第161話 正面衝突

 対峙する『燃える灰』とウロボロスネスト。

 にらみ合いが続く中、まず最初に動いたのは天使のようなフォルムの機体。


「そこかぁ、ブリキ野郎!!」

『お前はあの時の! どうして生きて――』

「んなこたぁ、どうでもいいんだよ!! このガラティンでお前を消し飛ばしてやる!!」


 天使のような機体――ガラティンと呼称される機体が飛び出し、アロンダイトへ向かっていく。

 その背にある翼――いや、片側6連装の計12門のビーム砲がアロンダイトを捉え、一斉に放たれた。


『くっ! この敵はボクが抑えます!』


 そう言いつつ、ビームを回避しながらアロンダイトが離れていく。


「全く。ナイアは堪え性がないね。シェイフーですら我慢しているっていうのに」

「アルビオン様」

「うん、いいよアズラエル。あの艦、潰しちゃって」


 続いて、巨人。タイラント系の機体に似ているそれが、前に出る。

 いや、似ている、ではない。新型だ。


「タイラント・ルキウスのテストも兼ね、存分に戦わせてもらおう」


 右手に持ったレールガンをプリドゥエンへ向ける巨人――タイラント・ルキウス。

 引鉄が引かれる前に、その巨大な銃にフロレントが体当たりし、射線をずらした。

 そして、ぶつかった反動で距離をとり、両手のマシンガンを顔面めがけて乱射した。


「その動き――ネオベガスで会った女か」

「まさか……あの時のゴリラッ!」

「アルビオン様。申し訳ありません。この者には借りがありますので」

「君もかい? 仕方ないな。じゃあリオンは――」

「リオンの、おきゃくさんが、きた」


 プリドゥエンから、モルガナが飛び出し、腕のないソリッドトルーパーと対峙する。


「シルル! お前何で出てきた!」

「悪いね。こいつにはいろいろとやられたんで、正直かなり頭に来てるんだ」

「いいよ。リオンも、あそびたいから」


 言う成り、いくつもの閃光を撃ち合いながら、2機が離れていく。


「リオンのヴィヴィアンも相手がいる、と。じゃあ、シェイフーがアレ落としてよ。それで、ワタシはこの羽根つきと戦うから」

「いいのか、お嬢。この空間ごとぶっ壊しちまうかもしれねえぜ? このマルミアドワーズの火力、知らないわけじゃないだろ?」

「その時は空間跳躍で逃げるから」

「あい、わかった。それじゃあ、ぶっ放すぜえ!!」


 マルミアドワーズと呼ばれる巨大な戦艦――いや、そのブリッジにあたるべき場所にあるそれを見れば、それがソリッドトルーパーであると理解できる。

 その下半身にあたる戦艦はいわば、追加武装。その追加武装の砲門が一斉に解放され、ビームとミサイルの雨がプリドゥエンめがけて放たれた。

 その一斉射はシールドに多大な負荷をかけ、維持できなくなったプリドゥエンはその攻撃の直撃を受け――爆炎の中からエクスキャリバーンが浮上し、反撃の火砲を放った。


「さて、と。それぞれ相手が決まったけど――どうする?」

「……お前」

「そうだねえ。どこで気付いたかって話をするべきかな」

「そうだな」


 アッシュは目の前に立ち塞がる女性的なフォルムの機体の前に着地し、ビームソードとビームシールドを構える。


「半年前のネクサス建国宣言。あの時、君によく似た男と、によく似た女が映っているカットがわずかながらあった。だから、気付いたのはその時だね」

「そうか。俺のほうは今こうして言葉を交わすまで、気付かなかったよ。アイツもな」


 目の前のソリッドトルーパーが、スカートアーマーの内側からレイピアを取り出し、静かに構える。


「ねえ。1つだけ、聞いていい?」

「なんだ」

「アクアティカでのデート、楽しかった? アッシュ」

「ああ。楽しかったさ。


 瞬間。同時に機体が飛び出し、クラレントの振るったビームソードを身を捻って回避しつつ、レイピアが突き出される。

 そのレイピアをビームシールドで弾き、今度は横薙ぎに右腕を払う。


