第169話 未来のために剣を砕く
エクスキャリバーンの軌道は、およそ常人の操縦ではありえないほど豪快で、そして無茶苦茶であった。
普段の操舵担当ではない者が艦を操っているから、というわけではない。
その操舵にあわせて、
だがそれも、リアルタイムでシルルが修正を行い、空中分解するほどの負荷がかからないように補正の度合いを調整することでなんとか安定した姿勢を保ったまま、飛行し続けている。
「リニアカタパルト開放!」
欲を言えばもう少し近づいてから機体を出したかったが、そうも言っていられない。
何せゾームの短時間のチャージでありながらも放たれた荷電粒子砲の威力がこちらの想定をはるかに超える威力であったのだ。
モルドがいれば拡散させることはできるとはいえ、シールドに当たっただけですさまじい衝撃で艦が揺れ、シールドジェネレーターにも多大な負荷がかかる為、そう何度も繰り返せることではない。
なので、通常のリニアカタパルトの外側――丁度タンホイザーのブレードユニット周辺に指向性のある重力場によって物体を無理やり前へと放り出す、言ってみれば重力カタパルト、とでもいうべきものを生成。それを使って再加速させる準備を進める。
「重力制御、問題なし。行けます」
「シールド10秒開放! 解放と同時に機体射出!!」
マリーの指示で、シルルが艦正面のシールドの一部に穴をあける。
その瞬間。リニアカタパルトからクラレントが射出。それからやや遅れてフライトユニットを装備したクレストが射出される。
電磁加速で撃ちだされたそれは、すぐに重力場による再加速を受け本来の速度をはるかに上回る速度で射出され、まるで弾丸のようにゾームめがけて飛んでいく。
「メグ、悪いが管制を頼む。私はマコのサポートに回る!」
「任された。僕だって死にたくはないしね」
ソリッドトルーパーの操縦に不慣れなマコに代わり、シルルがその機体の制御を遠隔で行う。
それでも、あくまでも補助程度にしかならない。
そして、機体を放出した後のエクスキャリバーンにできることは、ただ逃げるだけだ。
◆
キャリバーン号が惑星ラウンドの衛星工廠から盗み出されてから、ずっとその傍らにあった機体。それがクラレントである。
世界初の、
その機体は、今。本来の主の命により最期の戦いへと挑んでいる。
今この時だけの
確かに無茶苦茶だ。機体のあちこちが傷んでいる。だが、それを承知で使い続け。ガタがくればその都度パーツを交換して。
きっとこの機体が最初に造られた時から残っているパーツなんて数えるほどしかない。
それほどまでの酷使されながらも、その都度綺麗に修理し続けて。
クラレントは愛されている。それだけは確かで、だからこそ――動かしていて気持ちがいい。
自爆させようとしているの事が勿体ないと思えるくらいに。
荷電粒子砲のチャージが始まっている。
アラートが鳴り響く。
機体の演算機能を使い、その射線を予測するが――直進すれば回避はできない。
ので、全身を重力場で包み、そのまま海中へと突っ込む。
水しぶきが機体を覆い隠して、機体がゾーム側からはクラレントの姿は目視できなくなる。
それでもアラートが消えないのは、すでに一度あの荷電粒子砲の威力を観測しているから。
その影響範囲から逃げきれていない、ということである。
クラレントでそれならば、後方のクレストはもっと危険だ。
が、その心配もすぐに消える。
エクスキャリバーンのほうから飛び出してきた反応がゾームへと急接近。
それと接触する。
速度からして、どう見てもソリッドトルーパーではない。
シルルが惑星エアリアから呼び寄せたオームネンド・モルドである。
『マコさん、どうなってますか』
「モルドがゾームにアッパーかまして上向かせて1発無駄撃ちさせた」
『……まあ、いいか』
海中を移動しつつ、重力場の効果もあり空中にいる時と移動速度が全く変わっていない。
ので、このまま作戦続行。
