第162話 地と天と

 空を飛び回る天使のような姿をした悪魔が、地上を走り回るアロンダイトに迫る。

 この2機は実にわかりやすく対照的である。

 アロンダイトは地上を脚部のホバー機構を使って高速移動し、武装は実弾がメイン。最大火力こそロングレンジのビームライフルであるが、その他はほぼすべて実弾。そして多数との戦闘よりも、高火力のビームライフルによるピンポイント攻撃を得意とする。

 一方でガラティンは、自在に高速飛行しビームによる高火力で圧倒する戦い方をし、単体よりも多数を相手にすることを得意としている。

 この場合、どちらが有利か、というと――当然、空にいるガラティンである。


「どうしたよ、ブリキ野郎!!」


 12門のビーム砲が次々とビームを放ち、アロンダイトを追い詰めようと執拗に迫る。

 事前に熱源反応と、砲門の向きから攻撃を予測しているアニマは、その悉くを回避しているものの、反撃に回れるだけの隙が無い。

 下手に振り返って攻撃をしようと一瞬でも速度を緩めると、それだけで撃ち抜かれかねない。

 無論、アニマ自身は撃たれても問題はない。アストラル体にとって、依り代の破壊は死ではない。

 だが、ここでアロンダイトが破壊されると、この火力が他の仲間に向けられる。

 それだけは避けるべきだ、とアニマは思考を巡らせる。


「そらそらそらそら!!」


 フレキシブルに稼働するビーム砲。本来は多数の敵に向けられるべき高火力が、たった1機に向けられている。

 この状況は、ジリ貧。いつビームの直撃を受けるかわかったものではない。

 が、アニマはある事に気付く。


『これなら!』


 腕を振り上げ、肩を後ろに向ける。

 そう、マルチプルランチャーの砲門を空のガラティンに向け、即座に弾丸を放った。

 予想していなかった反撃に、減速してその弾丸を回避。

 一瞬ではあるが、そのタイミングでビームによる攻撃が止まった。

 そのわずかな余裕を見逃さず、左側のサイドアーマーのパイルを射出。地面に突き刺してそれを軸に速度をほとんど落とさず反転。ロングレンジビームライフルを構えてガラティンめがけて放った。


