第170話 ゼロに近い可能性に手を伸ばして
どれだけ進んだのだろう。
激しくうねる機体の中を、四肢を通路に突っ張ったアニマにおぶさるようにして機体の中を進む。
通路として使っているこの場所は、おそらくではあるがメンテナンス用の通路ですらない場所。
破壊した場所から中に飛びこんだものの、内壁を破壊して進むこともできず、ひたすらに奥へと進み、あるはずのものを探すマコとアニマ。
クラレントの自爆によって発生した大穴は、荷電粒子砲の周辺。人工物――特に兵器ならばあってしかるべき、メンテナス用ハッチ。それさえあればより安全な場所へと進めるはずだ、と信じている。
それよりも懸念すべきは、ゾームが海中に潜られた時に自分達であけた大穴から大量の海水が入り込んでくることくらいだが……まあその点では問題ない。
マコはアクエリアス人であり、水中であっても呼吸が可能だ。
問題なのは深度。この巨体でありながら短時間で1万メートル以上を浮上できるバケモノ兵器だ。当然その逆も可能なはず。
そうなると、生身でそこまでの深度の水圧に耐えられる訳がなく、マコは当然死ぬし、流石にそこまでの深さとなるとアニマも消滅はしないが、自力で海面まで戻ることは困難だ。
「で、見つかった?」
『一応は。ただ、その先にあるのが制御室かどうかはわかりませんよ』
「それはそうと、揺れはするけど安定しているのは――」
『外でモルドが抑えてくれているんでしょう』
「なら、さっさと目的地までたどり着かないとね」
そうはいうが、すでにかなり移動したと思う。
方向感覚も時間間隔も失われるような密閉空間。
そこを、アニマの宿ったバトルドールのセンサーを頼りに進んでいく。
だがその道が正しいのかどうか。それすら判断ができない。
なにせ構造がさっぱりだ。
蛇の様な機体を制御するための部分はどこにある。
荷電粒子砲を搭載している頭部はない。精密機器である制御装置を、強烈な熱と電磁波に襲われるであろう頭部にそんなものを搭載する訳がない。
だったらどこに仕込む。
最後尾か? それはそれでありえない。
オームネンド統括システムの言葉を信じるのであれば、ゾームの全長は惑星をぐるりと1周できるほど。
そんな巨体を制御するのに、末端部にそんなものを搭載するだろうか。
センサー類からの情報伝達速度も、端から端までどれだけかかるか。
「……やっぱ中央かなあ」
『中央……どこでしょうね』
「わからない。わからないけど……進むしかないだろ」
◆
ゾームの頭部を抑え込み、動きを封じるモルド。
だがそれも限度がある。あくまでもモルドが防げるのは、荷電粒子砲の砲口たる口が開くのを強引に抑え込むことくらい。
それ以外の部分は完全に自由で、暴れまわろうするが、下手に動けば唯一の武器である荷電粒子砲そのものを破損させかねない為、抵抗する動きは鈍い。
よって――奇妙な静寂がその場にはあった。
「システム、ゾームの設計データなんかはないのか」
『私はあくまでもオームネンドの統括システムです。概要は把握していますが、設計図となると流石に』
「ならお前の推測を聞かせろ」
『あれだけの巨体ならば、複数個所の制御区画を連動させていると考えられます。そのうちいずれかに到達できれば目的は達成可能であると考えられます』
「配置は大体等間隔、かな。重量バランスもあるだろうし」
と、なると大体の推測はできる。問題はそれを突入したマコ達に伝える手段がない。
ゾームの中へはこちら側からの通信が一切つながらないのだ。
通常の電波だけでなく、エーテル通信もシャットアウト。
大穴が開いているのに、届かない。
「これ、直接乗り込むのが早くないか?」
「だとしたら乗り込むのなら俺かベルだな」
と、アッシュは即断。ベルもそれを了承する。
理由は単純。エクスキャリバーンの操縦はシステムだけでもどうにかなる。
マコの操縦を再現するのならば、シルルがいればその補助だってできる。むしろシルルはそれ以外にも解析などの仕事がある。
そしてマリーはアッシュ同様に艦の指揮はできる。が、アッシュと異なりソリッドトルーパーの操縦はできない。
つまり、現状において抜けても問題のない人間かつ、戦場に飛び込めるのはソリッドトルーパーの操縦ができるアッシュかベル、という事になる。
「とはいえ、君たちの操縦に耐えられるようなチューニングがされた機体は存在しないぞ」
「え、それって結構ヤバイんじゃないのかい?」
「ヤバイなんてものじゃないぞメグ。この2人の操縦技術はクレスト程度では対応しきれない。正直、足枷だな」
アッシュの操縦に対応できていたクラレントはさっき自爆させた。ベル専用に調整されたフロレントも、海底でのウロボロスネストとの戦闘で失われた。
残る予備機は全部クレストが数機と、それらの大気圏内での行動範囲を広げるためのフライトユニット。
クレスト自体、改造の容易さと拡張性の高さを兼ね備えた素材としては優秀な機体であるが、性能としては物足りないものがある。
いくらフライトユニットで機動力を高めたとしても、基礎性能に変化がないのだから今のエクスキャリバーンに2人の操縦に追従できる機体は存在しない。
「あのっ!」
頭を悩ませるブリッジメンバーの中でマリーが声を上げた。
「オートマトンに入っているアストラル体の皆さんにも協力を仰げないでしょうか」
「? マリー。策があるのかい?」
「モルドの力でゾーム内に穴をあければ通信も可能ですよね?」
「えっ、いや、それは……可能、ではあるが。現状は不可能――いや、そういうつもりなのか、マリー!?」
マリーは微笑み、艦内全域放送のスイッチを入れる。
「全オートマトンに通達!! 現在エクスキャリバーンに残っているすべてのクレストを実戦に投入します! したがって、志願者は直ちにクレストに憑依。フライトユニットを装備して突撃。ゾームの動きを封じます!」
「マリー……お前」
「これなら、2人とも無理にあそこへ行かなくても済みますよね?」
「あ、ああ。それに、でかしたマリー! モルド、こちらの援軍がゾームに取り付いたら、空間に穴をあけて直接片手をヤツの身体に突っ込んでくれ!! 一瞬だけでいい!」
シルルも何やら作戦を思いついたようだ。
「マリーのほうはわかる。だがシルル、お前は何を思いついた!」
「
「それで制御室を破壊したらどうするつもりだ?!」
「だからイチかバチかもいいところなんだ。けど、重量バランスを考えれば、機体中央にあるのは間違いない。そして、本当に制御システム同士を連動させているならば、一直線上に並べている可能性が高い」
「けどそれは……」
オームネンド統括システムから提供されたあやふやな情報を元にした作戦。
そんなものは作戦とは呼べないし、イチかバチかなんてものではない。
むしろ、やらない方がマシなレベルだ。
「だが失敗してもいいんだ。少なくとも、機体に穴をあけることに意味はある。その穴からより奥深くへマコ達が入り込める。ただそのためには――」
「マコとアニマの位置を把握する必要がある、か」
「あっ。それは――」
「そう。モルドが内部と空間を繋ぐことで通信を確保。その状態でならばこちらからでもあちらの位置を特定できる」
そして、安全な場所かつ、確実に相手の装甲をぶち抜いて風穴をあけることが、シルルの策、ということである。
「そのためには、
「……わかったよ」
「狙撃は苦手なんですが――まあ、他の人よりはマシかもですね」
やる事は決まった。あとは、それができるのかどうか、だ。
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