエリアス側に妙な動きが見られたため、それらをあわせて調査するために現地へと向かったからだ。

 尤も。ウロボロスネストが出現してそのどちらもうやむやになってしまったのだが。

 ただ状況証拠ではあるが、解っている事もある。

 アクエリアス側は、古代兵器ゾームの存在を知っていた。そしてあの重力場で守れられた空間の事も知っており、それを突破する手段として、ネクサスが――あちら側としては『燃える灰』がネオベガスで使用した重力兵器を欲していた事。

 そして、その結果もたらされるであろう惨劇について、理解しないままそれを行おうとしていた事だ。


「ウロボロスネストがどうやってゾームを起動させるほどの刺激を与えたのかは不明ですが――」

「ああ。それについては推測なのだけれど、奴等は始祖種族のテクノロジーの一部を利用している、と私は考えている」

「その根拠は――いや、うん。わかる。わかりますよ。撤退の時のアレですよね」


 空間転移。それをソリッドトルーパーサイズの兵器で実現できた、という話はシルルは聞いたことがない。

 エーテルマシンならば短距離の空間跳躍が可能であるが、それをやったところで10000メートルもの海底からそれを使って離脱したところで、水圧で潰される程度の距離の移動しかできない。

 そもそも、霊素が存在しない水中に転移してしまった場合、それを動力とするエーテルマシンは身動きが取れなくなってしまう為、その技術をあれらの機体に搭載していたとも考えにくい。

 状況証拠からして、既存技術以外のなんらかの技術が搭載されているという結論へと帰結する。

 シルル自身、あまりにも短絡的な考えではあると思っているが――それにしては、今までのウロボロスネストの関与が認められた惑星、具体的にはエアリアとアルヴであるが、その2つでは古代遺跡を調査していた可能性が高い。

 尤も、エアリアの場合はオームネンドや機械偽神が暴れまわった結果、最低限しか得られなかっただろうが――アルヴは違う。

 マコとアニマが向かい、正規軍と革命軍の内戦を終わらせるまで、ウロボロスネストの構成員であるナイアが女王エル・アルヴと入れ替わっていたのだ。その間、どれだけの遺跡を調べ上げたのか、見当もつかない。


「彼等は私達が縮退炉を得たように、それに代わる何らかの技術をソリッドトルーパーに投入しているんだろう。しかも、あのサイズでそれを可能とするんだから――正直、コスト的にはあっちのほうがより優れたものを持っているんだろう」

「……それに、勝てるんでしょうか」

「勝つさ。そのためのクラレント量産計画。ネクストクラレント計画だ」

「ネクストクラレント……えっと、あの、ですね。シルル」

「何かな」

「絶妙にダサい」


 マルグリットのその一言で、シルルが固まる。


「いや、まあ、うん。それは私も思っていたさ。ただ、クラレントMk-Ⅱマークツーというのも味気ないし、ネオとかニューとかもつけたくはないしねえ」

「正式名がクラレントMk-Ⅱマークツーで、各機に個別で愛称をつければいいでしょうに」

「ああ、その手があったか。そうだな……」


 しばらく考え込むシルル。

 その思考を今は別の事に使ってほしいとも思うマルグリットではあるが、こうなると答えが出るまで考え込む人間であることも理解しているので、あえて口は出さずに放置する。


「1号機ハイペリオン、2号機アストレア、3号機ネメシス、かな」

「ハイペリオンだけ男性神ですね」

「ウチの母国では機体に女性神か鳥の名前をつけるというのが伝統的、なんだけど……まあ、流石に各機に搭載したものがそれに似つかわしくなくてねえ」

「……ちょっと待ってください? わたくしが確認した時点でそこまで問題のある設計はなかったはずですが?」


 しまった、という顔をしてあからさまに目線を逸らすシルル。


「またやったんですか!?」

「いやいや。1号機はアッシュにあわせて汎用性を突き詰めて設計図通り――ではなく変形できるようにしたな。でも2号機は仕様通りだ。3号機は……うん単独で重力衝撃砲グラビティブラストを使えるようにした」

「1号機と3号機の魔改造が過ぎる!! なんで? ねえなんで!? なんでいつもそうやって余計な工程を増やすんですか!? 予算足りてます? それ、予算内で収まってるんですよね!?」

「いやまあ、うん。1号機の仕様変更したから性能比較できなくなったからもう1機当初の設計通りの機体を組んだから思いっきりオーバーしたね」

「シぃ~ルぅ~ルぅ~!!」


 資金は潤沢、とは言えないまでもある程度余裕はあるが、そうも気軽に使われてはたまったものではない。

 これで結果がでないのならばまだ文句を言えるのだが、シルルの場合はそのオーバーした資金分以上のリターンがあるのだからそれも言いにくい。

 何せ、クラレントMk-Ⅱマークツー重力制御機構グラビコンを採用し、それを攻撃に転用することも想定。全機が重力兵器を運用可能というのが、開発計画が立ち上がった当初からの計画。

 事実、現在完成した機体もそれらが可能である。

 1号機ハイペリオンと2号機アストレアはGプレッシャーライフルの運用が。3号機も本来は専用の重力兵器を携行する予定――だったのが、まさかの単独でそれができるように設計変更されていたとは、完全に想定外。

 たった12メートルと少しの機体にそれだけ盛沢山やれたことを評価すべきか、毎回無断で予算オーバーしてくることを非難すべきか。


「シルル。予算オーバーは仕方ないとして、しそうなときは事前に申告してください。会計担当の胃に穴が開く前に」

「……善処しよう」


 目線をあわせてくれない。これは駄目そうである。

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