「ちっ」


 攻守が逆転する。

 ロングレンジビームライフルは長距離までビームを届かせるために基本的に高出力。

 その高出力のビームが限界ギリギリまで集束された状態で放たれては、いくらナイアが攻めたくても回避に専念するしかない。


「機体がどーなろうと知ったこっちゃねえが、二度もやられるなんざオレが許さねえ。今のオレが許しても、死んだオレが許せねえ!」

『それです。なんで生きてるんですか!』

「どうでもいいじゃねえか。こうして遊んでんだからよ!」

『遊び? これが遊びだって!? 冗談じゃない!!』


 ウェポンユニットのマイクロミサイルを放った直後にモードを切り替え、60ミリ無反動砲での攻撃も行う。

 無数のマイクロミサイルによって行動が制限される中、追撃で放たれた砲弾がガラティンに命中する。


「ちぃっ!」

『離れすぎて威力が落ちたッ……!』


 だが、下から上を狙った結果、その装甲を完全に破壊するほどの威力を発揮できなかった。

 とはいえ、装甲にほとんどダメージがないだけであり、その衝撃は内部には伝わっている。


「いってぇじゃねえか!!」


 ガラティンは両手首からビームを発射し、牽制。それを回避しながら、アロンダイトはスモークディスチャージャーで自身の姿を隠す。

 同時に、この時に巻かれた煙幕にはビーム攪乱効果もあり、よっぽど高出力なビームでもない限りは簡単には破ることができない。


「しゃらくせええ!!」


 が、それも12門のビーム砲の前にはあっけなく無効化されてしまう。

 しかし――その煙幕の中にはアロンダイトの姿はなかった。

 広範囲にまかれた煙幕。その中を突っ切って移動したのは間違いない。

 ならば、どこにいる、とガラティンが周囲の警戒を行う。


「熱源反応ッ!」


 右側から飛んできたビームをを回避し、そちらへ砲門を向ける。

 が、ガラティンのメインカメラが捉えたのは、ビームライフルだけ。

 遠隔操作による、別角度からの攻撃。


「舐めやがって……!」


 続いて、左側から無数のミサイルが飛来する。


「てめえ、まだ――ッ!?」


 それもまた、ウェポンユニットだけ。

 なら本体は――と、後ろを振り向く。

 が、そこにはいない。


『どこを見ている!!』

「下だとぉっ!?」


 ナイアは知らない。

 アニマが散布した煙幕は、ビーム攪乱効果だけでなく、ソリッドトルーパーのセンサー類にも影響する粒子が含まれていたという事を。

 それにより、アロンダイトの姿がセンサーでは捉えられなくなっていたという事を。


 真下から跳びあがり、飛行しているガラティンの脚を掴んで出力にまかせて地面へと放り投げる。

 大した抵抗もできず、そのまま地面へと叩きつけられる機体。

 そこへ追撃としてアロンダイトが迫り、両方のリアアーマーを前に向ける。


「クソが!!」


 背中のビーム砲は墜落のショックで壊れたのか、それを使わず両腕のビームガンで反撃するガラティンだが、アロンダイトの装甲にビームが直撃しているにもかかわらず全く効果を見せない。

 いや、というより装甲表面でビームが弾かれている。


「ビームコーティング? いや、違う……!」


 先ほどの煙幕。それを思い出すアニマ。

 あれによってビーム砲のビームが一時的ではあるが拡散される様子を見ていた彼女は、すぐさまアロンダイトの装甲表面にもその効果のある粒子が付着しているのだと察する。

 つまり、今のガラティンの攻撃は接近してくるアロンダイトに対して効果がない、ということだ。


『これで!』


 両肩のマルチプルランチャーから放たれた砲弾が、ガラティンの両手を吹き飛ばす。

 そして、至近距離まで接近すると、なおも上体を起こして立ち上がろうとするガラティンの胸めがけてサイドアーマーのパイルが交差するように放たれた。


「畜生……次は必ず、ぶっこわし――」


 パイルを引き抜くなり、一気に後退するアロンダイト。

 即座にパージしていたウェポンユニットを拾って再接続し、ビームライフルも回収する。

 その後ろで、ガラティンは爆発を起こして粉々に吹き飛んだ。


『……あの言い方。多分、彼女はまた来る』


 そんな確信を抱きながら、アニマは苦戦しているベルの援護に向かった。



 図体が違う相手の倒し方。それは古来より決まっている。

 大きい者は、その体躯を活かした圧殺。多少の攻撃では怯まず、ただ一方的にその力を振るえばいい。

 小さい者は、どうやっても装甲では守れない可動部や排気口を攻撃すること。おもには脚部関節などを破壊し相手の自重で行動不能にしたり、と基本的には搦め手を使う事になる。

 フロレントとタイラント・ルキウス。

 通常のソリッドトルーパーと、その倍にもなる体躯を持つ巨大ソリッドトルーパー。


「生身でも機体でもコレか……!」


 フロレントの武器はマシンガン。最大の攻撃力を持つのは十字型の大型ブレードであるが、それを振り回せるほどの余裕はない。

 なぜならば、タイラント・ルキウスの動きが、よく似た外観のタイラント・レックスのそれとは異なりかなり速い。

 機械的な動きであるレックスと異なり、ルキウスの動きはより生物的。

 柔軟な動きでフロレントを叩き潰そうとしてくる。


「やはりあの時の女か」

「相性が悪い。けど……!」


 逃げ回っている限りは問題はない。

 牽制程度にマシンガンでの応戦を試みるが、その装甲には通用しない。それはわかっている。解り切っている。

 だが、ベルもただ自棄を起こしているわけではない。

 動きながら、相手の能力を観察する。

 たとえ、自分が勝てなくても、生きて逃げ延びれば仲間の誰かが自分の得た情報を使って攻略してくれるはずであると信じて。

 だからこそ、逃げる。真正面から戦う姿勢は見せつつ、相手の能力をできるだけ遣わせようと逃げ回る。


「小賢しい真似をしてくれる」

「あの図体であの機動力、まさかイオンクラフト? それに両肩の形状は記録にあるアレに――」


 そして、ベルはある結論を出す。

 ――あの機体は、今まで自分達が戦ってきたタイラント系ソリッドトルーパーの機能を詰め込んだ機体である、と。

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