第156話 不自然な海
惑星アクエリアエス最初の降下ポイントは、メガフロート・アラフラ付近。
着水するなり、ブリッジのコンソールには異常を知らせる。
と、言ってもローエングリンとタンホイザーに搭載されているエーテルコンバーターの出力低下を知らせるものであり、大した問題ではない。
尤も。4隻もの大型艦がドッキングしたエクスキャリバーンならば通常動力であるプラズマドライブだけでも十分な出力を維持していられるが。
閑話休題。
アラフラへの入港後、艦を降りたベル・シルル・アニマ・メグの4人は、早速上陸手続きを終えて、街へと繰り出す。
流石に個別に行動をする訳もなく、4人纏っての移動であるが――まあ、目立つ。
相変わらず修道服を纏ったベル。派手な赤毛に白衣を羽織ったシルル。身体は新造されより人間に近い顔の造形になったが、なぜかメイド服は無理やり着せられたアニマ。そして指名手配されているメグ。
これで目立たないわけがない。
「メグ、この借りは高くつくぞ」
「いやあ、助かったよ。流石に個人の財布では払いきれない金額だったからねえ!」
『その代わり、それ外したら即死するようにしましたからね』
「あとある一定以上わたし達やネクサスから離れても起動しますから」
「はっはっは。怖っ」
メグの首につけられたチョーカー。それはシルルお手製の拘束具であり、無理に外そうとしたり、管理権限を持つ人間から離れすぎたりすると起動し、超高圧電流を流すようになっている。
罰金を肩代わりする代わりに、ネクサスに一生縛り付けられる事になったわけだ。
なお、アラフラの
――しかし、一体何をしたらそこまでの罰金刑を食らうのだろうか。
「で、まずは情報収集だ。といっても――」
「全く手掛かりはありませんね」
「ん? いやいや。手がかりならあるよ」
と、メグが言う。何を言い出すんだ、と3人の視線が集中する。
『どういうことですか?』
「ウミサメカラスって知っている? サメカラスがアクエリアスの環境に適応した変異種なんだけどさ」
「ウミサメカラス……アニマ」
『データベースから検索します。えっと……あ、でてきました。原種よりも小型で、水中での活動に特化した変異種だ、と。凶暴なペンギンとも書いてますね』
「ちなみに、美味しいし、飼育も簡単だよ」
味に関してはあまり興味はないが、それがなんの手がかりになるのか、と首をかしげる一同。
「生態、読んでみて」
『え、あ。はい。――海流に乗って長距離を移動していることは確認されているが、巣にあたる場所が確認されていないのはこの変異種発見以来の謎である……ですか?』
「だから僕は考えた。ウミサメカラスは海中のどこかに巣を持っているんじゃないか、とね」
「海中に巣……ありえない話ではありませんが、いくら変異したといってもサメカラスは肺呼吸の生物ですよ? 海中に巣があったところで……あ」
海中でも、洞窟などでも場合によっては空洞が存在し、酸素が確保されている場合がある。そしてそれが自然にできたものではなく、何らかの人工物である、という可能性もゼロではない。
そしてそのポイントを絞り込めれば――直接的ではなくとも、ミスター・ノウレッジの情報にあった艦艇の集結地点も割り出せる確率が高い、というわけである。
「だから、調べるのは惑星全域の海流と、ウミサメカラスの分布図。あとはそこから巣の位置を導き出すだけさ」
「回りくどいなあ」
「回りくどくて結構。馬鹿正直に本題を訪ねてどうするんだい、シルルくん」
それはそうなのだが、メグに言われると妙に癪に障る。
とはいえそれでは時間がかかりすぎる気がする。
状況から考えて、アクエリアスの連合政府はすでに何かの目星をつけている。
それが本当に古代兵器なのかどうか、というのは現状においては判断がつかない。
ただ、宇宙海賊『ハンマーヘッド』の首領であったアクエリアス人のモブカ・サハギンが、殺せば古代兵器が暴走するとされているマコの命を奪うつもりで仕掛けてきたのだから、古代兵器を発見し、その制御に乗り出してきたと考えて動いた方が良いだろう。
