第157話 海中
目標のポイントに向かって海中を進むプリドゥエン。
エクスキャリバーン由来の超高出力シールドがあるとはいえ、深海の水圧には耐えられない、と設計者自らに名言されているのだから多少の恐怖はある。
だが、それを引き換えにしても――海中の光景は美しかった。
「資料映像なんてミスターが言っていたけど、これはなかなかだな」
「この辺りはまだ浅いし、アクエリアス全体が極点付近以外は温暖な気候だから、サンゴ礁が広がり、それを中心とした生態系は――どの惑星に置いても美しい」
マリーやアニマなどは天然の水族館に興奮気味で、外部カメラからの映像を目を輝かせながら見ている。
一方、出身者であるマコは非常につまらなそうにしており、メグも興味をみせていない。
「不思議なのは、どの惑星も細部は異なっても大きくは変わらない生態系をしているということだ」
「魚くらいどの惑星にもいるだろう」
「その程度の生物ならば、ね。では聞くが――アレはどう説明する」
アッシュの言葉に、メグが映像に映る大型生物を指さす。
それは、アクエリアスの海を泳ぐ巨大な哺乳類。クジラである。
「クジラの進化について、アッシュくんはどこまで知っている?」
「進化って、そりゃああらゆる四足生物は地上で活動できるようになった魚から進化した生物から分岐して進化していったんだろ?」
「では、陸地のないこのアクエリアスではどうだい。先に言っておくけれど、この惑星では過去一度たりとも石炭や琥珀が発見されたことはないよ」
「つまり……」
「同じような進化の過程をたどれたのならば、まだ納得できる。けれど、ここまで違う環境で生まれた生物が、ここまで似た姿に進化するかい? 収斂進化にしても限度ってものがある」
収斂進化。同じような環境に適応しようとした場合、異なる生物種であっても同じような身体的特徴や能力を獲得することがある、というものだ。
例として、サメ類とクジラ類の全体的なフォルムの相似。コウモリと鳥類の翼などがそうだと言える。
が、今プリドゥエンの近くを悠々と泳ぐクジラは、どうみたってクジラなのだ。
言われてみれば不思議な話である。
当たり前のことだと受け入れていたが、よくよく考えればなぜここまで似た姿に進化したのか、と問われるととたんに違和感がでてくる。
「僕はね、その秘密を解き明かしたいんだよ」
「秘密、ねえ。まさかとは思うけど、人間以外の生物も始祖種族が関係している、なんて言うんじゃないだろうな」
「それを主張して学会を追い出されたんだよ。流石に絵空事が過ぎるってね。でも――」
にんまりと笑い、シルルのほうに視線を向けるメグ。
「君たちはいろいろと知っているし、接触しているようだし、近くにいると面白そうだ」
「それはどうも。ベル、周辺警戒は密に頼むよ。マコの言葉を疑うわけじゃないけど、潜水艦や海中行動が可能なソリッドトルーパーが出てこないとも限らないからね」
「了解です。でも、もし戦闘になったら……」
「一応各機には防水コーティングは施したし、ソリッドトルーパー自身元々ある程度の水深までは耐えられる。問題は機動力と武器のほうだ。前にアニマが言っていたように、水中でビームなんて使おうものならその熱で水蒸気爆発が起きる。だから武装は当然実弾がメインになるわけだが――」
「水中では水の抵抗の関係で本来よりも威力が下がる、と」
そうなると武器の選択肢はかなり限られてくる。
「まあ、そもそも。こいつの外装が耐えられない深度で攻撃を受けたら出撃させることもできない訳だから、逃げの一手だね」
件のポイント。すべての海流の源流たるどこか。
複雑に絡む海流の流れが行く手を阻もうとシールドごと艦を大きく揺らすが、それを大出力で押し通り、直進を続ける。
と、レーダーにいくつかの反応が映る。
「レーダーに感あり。数4。反応から見てソリッドトルーパーかと」
