第158話 正当防衛?

 発射された魚雷に応じるように、プリドゥエンの第4格納庫と直結している後部ハッチから2機のソリッドトルーパーが飛び出す。

 その2機を送り出した直後、プリドゥエンはシールドを一度解除し、2機がシールドの効果範囲の外に出るのを確認すると再展開。

 偽装を兼ねる増設装甲を装備したフロレントと改良されたアロンダイトはそれぞれ水中用にバズーカを抱えて、迫る魚雷群めがけて発砲する。


 バズーカの弾は魚雷に向けて向かうと、魚雷に接近するといきなり爆発を起こす。

 近接信管による起爆。

 魚雷の近くにバズーカの弾が到達したことにより起きた爆発だが、それが連鎖して次々と魚雷を破壊していく。

 が、それでも数発ほど爆発を抜けて魚雷がプリドゥエンへ向かう。


「アニマさん」

『まかせてください』


 重量増加と引き換えに、左右対象に改修しなおしたことでバランスがよくなったアロンダイトのバックパックに装備された複合武装ユニットを腋の下を通すようにして前に突き出す。


『マルチロック完了。撃ちます』


 一見するとまるで箱。だが、その箱の蓋が開くとそこにはマイクロミサイルがびっしりと詰め込まれており、それが一斉に放たれる。

 魚雷だけでなく、その後ろにいるヴィデータと、大型の機体――照合の結果、バリダッコと言われる水中母艦としての機能も持ち合わせた大型ソリッドトルーパーにも照準をあわせて放たれたそれらは、不規則な軌道で殺到する。

 地上でならばもっと速度がでたのだろうが、それでも十分相手の動きを阻害するのには役立つ。


 迫りくるミサイルに対し、ヴィデータは軽快な動きでそれを回避。

 またすでに撃ち切った魚雷発射管をパージして身軽になり、迎撃するために加速して二手に分かれる。

 2対1の状況に持ち込み、処理しようとしているのだろう。

 だが、相手は誰を相手にしているのかわかっていない。

 まあ、判ったら判ったで問題はあるが、それでも実力差というものを理解できていない。


「水中なら、これを使える」


 バズーカを手放し、背中に装備している十字型のブレードに手を伸ばす。

 フライトユニットを装備していない今だからこそ、いつもの武器を使えるのだ。

 それを抜いて構え、突っ込んでくるヴィデータが伸ばしたマニュピレーターめがけて大きく振り抜いた。


「やっぱり、手加減はできそうにないですね」


 勢いよく全身を使って振りぬかれた巨大な剣は3つの爪を持ったヴィデータのマニュピレーターを容易く斬り裂くだけでなくそのまま胴体を左腋の下から右肩のほうめがけて斬り裂いた。

