第163話 小と大と
タイラト・ルキウスは巨体はそれだけで脅威。なのに、レジーナ由来のイオンクラフトによる高速機動。インペラトルの両肩にあった高出力ビーム砲。
ドーターとしての機能をオミットした代わりに冷却装置でも搭載しているのか、さっきから暴れまわっているのに、レックスのように排熱のために行動が止まる、という様子はない。
『ベルさん、避けて!』
「アニマさん? そっちは片付いたんですか?」
フロレントが大きく旋回する動きでタイラント・ルキウスの後ろに回り込む。
そのタイミングに合わせてアロンダイトの装備の一斉攻撃が巨人の上半身に殺到する。
「ナイアめ……不甲斐ない奴め」
『この人――仲間がやられてその反応は』
ミサイルや砲弾の攻撃を受けてなお多少装甲が変形する程度の損傷。
頑丈なんてものじゃない。アニマは当然、惑星アルヴでのタイラント・インペラトルとの戦いを思い出す。
瞬間、両肩の砲口が開き大出力のビームが発射された。
狙われたアニマは、回避を諦め先ほどと同様にスモークディスチャージャーを使用し、それに含まれるビーム攪乱粒子によって威力を減らす方向性に持っていく。
が、ガラティンのビームとは桁違いに高出力のビームが煙幕を突き抜け、アロンダイトの右上半身を吹き飛ばした。
「これで1つ……」
そう、タイラント・ルキウスのコクピットでアズラエルは確信する。
確かに。右半身を失ったソリッドトルーパーというのは、基本コクピットも失っており、動くことはない。
実際。攻撃を受けたアロンダイトは力なくその場で動きを止め、膝をつく。
すでに倒した相手だと背を向け、フロレントのほうへレールガンの銃口を向けながら歩み寄る。
「せっかくの援軍がこれではな」
「さあ。それはどうか――なっ!!」
レールガンが放たれるタイミングにあわせ、フロレントがスラスターを全開にして跳びあがって弾丸を回避。そのタイミングで背負っていた十字型ブレードを振り抜き、降下の勢いを加えてレールガンを切断。
着地と同時にブレードを振り回して脚部へとフルスイングで叩きつける。
が、それは攻撃のためではない。その勢いを使って、横へと飛び退くためだ。
「何?」
直後、全く意識していない方向からのビームが飛来。タイラント・ルキウスの右腕を吹き飛ばした。
「どこから――まさか?!」
アズラエルは驚愕する。
なぜならば、すでに自身の仲間であるシェイフーと交戦し、抑え込まれているはずのエクスキャリバーンからの攻撃であったからだ。
『まだだッ!』
被弾する直前に左手に持ち替えていたロングレンジビームライフルをフルチャージ状態で構えたアロンダイトがその残った出力すべてを注ぎ込んで引鉄を引く。
放たれた閃光が、タイラント・ルキウスの左膝を貫き、巨体が転倒を始める。
「ぬぁッ!? 何故だ。なぜあの損傷で動ける!?」
「よそ見している場合ですか?」
バランスを崩した機体を駆け上がり、フロレントのブレードが巨人の首関節めがけて突き出され、その巨大な頭が宙を舞う。
が、直後に巨大な左腕が振り上げられその横薙ぎがフロレントへと迫る。
「ッ!?」
回避できないと判断したベルは咄嗟に脱出装置を起動させ、フロレントの背中の炸裂ボルトが起爆。スラスターを噴射させながら背中側からベルが跨った小型シューターが射出された。
それからやや遅れ、無人となった機体は圧倒的なパワーと質量に砕かれながら大地へ激突し、四肢を飛び散らせて沈黙した。
また、最後の1発のつもりでビームを放ったアロンダイトもプラズマジェネレーターが負荷に耐えかねて爆発。上半身は完全に消失した。
「ちぃっ……これでは」
だが、2機の犠牲も無駄ではない。
タイラント・ルキウスはすでに片腕を失い、片脚も膝を破壊されたことで使用不可能。その巨体を支える事もできず行動不能であり、何よりもセンサー類の詰まった頭部を破壊された事によってコクピット内では周囲の状況を正確把握できなくなってしまっている。
