第171話 重力衝撃砲

 静止した時間が過ぎる。

 モルドによって動きを封じられたゾーム。

 万が一に備えてその周囲を周回しているエクスキャリバーン。

 全く動きがないまま、時間だけが過ぎていく空間。

 その状況を動かすのは、エクスキャリバーンであった。


 次々と開かれれるエクスキャリバーン各部のハッチ。

 そこから自力の推進装置を使って飛び出す30機以上のクレスト。

 小型兵器であるソリッドトルーパーとはいえ、それだけの数を単独の艦艇で搭載し、運用するのは困難である。

 だが、エクスキャリバーンはあくまでも4隻の艦艇がドッキングした高機動戦闘要塞である。

 かつ、それだけの機体を同時に扱えるだけのも存在している。


「クレスト隊、出撃!」


 マリーの号令にあわせ、一気に加速。ゾームへと向かっていく。

 相手の攻撃手段が荷電粒子砲1つだけで、それをモルドが塞いでいる為、迎撃はない。

 妨害もなく、そのままゾームの頭部へと張り付いていくクレストたち。


「アッシュさん!」

「ああ。重力衝撃砲グラビティブラスト、出力及び効果範囲設定。エネルギーチャージ開始」

「シルルさん、ベルさん、タイミングはお願いします」


 任された、と頷くシルルとベル。

 シルルはモルドへの指示。ベルは重力衝撃砲グラビティブラストのトリガー。

 タイミングがずれると、すべてが瓦解する。失敗は許されない、問答無用の一発勝負。

 現状が維持できているのは、あくまでもモルドの力でゾームを抑え込んでいるから。

 その均衡を崩した瞬間、アレは暴れ出す。

 クレスト隊がゾームにたどり着き、その頭の下に回り込んでとりつく。


「……ここからが、勝負、だね」

「ダッド、マム、グランパ、グランマ。作戦開始!」


 マリーの指示を受け、クレスト隊の全身が青白く光りはじめる。

 アニマが見せた、アストラル体が持つ不思議な力。それを発現させ、ゾームの下顎を一気に押し上げる。


「モルド! 腕を突っ込め!!」

『!!』


 ゾームが片手を離し、それを空間跳躍用ゲートに突っ込む。

 拘束する力が弱くなったことで抵抗しようとするゾームだが、片手で上から押さえつけるモルドと、下から押し上げるクレスト隊の力によって口は開かれず、強い力がかかっていることで依然として身動きはできずにいる。

 そんなゾームの中に、直接モルドの手が突っ込まれる。

 瞬間、途絶していたマコとアニマとの通信が回復する。


「マコちゃん、アニマちゃん、ビーコン発信して!」

『えっ!? なんでですか?』

「いいから。早く!!」


 メグが叫ぶ。突如回復した通信に戸惑いながらも、アニマが現在位置を知らせるビーコンを発信。

 その信号を受信したエクスキャリバーンのシステムとシルルが即座に分析に入り、彼女等の現在位置を割り出そうとする。


「メグ、手伝ってくれ! あとマコとアニマはその場から動くな! アッシュ、まだか!」

「チャージは完了。いつでも行ける。効果範囲も限界まで絞った。安全圏は500メートルオーバー」

「最低でも500メートルは離れた位置を撃ち抜かなければならない、ですか」


 照準をあわせる手が震えそうになるベル。

 だが、何度か深呼吸を繰り返し、思考を切り替えて集中していく。


「っ!? まずいぞ、クレストの推進力が落ち始めた!」


 アストラル体による機体性能の強化は機体の性能を跳ね上げる代わりに、多大な負荷をかける。

 当然それは機体の性能にもよるが、クレストの場合はかなり短かったようだ。

 全身が青白い光に包まれてはいるが、エンジンが悲鳴を上げ煙をあげはじめ、見るからに出力低下しはじめ、ゾームの口が少しずつ開こうとしている。


「ベルッ!!」

「照準セット。重力衝撃砲グラビティブラスト、照射ッ!」


 クラレント用の携行装備として生み出されたGプレッシャーライフル。あれと原理はほぼ同じで、より高出力・広範囲に商社が可能になったのが、この重力衝撃砲グラビティブラストである。