「ほらきた。マリー、アニマ。戦闘準備。まだこの深度ならば戦闘可能だ」
「ベルとアニマは出撃準備。装備の確認は忘れるなよ。それと、出撃前の注水もだ。ただし、出るのは相手が撃ってきてからだ」
アッシュの指示に従い、ベルが走り出し、アニマが壁際の充電装置に擬体を固定してアストラル体となり格納庫へと直行する。
「マコ、しばらくは潜るな。速度は落としていい」
「了解」
「シルルは相手が通信をかけてきたら対応。俺とマコの姿を映すのは拙い」
「了解」
「では、わたくしはシルルのやっている作業を引き継ぎですね」
「頼む。俺もフォローする。メグ」
「お、やっとファーストネームで呼んでくれたね」
「レーダー監視と周辺の地形の把握を頼む。それによっては一気に潜る事になる」
「了解だ。任せたまえ」
先ほどまでベルが座っていた場所にメグが座り、コンソールを操作しはじめる。
全員が全員位置に付き、ベルとアニマもじきに自分の機体のところへたどり着くだろう。
あとは相手の出方次第だが――。
「接近する機体のスクリュー音から相手の機種を特定。データベースとの照合の結果、ヴィデータが4機。あっ、遅れて何か別のものが――って何だいこれは!」
ベルと変わったメグが叫ぶ。
「状況説明!」
「すまない! スクリュー音の反応はないが、巨大な何かが急接近してきている。これは何だ……」
「潜水艦……ならスクリュー音くらいするよね」
「っと、あちらさんから通信だ。繋ぐよ」
シルルが通信に応じ、自身のコンソールに相手の顔を表示させる。
『こちらアクエリアス国際連盟所属海域警備隊。貴艦は進入禁止海域へ接近しつつある。所属と目的を述べよ』
「こちら惑星国家ネクサス所属の大型輸送艦プリドゥエン。現在、メグ・ファウナ博士の要請で惑星アクエリアスの生態調査が目的だ。そちらに申請をして、とっくに許可されていると認識しているが?」
そう毅然とした態度で、偽造を行った当事者が応じるのだから、思わず笑いだしそうになるのをアッシュは堪える。
『……こちらでは確認していない』
「そんなはずはない。この惑星の国際連盟を通じて申請を行い、各フロートや海底都市にも通達がいっているはずだが」
『いいや。確認されない。我々が記録している限りでは、その様な申請が出されていない』
「……参考までに、そちらはいつ頃の申請までを把握しているので?」
『昨日までに申請を出しているのならば、すべて把握している』
ブリッジにいる全員が天を仰いだ。
おそらく、定時連絡か何かで付近に接近するであろうものを把握できるているのだろう。
そしてその定時連絡で、昨日までに提出された海域の調査許可だの操業許可だのは警備隊にも通達されている、というわけで――当然、今日提出された数日前の許可申請など彼等が知っているはずがない。
「堂々と国の名前だしてコレか。どうするつもりだメグ・ファウナ。あなたの責任だぞこれは」
「とりあえず、逃げようか。はっはっは」
「「「言ってる場合か!!」」」
マリー以外の全員にツッコまれるメグ。
同時にシルルは通話相手から目線をそらさずすでに注水が終わっていた第4格納庫直通ハッチを開き、フロレントとアロンダイトを出撃させる準備をする。
「2人ともまだ出るなよ」
『わかってます』
『攻撃を受けてから、ですよね』
そうベルとアニマが返事した直後。
『警告する。これ以上の海域侵入は惑星間の問題に発展する可能性がある。警告に従わない場合、貴艦を撃沈する』
「残念だが、我々は進むしかないのでね。その提案は飲めない」
『了解した。これより攻撃を開始する』
通信が切れるとともに、4機のソリッドトルーパー・ヴィデータが腕を突き出し、やや強引につけられた魚雷発射管から魚雷を放った。
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