 当然、コクピットも切断されている。

 僚機を失ったもう1機のヴィデータが慣れない水中で大振りしてバランスを崩しているフロレントめがけて弧を描く軌道で距離を取りつつ勢いをつけて突撃してくる。

 今からもう一度、ブレードを構えて振るうなんてことは到底間に合いそうにない。

 相手のパイロットは当然それ理解している。だからこそ、攻めてこようとしている。

 だが、ベルもまたそれを想定している。

 ぱっ、と十字型ブレードを手放すなり、両腕の追加装甲を展開して中からブレードを突出させる。

 突撃してきたヴィデータは両腕の爪でフロレントに掴みかかろうとするがその両手が先ほど突出させたブレードによって縦に割かれていく。

 もはや勢いはとまらない。

 突っ込んだ勢いのまま両手を破壊されたヴィデータめがけて、フロレントは両足を付きだして思いっきり蹴り飛ばした。

 そして、ワイヤーアンカーを射出し、それで先ほど手放したブレードの柄に巻き付けるなり引き寄せながら思いっきり機体を横回転させた。

 すると、蹴り飛ばされてバランスを崩したヴィデータへと、ワイヤーごと振り回された十字型ブレードの刃が直撃。その胴体を切断した。


 一方。アロンダイトと対峙した2機であるが、そちらは接近することができずにいた。

 理由は、アロンダイトの多彩な装備。

 先ほど使用したマイクロミサイルは勿論であるが、その反対側にも武装が存在する。肩越しに展開した時に使用可能な60ミリ無反動砲である。

 さらに両肩のマルチプルランチャーから弾幕のようにロケット弾が放たれ、下手に接近すれば撃ち落とされかねないという状況である。

 だが、それも長くは続かない。

 実弾武装には当然、弾切れというものが存在する。その機会を伺い、2機のヴィデータは回避に専念しているのだ。


『このままでは埒があかないなあ……』


 勿論、アニマはそれを当てるつもりで攻撃している。攻撃しているのだが、水中での速度では相手のほうに分がある。

 空気中よりも弾速が遅いというのもあるのかもしれない。

 ならいっそ、射撃をやめてみるか、と思い切って攻撃を中断する。

 その途端、弾切れを起こしたのだと考えたのか、先ほどまで逃げの一手を打ち続けていた2機が動きをかえてアロンダイトのほうへと向かってくる。

 が、それを見越していたアニマは腰にマウントしたままであったロングレンジビームライフルを構える。

 勿論、そのまま発射すれば水蒸気爆発を起こしてライフルがオシャカになる。


『まずは1機』


 アニマはベルと異なり、手加減ができないというわけではない。攻撃する場所を選んで、的確に行動不能に追い込む事も、やろうと思えば可能だ。

 だが、今はそんな選択肢を考えるほどの余裕がない。いや、その言い方は語弊がある。

 考える余裕がないのではなく、考えるのが面倒くさくなったのだ。

 向かってきたヴィデータのうち1機にあえて接近し、ビームライフルの銃口をその胸部に突き刺すような角度で押し当てて、引鉄を引いた。

 瞬間。一瞬だけ放たれたビームはコクピットを焼き、背中へ抜けた瞬間に水蒸気爆発を起こして機体の上半身を吹き飛ばした。

 その光景に怯んだもう1機のヴィデータは動きが鈍った。

 そこへ、左手に握ったままだったバズーカが放たれて機体を粉砕する。


「残るは――」

『あのデカブツだけ、ですね』


 2機がいまだ上のほうにいるバリダッコのほうへ視線を向ける。

 瞬間、バリダッコのX字になった巨大な下半身ユニットが閉じ、それがベルとアニマに向けられる。

 瞬間。嫌な予感がして、アロンダイトはマルチプルランチャーから煙幕効果のある弾丸を発射。水中用に調整されたそれを散布し、その間にプリドゥエンのほうへと後退する。

 直後、4つの閃光が煙幕を突っ切って放たれ、そのまま海底を直撃。砂埃を巻き上げる。


「なんですかアレ!? 水中でビームなんて使えないはずじゃ――」

「ベル、あれはビームじゃない。レーザーだ。ただ、あのレーザーは照準用。攻撃能力を持つのは――音だ」

「音であれだけの威力がでるんですか?」

「フォノンメーザー砲。細かい説明を省くと、あれに当たると物がぶっ壊れる」

『それって結局いつもの当たらなければなんとやらでは?』

「それより2人ともそろそろ戻ってきてくれ。いい加減潜り始めるぞ」

「了解です、アッシュさん」


 煙幕の効果があるのか、それとも単純に相手側の射程やセンサーの問題か。

 バリダッコは闇雲にフォノンメーザー砲を発射し続けるが、それらはただ海の環境を荒らすだけで、肝心のフロレントやアロンダイトには一発も当たることはなく、2機は無事に帰艦する。


 と、ここでプリドゥエンが180度回頭する。

 エクスキャリバーンに偽装を施したこの状況でも、一部の武装は使用可能だ。

 たとえば――ローエングリン側に装備されているリニアカノンだとか。


「今潰しとかないと追ってこられても面倒だし、やるんでしょアッシュ」

「まあな」

「全4門照準合わせ完了してます」

「仕事が早いなマリー。よぉし、発射ッ!!」


 みな考える事は同じである。

 何より、先に手を出したのはあちらだ。正当防衛である――と言いたいが、完全にやっていることは犯罪者のそれである。

 偽造した申請書で許可取りました。でも偽造がバレて戦闘になったんで返り討ちにしました。しかも堂々と自分達の惑星の名前名乗りました。

 完全にやっていることは他の惑星に対するテロ行為である。


「これ、本当に惑星間戦争のきっかけになるんじゃ……」


 そうマリーが懸念するが、まあ言い訳はなんとでもなる。


「新造の大型輸送艦のうち1隻が盗まれた、と今惑星連盟のサーバーに侵入して報告を出していおいたよ。これで一応は辻褄があう」

「でもそれのせいで本当に新造艦作らなきゃならなくなっただろ……」


 放たれたリニアカノンの弾丸に穿たれたバリダッコが爆散するのを確認し、再び回頭し、プリドゥエンはより深い場所へと潜っていく。

 この先に、何があるのか。それを確かめる為に。

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