「カムランの動きを予測できる?!」

「何ッ!?」


 細身の機体が直角に倒れ、横薙ぎのビームソードを回避。続けて起き上がる勢いをつかってサマーソルトを放ち、クラレントを蹴り飛ばす。

 蹴られてバランスを崩したクラレントは、即座にビームソードをしまい、ハンドビームガンに武器を持ち替えてそれを放つ。

 放たれたビームを感知するなり、スカートアーマーがめくりあがり、そこから粒子が放出。ビームを霧散させる。


「ちっ……!」

「ちょっとアッシュくん! いいのかい? デートするくらいなら、それなりの仲の相手だろう!」

「黙ってろメグ! 知った顔だろうと、アイツがウロボロスネストだって言うなら、敵だ!」


 ハンドビームガンでの攻撃を続けつつ、上昇する。

 カムランと呼ばれた機体はぐっと屈んで一気に跳躍。上昇しきる前のクラレントへ肉薄し、レイピアを投擲。それをシールドで払った直後のクラレントめがけて右足の裏を見せる。

 その瞬間、クラレントのコクピットに高熱源反応に対する警告が鳴り響く。


「なんてとこに仕込んでやがるんだ!」


 機体を大きく仰け反らせ、背中から地面めがけて急降下。

 直後、カムランの足裏から放たれたビームが虚空を撃ち抜く。


「でも、それだけで終わるわけないよ、ねえッ!!」


 振り上げた脚からビームを展開した状態でそれを振り下ろして斬りかかるカムラン。

 即座にシールドでそれを受け流し、地上と激突寸前の高度を維持しつつ再度反撃のビームを放つ。

 そのビームも再度スカートアーマーから散布された粒子によって阻まれる。


「アリア、どうしてお前がウロボロスネストを束ねている!」

「決まってるよ。そうしないと変わらない世界があるから。そうしないとつかめないものがあるからさ」


 両足からビームを展開したまま急降下してくるカムラン。それを減速することで躱し、体勢を立て直すなりビームソードで斬りかかった。

 が、そのビームソードはレイピアで受け止められている。


「ビームを弾く実体剣……!」

「ワタシのほうからもアッシュに質問。どうして『燃える灰』やってるのさ!」


 空いた手にレイピアを握り、それを突き出すカムラン。

 そちらはビームシールドで受け止め、踏み出す。


「海賊だからできることがある。法で裁けない悪を、悪だからこそ討てる! だから、そうしている!」

「なら、同志になってよ!」

「親父を殺したお前達のか!? ふざけんな!」

「そうするしかなかった。だから殺した!」

「俺だけじゃない。お前達のせいで、人生が狂った人間がどれだけいる! マコも、マリーも、シルルも、ベルも、アニマも――お前達のやったことが切っ掛けで、今ここにいる。こんなところにまで来て、戦っている!!」


 クラレントの蹴りがカムランを突き飛ばし、距離が開いた瞬間にシールドを前に構えて前へ跳ぶ。

 シールドバッシュ。それが普通のシールドならばせいぜい装甲が変形する程度。いや、ソリッドトルーパーの全重量と推力で押し込まれればコクピットも潰れるかもしれない。

 が、クラレントのシールドは通常のシールドの表面にビームを展開している、ビームシールドである。

 そんなものが押し当てられれば、問答無用で装甲は融解するだろう。


「……今の、全員女の名前?」


 と、両手のレイピアでビームシールドのビーム発振部を的確に突き刺し、ビームを消失させた上でそのシールドを蹴ってクラレントを押し返すカムラン。

 どこからその出力がでるのか、というくらいの力で押し返され転倒したクラレントに、にじり寄るカムラン。

 明らかに先ほどとは雰囲気が違う。


「アッシュの仲間って、みーんな女の子なんだ。へえ……。じゃあ、殺さないとね」

「お前、何を……」


 良く知る女。良く知るはずの女の言葉に、アッシュは背筋が凍るような冷たさを感じ、身を震わせた。

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