惑星アクエリアス
第154話 半年後
建国宣言から半年ほど経過し、惑星国家アルヴが承認したこともあり、ネクサスは正式に惑星国家のひとつとして認可。惑星連盟加入の惑星となった。
他の惑星から見れば、新興国家かつ開拓途中の惑星ながら発展著しく、また現在においては惑星国家ラウンドを上回る科学技術を持ち、急速に力を付けつつ上それなりに大きな惑星国家であるアルヴとの繋がりも強いとあり、良くも悪くも要注意国家、といった評価である。
尤も。場所があらゆる惑星から遠い為、交易もあまり盛んではなく、良く分からないから怖い、というのが本音だろう。
そんな国家としてのネクサスがそれなりに安定しはじめたころに、その一方は届いた。
『ハイパースペースで君たちを追いかけてきていた相手が解った』
ミスター・ノウレッジが、あの時追いかけてきていた存在についての情報を掴んだのだ。
それをシースベースで受け取ったアッシュは、その通信を地上の首都マルグリットにある連合代表の執務室にもつなぐ。
『結論から言うと、あれは惑星アクエリアスのものだ』
「アクエリアス、ねえ」
アッシュの隣で通信を聞いていたマコはやはり複雑な顔をする。
アクエリアス所属の艦艇が追いかけてきていた、ということはほぼ間違いなくマコへの怨恨だ。
どうやってハイパースペースに入るまで気付かれないようにしていたのかは気になるが、ネオベガスで起きた『蛇の足』が起こした占拠事件の際に現場にいた艦艇の中に、おそらくはアクエリアスの艦艇も居たのだろう。
『ようは、その時に目を付けられた、って話だろ』
『アクエリアスと言えば……レイスで攻撃を仕掛けてきた海賊も確か』
地上にいるマルグリットとシルルも、いつぞや戦った宇宙海賊の事を思い出していた。
宇宙海賊『ハンマーヘッド』。あの場にいた多くの戦力を破壊し、かつ旗艦たるハンマーヘッド号も沈めた。
それで海賊そのものは壊滅した、とは思っていたが――何もマコを恨んでいるのはあの海賊たちだけではないということだろう。
「まあ、そりゃあ宇宙中を飛び回ってる死刑囚かつ脱獄犯だからね、アタシ」
『それずっと気になってたんですけど、なんでマコさんは指名手配されてないんですか?』
「そりゃあ、生きて居られても困るし、下手に死なれても困るからだろうさ」
と、アッシュが言う。
事情を知らないモニター越しの2人は首を傾げ、音声だけのミスター・ノウレッジはなるほど、と唸る。
流石に情報屋だけあり、ミスター・ノウレッジはその事情を知っているのか、驚いた様子はない。
「まあ、死刑囚になった原因は前にも言った通り、大量殺人な訳だけどね」
「で、その死刑判決が下ってから問題が起きた」
『マコ・ギルマンの心臓には始祖種族の遺産が埋め込まれていることが判明した。それだけならば殺して回収すればいい、という話だったのだがそれは対となる古代兵器の起動キーであり、同時に封印でもある事が判明。もしマコ・ギルマンの生体反応が途切れれば、その時点で古代兵器が暴走する可能性があった、というわけだ』
『古代兵器……興味がそそられるねえ』
と、不敵な笑みを浮かべるシルルをマルグリットが制する。
『つまり、宇宙中に指名手配してしまうと、その古代兵器の存在が明るみになる可能性があるから、内々の問題にしてしまった、ということですか?』
「ま。そういうことだね」
人間1人を宇宙中に指名手配するというのは、案外手間もかかるし、その理由がしっかりしていなければその段階で退けられる。
マコの場合は死刑囚かつ脱獄犯ということで、指名手配の要項は十分であるが、今度は彼女自身が抱えている秘密が、アクエリアス側にとっては非常に厄介で、それが漏洩する事は避けたいと考えるのは当然。
しかも、その秘密を当事者が知っているのだから、保身のためにそれを喋ったりすれば、古代兵器を求める勢力がアクエリアスに押し寄せるであろうというのは容易に想像できる。
そして、最悪なのがマコが死ぬことで古代兵器が暴走するというパターン。これに関しては何の対策もできていないとどのような被害をもたらすかわかったものではない。
だからこそ、生きていられも困るし、死なれても困る、となるわけだ。
『というか……マコさん、人工心臓だったんですか!?』
「あれ、言ってなかったっけ?」
『聞いてません!!』
「しかも普通の心臓みたく鼓動まで打つからな。精密検査でもしない限りはバレないさ」
そう冗談っぽく言った後、ふと思い至って表情が変わる。
ちょっと待てよ、と。
「ミスター。いきなりだが、もしかしてアクエリアスの奴等は、その古代兵器をどうにかする手段を見つけたんじゃないのか?」