『……みんな、いくよ』
そう呟き、アニマは自身の身体に宿る同胞の力を開放する。
クラレントが青白い光に包まれ、その機体性能は飛躍的に上昇する。
限界を超える。機体が負荷に耐え切れないほどの出力上昇。今にもオーバーロードを起こしそうなプラズマジェネレーターと、
眼前に巨体が見えたタイミングで急上昇し、水柱と共にゾームの顎の下に入り込む。
『!』
それにあわせ、モルドがゾームの頭上に回り込んで手を組んでそれを振り下ろす。
殴られたゾームは抵抗する間もなく、クラレントめがけて頭を落としていく。
『今ッ!!』
クラレントとゾームが接触する寸前のタイミングで、限界まで機能酷使した
ただし。その爆発はただの爆発ではない。
プラズマジェネレーターの核爆発。それに加えて予備推力として搭載されていた推進剤への誘爆。そして本命の――
発生したのはごくわずかな時間。1秒あるかないかほどの、超短時間。最後の指示通り、効果範囲の中心部に向かって発生する重力場は、モルドによって叩き落されてきたゾームの頭部を捕らえて引き込み、装甲を、フレームを引きちぎって大穴をあける。
言ってみれば、規模の小さいブラックホールが発生したようなもので、それに巻き込まれればいくら始祖種族が作り出した超兵器であろうとも関係ない。
問答無用の破壊。万物を圧壊させるだけの力の発生。
抗いようもなく、大穴をあけられたゾームは――何事もなかったかのように口を開き、再度荷電粒子砲のチャージを開始する。
「アニマ!!」
『行きます!!』
クラレントの自爆から離脱したアニマが、後ろから接近してきていたクレストに乗り移り、フラライトユニットの出力を最大にまで引き上げる。
『皆、ごめん。無理させる!』
再度、アストラル体としての力を使う。
青白い光は、憑依した機体の性能を限界以上に引き上げる。
だがそれは機体だけでなく、アニマ自身も消耗させる。
だが今は、今だけはその力を酷使してでも打開しなければならない時だ。
本来ならばエンジンが爆発していてもおかしくないほどの出力上昇。
耐久以上の負荷にコクピットが大きく揺れ、装甲やフレームが軋む音がマコの耳にも聞こえてくる。
「これ大丈夫か?」
『大丈夫じゃなくても突っ込みます』
「だよね! 気にせずぶっ飛ばして」
と、マコは言うが――正直結構な無理をしている。
ソリッドトルーパーには艦船と異なりイナーシャルキャンセラーが搭載されていない。
つまり、速度を上げれば上げるほど身体にかかるGは増加し続け、パイロットスーツを着ているとはいえども、ソリッドトルーパーの扱いに慣れていないマコにとってはかなりきついものである。
歯を食いしばり、ひたすらに耐える。
直後、機体が大きく横にロールする。
突然想定していない方向からのGに戸惑うマコであるが、その理由を直後に理解する。
何度目かわからない荷電粒子砲の発射。
しかし今度は明確に、クレストを狙っての攻撃。
最大出力ではないが、それでも大量の海水を一気に蒸発させて水蒸気爆発を起こすほどの威力はあり、その衝撃でクレストは吹っ飛ばされる。
『!』
それを、モルドが受け止め、抱えたままゾームめがけて突撃。
姿勢を整えて両手で持ち上げて投げつけた。
『いけええええ!!』
クレストが投げられた勢いに加え、全推進力を同じ方向に向けて飛びこみ、大穴に飛び込み、クレストは破損したフレームに衝突。
全身を損傷させながらもマニュピレーターで機体を固定するとコクピットハッチを開いてアニマもコクピット内に置かれていたバトルドールに乗り換えるなり、マコを抱えて脱出。ゾーム内へと降り立つ。
『こちらアニマ。ゾーム内への侵入に成功』
全身からオイルと火花を散らして落下していくクレストを見送り、エクスキャリバーンへ向けてそう報告した。
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