「申し訳ありません、アルビオン様。撤退させていただきます」
故に。アズラエルは撤退を選ぶ。
このまま自分が残り続けても図体の大きな的でしかなくなった機体は、味方の足を引っ張る。
行動不能である為、自身の足元にゲートを出現させ、そこへと落ちるようにして巨体はこの半球の空間から姿を消した。
「アニマさん、大丈夫ですか?」
『はい。今はここにいます』
そう、自分が跨るシューターから返ってくるアニマの返事に安堵しつつ、ベルは自身のやるべきことを考える。
機体は――もう使い物にならない。愛着のある機体ではあったが、自分の命には代えられない。
『行きましょう』
「……ですね」
ベルはシューターを当初の目的であった人工物のほうへと向けて走らせる。
その中に何があるか。それを確かめるべく、ビームの雨が交差し、ミサイルが飛び交う戦場の中を疾走していく。
◆
閉ざされた空を縦横無尽に飛び交いながら戦闘を繰り広げる2機の機体。
エーテルマシンとソリッドトルーパーという異なる機体の特性を併せ持つ異端の機体モルガナと、両腕が存在せずまるで外套のように機体の周囲を覆ったコンテナに囲まれた異形の機体ヴィヴィアン。
杖を振るって周囲に火球を生成し、それを放つモルガナに対し、周囲に展開したウェポンコンテナの中からビーム砲を選択し、火球を撃ち落としていくヴィヴィアン。
「直々に出てきてくれるとは思わなかったよ、蛇のウィザード――いや、その腕前ならデミゴッドかな」
「うるさい、おばさん」
「おばっ……?! 流石にこの場にいる中では最高齢級だとは思うが、しつけのなってないガキにオバサン呼ばわりはされたくないものだね!」
モルガナの持つ杖の先端から放つビーム。直進するのではなく、まるでそれは鞭のようにしなりながらヴィヴィアンに迫る。
それに対してのヴィヴィアンはコンテナを稼働させて新たな武装を選択。コンテナが開くなり中から飛び出した無数のビットがビームを放ち、モルガナの攻撃を中断させ強制的に回避に集中させる。
的確にエーテライトフィールドを展開し、それを障壁として展開することでビームを受け止めて、次の行動の準備をする。
「そのちから。えありあの、まほうつかい? でも、これだけのちからなら、もしかしてえるばいすのにんげん?」
「クソガキには教えてやらないね!」
杖を地面に向ける。
淡い光と共に、それに呼応するようにヴィヴィアンの周辺の地面が槍のように隆起し、その全身を突き刺さんと迫るが――ウェポンコンテナそのものの防御力の前に防がれる。
が、それでもこれでもかと繰り返して行われる魔法によって書き換えられる地形によりヴィヴィアンの姿が隠される。
「じゃま……」
機体を覆い隠すほどの大地から生える岩石の槍でできた小山。その中では自慢のウェポンコンテナも展開できず、身動きすらとれない。
その状態の相手に向かって、モルガナは手を向ける。
「生憎と本調子じゃないんだ。だから、威力は控えめだ」
小山の上に現れる巨大な光球。
それはモルガナの演算機能とシルル自身の演算能力をフルに使い、大気中に存在する
目視可能な、限りなく反物質に近いもの。
「消し飛べ。プロヴィデンススフィア!」
光球が、小山めがけて落下していく。
純粋にあらゆるものを飲み込む破壊のエネルギーが、小山の先端に触れるなりそれが昇華されていく。
物質の形状変化の段階を無視して、岩が消えていく。
「ここでは、おわらない」
その宣言通り、小山の中から閃光が天に向かって伸び、迫る光球と衝突。それを押し返して霧散させる。
「そう簡単には終わらない、か……」
小山から抜け出したヴィヴィアン。それと再び対峙するモルガナ。
一瞬の沈黙の後、2機は再度激しい弾幕を展開しはじめた。
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