第164話 砲と砲と
空中戦を繰り広げるのは何も、ソリッドトルーパーだけではない。
エクスキャリバーンと、もう1機。ソリッドトルーパーと呼んでいいかもわからない巨体。
互いにビームを撃ち合い、シールドで弾き合ってはミサイルを撃ちだし、レーザー機銃でそれを迎撃する。
限りの有る空の中を巨体がドッグファイトを行っているというのは、大迫力の光景ではあるが――その場にいる者にとってはたまったものではない。
「なんだアイツの攻撃は!」
「ロックしてこないなんて、普通の相手じゃありませんよ!」
そう。巨大な機体――マルミアドワーズは、一切エクスキャリバーンをロックオンせずに、かつほぼ正確な射撃を行っている。
故に。システムでは相手の行動が予測できず、マコの操舵技術を以てしても回避は難しく、ほとんどがシールドによる防御で受け流すような形になっている。
「マリー、攻撃パターンを変えて!」
「了解!!」
そう言ってマコは操舵に集中する。
一方でマリーは相手の攻撃パターンの構築を即座に終える。
マリー自身はそれに自信などないが、実のところ十分にバケモノ級の腕前である。
ただ
入力した通りの軌道でミサイルが発射される。
一見すると見当違いの方向へと飛んでいくいくつものミサイル。
「はっ、どこに撃ってやがる!!」
チャンネルが開いた状態であるため、相手の声がブリッジにも届く。
騒がしい男。それが今対峙している敵パイロット――シェイフーの印象である。
他のウロボロスネストのメンバーと異なり、この男とは特に因縁らしい因縁は、彼ら個人としては持っていない。
だが、そこが問題なのではない。相手がウロボロスネストである以上、それは惑星国家ネクサスに関わる全ての人間にとっての敵である。それだけで、戦う理由は十分であるし、何より相手の巨体とその火力は、他の仲間に向けさせてはいけない。
「フロレントとアロンダイトの反応消失?! 脱出は――確認!」
「アッシュとシルルは?」
「アッシュさんは劣勢。シルルは互角です」
マルミアドワーズの真正面に尻を向けるエクスキャリバーン。
当然一直線上に並べば、すべての砲火が向くと理解している。
「誘ってんのか? だったらやってやるよぉッ!!」
攻撃のために、マルミアドワーズを覆っていたシールドを一時的に解除する。
――なおシールドとは、エネルギーで発生させた物理的な障壁である。外側からの攻撃であろうと内から外へ向けた攻撃だろうと、その効果範囲に入れば問答無用で立ちはだかる。
故に、本来は砲の射線上の一部分だけを解除して攻撃を行うのがベストであり、攻撃も最低限かつ最大効果を狙うべきである。
だが、マコとマリーの前にいる敵は違う。
全身に装備された火器を、これでもかと一斉に撃ちまくる、文字通りのトリガーハッピー。
そのすべてを使う為に、シールドの解除は当然ピンポイントではなく全身である。
「今ッ!!」
そこが、狙い目であった。
先ほどマリーが明後日の方向に撃ちだしたミサイルはいまだ飛行を続けていたが、急に角度をかえてマルミアドワーズの後方から殺到。その推進力であるメインエンジン周辺に次々と着弾していく。
「がっ!? な、どこから撃ってきた!?」
「全リニアカノン、後部ミサイル同時発射!」
艦の両舷にあるローエングリンに装備された計4門のリニアカノンとキャリバーン号に元から備わっているミサイルが同時に発射され、追撃を行う。
そして、リニアカノンの発射とタイミングをあわせ、エクスキャリバーンはドリフトしながら回頭。マルミアドワーズに対して正面を向く。
「全ビーム砲発射!」
「んなろぉぉぉがああああ!!」
エクスキャリバーンとマルミアドワーズのビームが同時に発射され、それぞれがそれぞれのビームとぶつかり合い相殺し合う。