そうでなければおかしい。
少なくとも、無力化する手段は存在しているか、そうできると確信した何かがなければ、マコを本気で殺しに来るはずがない。
『別料金だな』
「……まあ、うん。そうだと思った。いいよな?」
『許可します』
現状、アッシュ達の資金運用の最終決定権はマルグリットが握っている。
半年経って、アルヴへの
資金の面ではとりあえず問題はない。だが、やはり国の金を動かすのだからその国の代表に許可を求めるのは当然のことだ。
『正直なところ、不明な部分が多い』
「おいおい。それで金取るとか言わないよね」
『だが、特定のポイントへの艦艇の集中具合からして、そこに何かがあるというのは間違いない』
『不明瞭だな。それでは支払いを躊躇うが……』
『では言い方を変えよう。調べることができなかった、と』
その言い方をした途端、アッシュ、マコ、シルルの顔が変わる。
マルグリットも、隣のシルルの雰囲気が変わったことを察し、思考を巡らせる。
『もしや、妨害されたのですか?』
『その通りだ。無人調査艇を送り込んだが、海域に入った途端にジャミングで操作不能。映像データも回収できず、回収できていた映像は――まあ、B級サメ映画で使われそうなくらいに美しい資料映像だったよ』
「……どうも臭うな」
『そもそも、古代兵器の起動キーがマコの心臓として埋め込まれているなんて、どこで解ったんだい?』
「ああ。それについては簡単にアタシから言うよ。ミスター。だからここから先の情報は割引で」
『ふむ。そうだな。その分の情報料は確かに受け取れないな』
ちゃっかり値引きをしつつ、マコはその理由について語りだす。
「そもそも、アタシが人を殺す事になった理由にも関わるんだけどさ。アタシ達ギルマン一族はみんな何かしらの研究職に就いていたんだ」
『それはマコさんもですか?』
「残念ながらアタシははみ出し者でね。代わりに船の扱い方は他の誰にも負けなかったから、いろいろと危ない橋も渡った。けどまあ、それはおいておいて、だ。ある日、それぞれ別の研究をしていたはずが、すべての研究結果が合流してしまった」
奇妙な事を言うものだから、シルルが首をかしげる。そんなことがあるのか、と。
だが構わず、マコは話を続ける。
「本来はありえない。だがあらゆる研究を進めていくうちに、『惑星のどこかにこの惑星の環境そのものをコントロールしている何かが存在している』という同じ結論に至った」
『コントロールしている存在……?』
「今思えば、あれは始祖種族の遺跡だったんだろうね。そしてそこで、襲われた。探索に参加していた人間は、アタシ達だけじゃなかった。けど、結果として生き残ったのは医者でもあった祖父と、始祖種族研究者だった母の2人だけ」
『2人だけって……マコさんは生きて――あっ』
そこまで言いかけて気付く。
マコ自身は、襲撃された時に本来の心臓を失ったのだ、と。
「どういう理論で今こうして生きているのか分からない。けど、アーティファクトの力でアタシはこうして今も生きている。死刑が執行されなかったのも、母や祖父がそのことを喋ったからだろうね」
『……マコ、言いづらいかもだがもしや』
「アタシより後に捕まったけど、先に縛り首にされたよ。まあ、その間に実行犯とそれを直接指示した奴等全員拷問してサメの餌にしてやったけど……その後ろにまではその時はたどり着けなかった」
『もしかすると、マコの母君の研究記録か何かを見つけた人間がいたんじゃないか? そして――』
「マコの心臓と対になる古代兵器の位置を特定した、と」
その可能性は高い。少なくとも、何かをしているのは間違いない。
「調べるか」
そうアッシュが切り出す。
マコは若干渋い顔はしたが、やるべきであるとは思っているらしく、静かにうなずいた。
「ミスター。助かった。金はいつものところで?」
『ああ。今後もごひいきに、だ』
ミスター・ノウレッジとの通信を切り、ここからは身内だけの会話となる。
と、言ってもここからの話は至極単純だ。
『レジーナに要請しておいた。しばらくは政治機能は彼女に任せて大丈夫だろう』
「ベル、アニマにも連絡」
「さっきメールを送った。アニマはもう返信が来たよ」
『半年ぶりの全員集合ですからね。ベルさんは?』
「同僚に仕事を押し付けたって言ってるよ」
「なら問題ない。出発は早い方が良い。全員揃ったら、出発するぞ」
『その前に、偽装。忘れないでくれよ。エクスキャリバーンのままでなんて出ていけるわけがないんだからさ』
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