――まあ、モブカが何も考えていないだけの愚か者であった、という可能性もなくはないが。
「で、そんな情報はどこで仕入れるんです? やはり
「あーダメダメ。あそこは情報が入ってくるのが遅いし、直接関わらない案件には腰が重たい。こういうのは直接触れる機会のある漁師に聞くのが一番だ」
『漁師……ですか?』
◆
数時間後。たっぷりと買い物を済ませ、プリドゥエンの――まあ、正確にはエクスキャリバーンのブリッジに戻ってきた4人は早速。メインスクリーンに惑星全域の海流海流を表示させた地図を表示させる。
と、言っても流石に陸地のない惑星。地図といっても海の青一色である。
「……惑星の世界地図ってこんなんだっけか」
と、思わずアッシュが呟く。もちろん、そんなわけがない。
砂漠で覆われたサンドラッドですら、河川や海が存在している為、世界地図が一色になることはまずない。アクエリアスという惑星が特別なのである。
「流石にこれだけじゃ話にならないんで、各メガフロート、ギガフロートの位置もちゃんと表示。ついでに色をかえて海底都市もね」
そうしてやっと多少ではあるが地図らしく見えるようにはなった。
ついでに、現在位置を点滅させることでわかりやすくする。
「ま、細かい海流を省いた大まかな図だけど、今はこれで十分。そうだろ、マコちゃん」
「なんか今ぞわっとした。でもまあ、その通り」
海流が不自然だ。
普通、海流というのは惑星全域を、あるいは一定の海域を循環する。
だが、その海流が――複数あるポイントから発生しているように見えるのだ。
一定の範囲内の水をかき混ぜるように、大きく分けて3つの流れがある。
だがそのすべてが――たった1つのポイントから発生しているように見える。
「もしかしてここが……」
「ついでにウミサメカラスの分布図を重ねる、と」
メグが操作すると、そのポイントから発生した海流沿いに広がっていることがわかる。
そして、目撃された個体数に応じた色をつけると――件のポイント周辺がやたらと多い。
ここまで状況証拠が集まると、怪しい何てものじゃない。
「マコ、確認するが、この惑星には潜水艦というのはないのか?」
「ない。潜るなら自分達で十分だし、アクエリアス人は相当な深さまで潜れるからね。でないと海底に都市なんて作ってられないって。……って、待てよ」
マコが何かに気付いたようで、メインスクリーンと同じ画像を自身の目の前にあるコンソールにも同じものを表示させる。
「確か、このポイントって海溝があったはず……」
「海溝? そこにアクエリアス人は潜っていけるのか?」
「無理無理。完全に深海だよ? 流石に肺が潰れて死ぬよ」
と、マコは言い切る。
だが、そうではない生き物がいるとすれば、どうだ。
「ファウナ博士。どう見ている?」
アッシュの質問に、メグはにんまりと笑いながら答える。
「ウミサメカラスはこのポイントの周辺に巣を作っていると考えるのが自然だね。けど、酸素も霊素が存在しない海中に、となると、うん。ありえない。生物として規格外な宇宙生物の一種であるサメカラスだって、霊素が全くない空間では生きていけないからね。つまり、確実に空洞がある」
『……ということは』
「目標は深海、ってことですか?」
若干目を輝かせるマリー。そりゃあ深海探索となれば好奇心が抑えられないのはわかる。
だが、少々シルルが渋い顔をしている。
「どうしたのさ、シルル」
「マコ、考えてみてくれ。エクスキャリバーンは宇宙戦艦――いや、高機動戦闘要塞だ。海中での活動はともかく、深海での活動は想定していない」
「つまり……?」
「シールドを転回し続けていないとアウト。もしシールドが限界深度を越えた地点で破られるようなことがあれば――」
その先は、もう言わなくても誰もが理解できた。
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