当然、その衝突の際には周囲に高熱の粒子が散弾のように飛び散り、地面にまで到達した粒子は木々を燃やす。
仮に撃った直後にシールドを再展開していなければ、その粒子の散弾によって装甲に穴が開いていたところだ。
砲を撃ち合い、距離を取るのではなく、巨体同士がすれ違う。
シールド同士が接近のし過ぎで干渉。互いを弾き合い、バランスを崩しながら落下していく。
が、そこは腕の見せ所というやつで、イナーシャルキャンセラーによる慣性制御と、
即座にそれをやってのけたマコは、地面スレスレで巨大な艦を安定させつつセンサー類が捉えている敵のほうへと回頭。
その操作にあわせ、マリーが各種火器を制御し、攻撃態勢を取る。
一方、マルミアドワーズ。こちらは早々に姿勢制御を諦め、シールドを転回したまま地面に衝突。シールドによって大地を削りながら強引な制動を行いつつ、姿勢を制御してなんとか持ち直すと再浮上し、艦首をエクスキャリバーンへと向ける。
「ああ、イライラするぜ、全くよぉッ!!」
次々と展開されるミサイルハッチ。次の瞬間には一気にすべて放出された。
加えて、シールドに負荷をかけるためにビーム砲での攻撃も行い、レールガンも連射。
この飽和攻撃は、さすがのエクスキャリバーンであっても受け止めきれるかはわからない。
ならどうするか。
「任せる!」
「はいッ!! 主砲、副砲、トリストラム発射!」
ビームの射線はあらかじめわかっている。それに合わせて主砲と副砲、それにローエングリンの主砲である2連装ビーム砲『トリストラム』を発射し、向かってくるビームを次々と相殺していく。
一歩間違えば自身も直撃を受ける危険性の高い、もはや未来予知にも近い業である。
「フェイルノート全基起動。エンゲージ!!」
そして、ローエングリンに装備されている有線式ビーム砲『フェイルノート』を射出し、それを使った弾幕展開。これによってミサイルを迎撃する。
ワイヤーで本体と繋がり、細かな操作はマリーがすべて手動で入力しているそれは、まさに変幻自在な動きと射角でビームを放ち、時折マルミアドワーズにも攻撃を行う余裕すらみせる。
「なんなんだよアレは!! なんで、なんで! オレのよりぶっ放してんだよぉぉぉぉ!!」
「ここが閉鎖空間でなかったら、とっくに沈めてる。マリー、攻め込むよ」
「もしかして……」
「
「ぶっつけ本番にもほどがありますが――艦長代理として許可します! やってください!」
本来は砲のよう放射してしまう重力場による攻撃を、あえて放射せずに
理論的には勿論可能であり、しかもシミュレーション上ではあるが、4隻分の出力を注ぎ込めばたとえ相手がシールドを展開していようと、それを貫通してしまえるほどの威力を発揮する。
それを今、実戦でやろうとしているのだ。
「マリー、できるね」
「勿論です」
速度を上げて、エクスキャリバーンは相手を中心の位置に封じ込めるようにミサイルと『フェイルノート』による攻撃で動きを封じつつ、艦首になるタンホイザーのブレードユニットの
「行けます!」
「よし来た!」
そして、重力場による衝角が形成されたことを確認するなり、エクスキャリバーンはシールドを展開したまま最大速度でマルミアドワーズへと突っ込んでいく。
攻撃をはじき返す強固なシールド。
それを相手のシールドに押し付け、相手のシールドジェネレーターに負荷をかけて強制解除させるなり、重力場の槍がその横っ腹に突き刺さった。
「なっ……?! 戦艦が体当たりなんざしてんじゃねえ!!」
「残念。こいつは戦艦じゃない。高機動戦闘要塞」
「なおさら体当たりなんざしてんじゃねえよ!!」
敵に言われてしまったが、尤もである。
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