 本来は広範囲の敵を一掃するための装備であるが、それを限界ギリギリまで集束させ、多重積層超高重力場の一点集中照射する。

 その威力は――古代の超兵器の装甲を砕き、飲み込み、捩じ切り、押しつぶして直進。内部を蹂躙してもなお止まる事なく、その身体を一直線に突き破った。



 何かが通過した。

 それを感じたのは、自身らを守るように現れた巨大な手と、その向こう側に吸い寄せられそうになった感覚。

 途絶していた通信が回復してからの会話は全て聞いていたマコ達は、何が起きているかを何となくではあるが理解できた。


「アイツ等、無茶してくれるなあッ!!」

重力衝撃砲グラビティブラストをピンポイントで発射して、侵入経路を形成。このくらいなら、すぐに移動できますね』

「いやいや、そういう問題じゃなくてだな」


 着弾地点から半径500メートルの位置。それが今回発射された重力衝撃砲グラビティブラストの効果範囲。それが目と鼻の先にある。もしそれよりも近い場所に着弾していたら、マコ達も重力場に押しつぶされていただろう。

 そう考えるとギリギリすぎる綱渡りである。

 が、おかげで進入路を探す手間が省けた。


 巨大な手が離れ、空間に空いた穴へと引っ込んでいく。

 それにあわせ、アニマがマコを抱きかかえ、両足に仕込まれたスラスターを展開。全開にして上昇。破損した断面へと着地し、下を覗き込み、上も確認する。


『おそらく、下の方が目的地に近いでしょうね』

「頼める?」

『勿論』


 機体中央部にある巨大な空洞。そこへと飛び降りつつ、スラスターで落下速度を落としていく。

 ゆっくりと、ゆっくりと降りていく。

 ほどなくして、目の前に壁が出現する。

 とりあえずはそこに着陸を、と姿勢を変えた途端、急に壁に大穴が開いて2人を招きいれた。


『うわあっ!?』


 姿勢を崩しかけたが、なんとか姿勢を保って部屋の底へと着地する。


「大丈夫?」

『何とか。でもこの部屋……』

「多分、統括システムが言っていた機体の制御を行っている場所、だろうね。けど――」

『はい。ここを作った人間は何を考えていたんでしょうか』


 マコとアニマは呆れたように苦笑する。

 コンソールらしきものが自分たちの頭上にある。

 さらには足元にはモニターらしきものがあり、そこに解読不能な文字で現在の機体のステータスらしきものを表示している。

 周囲の壁も同様。ただ、自分達の前と後ろの壁にはそれがない。

 まあ、ようするに。機体が蛇のように自由自在に姿勢を変えるのに、それを考えずに設計。鎌首をもたげた時点で床と天井が重力方向に対して垂直になってしまって中に人が入って操作することができなくなってしまっている欠陥構造である。


「とにかく、アタシはアタシの仕事をしよう。悪いけど、あそこまで連れて行ってくれる?」

『そうですね。それに、脱出も考えないとですし』


 上を見れば、まだ入り口は開いたまま。

 どんな原理であれが開いたのかはわからないが、おそらくマコに反応したんだろうとアニマは推測した。

 そして、マコがゾームの機能を停止させたとき、あの出入口が開いたままである保証がないとも考える。

 とりあえずはマコを抱えて上昇。本来あるべき角度から90度傾いたコンソールの上に着陸。マコの両手をコンソールに触れさせる。

 すると、コンソールに光が灯り部屋を1周するモニターが放つ光がひときわ強くなる。


『どうですか?』

「……解る。できる。けど、段階的にやらないと拙いかも」

『段階的、ですか?』

「いきなり動力を止めたら自爆するようになってる。まずは、荷電粒子砲への出力供給カット。火器管制シャットダウン。機体の姿勢制御機能をロック。駆動系統掌握。以後一切の動作を禁止――」


 初めて触るはずのものであるはずなのに、マコは今から行う動作を口に出しながらゾームの機能を掌握していく。

 ほどなくして、ゾームの全機能が停止する。


「……最後に。全動力炉、30秒後に停止。アニマ!」

『! はいッ!!』


 アニマがマコを抱きかかえ、フルパワーでコンソールを蹴って跳びあがってからスラスターを全開にして急上昇。自分達が落ちてきた入口を抜けて管制室を離脱する。

 その後も上昇を続け、マコが設定した時間通りに動力炉が停止。それにあわせて管制室の入り口が閉じられた。

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