第153話 国家としての取引
正式に惑星国家として建国宣誓したが――正直、点数をつけると赤点ギリギリか、むしろアウト。
凛としたたたずまいはしていたが、結局は声から緊張がにじみ出ていた。
これではナメられても文句は言えないが、それもリーファが――アルヴが後ろにいるとなれば少しはマシだろう。
ともかく、惑星連盟に加入すれば文句なしに惑星ネクサスは惑星国家として全宇宙にその名を刻む事になる。
それよりも問題なのが、法律の制定や金銭関係の問題が全く解決できていない。
法律に関しては、それまで各々の惑星で適応していた法律をすり合わせて、それを間に合わせに使用している為これはしばらくは放置していてもかまわないだろう。急ぐに越したことはないが。
それよりも、もっと問題なのが現状国庫に貯蓄が全くないということ。
今はまだ開拓を進める事が最優先となっている為、ほぼ自給自足であるし、『燃える灰』が不足する物資を運んでくるため問題視されていないが、いずれ他の惑星やコロニーなどと貿易を行うとなった時、国庫に資金がなければ当然交渉が成り立たない。
「というわけで、国庫にどうやって金を入れるか、という話です」
マルグリットはそう言って頭を抱えながら、キャリバーン号のブリッジでうなだれる。
なんでこんなところにいるんだ、という疑問に関してはもちろん、ここがなんだかんだで落ち着くからである。
「一応女王、じゃなくて代表なんだな」
「それはそうだろう。ネクサスは王国ではないからね。あくまでも現状サンドラッドとアルヴという異なる惑星出身者の寄り合い所帯で、それらの代表をまとめているという惑星国家としての代表という立場が今のマルグリットだ」
「つまり、より正確には連合国ってことか」
「一応、そのあたりも連盟加入にあたってちゃんと整理しておいたよ」
流石シルル。抜け目ない。
「で、とりあえず。だ。いつまでここにいるつもりだマルグリット」
若干怒気を孕ませ、アッシュはそう尋ねる。
何故なら、彼女は本来今この時間、ここにいてはいけないのだから。
「でも、さすがにこうも連日会談と会議だと……」
「だからシルルが手伝ってるんでしょうが。で、シルルもなんで連れて行かないんだ」
「いや、だって求婚されたらねえ」
「あ、すまん。俺が悪かった」
新興国家の代表としての価値よりも、惑星国家ラウンドの第1王女としての価値を見出している人間は多い。
そういった勢力からの政略結婚の話はかなり多い。
現状惑星ネクサスの位置がほとんどの惑星からはかなり距離のある場所である為、直接訪れる者は存在せず、通信での会談がほとんどであるが――それでもほぼ毎回縁談の話となると
「一応、そういう話になった途端に通信にノイズが入るようにお友達にお願いはしたけどね」
お友達、とはつまりアストラル体である。
彼等には本当に頭が上がらない。
普段から開拓のためにソリッドトルーパーでの作業、衛星軌道でのプラネットガードナーによる惑星警備、加えて各種機器や設備のメンテナンス。
本人たちは嬉々として仕事をやってくれているが、普通の勤務体系では激務どころか過労死ラインをぶっちぎっている。
まあ、彼らには肉体がないからこそできるのだろうが。
「で、話を戻すが、国庫に金がない。これは早急に解決しないと拙い。だがどうやってそれを稼ぐか、という話だ」
「いつまでもアタシ達が運搬係をやるわけにも――いや、それはしないと無理か」
一番近い惑星であるアクエリアスまでも通常のワープドライブで半月。
そんなバカみたいに時間のかかる貿易はコストが悪い。
やるとするならば、やはりそれはエクスキャリバーンによる超長距離空間跳躍である。
加えて、貿易を行うのであればこちらにそれ相応の価値のあるものをこちらが提示しなくてはならない。
「まあ、国としての問題もそうだけど、あの時の追跡者の事、忘れてないよね?」
「それは勿論。でも結局、どこの所属だったんだろうね。アレ」
「それについてはあの時撮影できた動画をミスター・ノウレッジに転送済みだ。調べ終われば返ってくるさ」
接近してきた艦船のデータはよくわからない。ただ、望遠カメラで撮影した画像。そしてその動きを記録した動画がデータとして残されていた。
それがあればある程度、船籍が割り出せる――かもしれない。
望遠での映像だから、その姿がはっきりとは映っていない。それだけの情報でどこまで割り出してもらえるか。
「問題は山積み。開発は急ピッチで進んでいるが――」
「……いや、シルル。急ピッチとかいうレベルじゃないんだが」
シースベース経由で送られてくる、首都――初代ネクサス連合国家代表の名前からとってマルグリットと名付けられた都市は、すでに開拓地ではなく、立派な都市として完成している。
流石にこれだけ急速な発展というのはあり得ない。
まだ惑星を発見してから3カ月も経過していないのに、すでに商工業が機能し始め、今はまだ通貨を導入する段階にないためか物々交換でなんとか社会が回っている状況。
「何を、どうしたら、たった3カ月で、ここまでなるんですか!」
とマルグリットがシルルに詰め寄る。
そのシルルも、ここまでの発展速度というのは予想していなかったようで、困ったように笑っている。
「いやさ。確かに区画整備とか、エリアごとにある程度の役割を持たせるとか、いろいろ計画して指示を出しているのは私だ。当然、私の計画では、現在の状態までいくのに、どれだけ早く見積もってもあともう3カ月は必要だったはずなんだ」
「じゃあなんでこんなこと、に……?」
その時。3人の足元をオートマトンが通り過ぎる。
ブリッジのコンソールにプラグを差し込み、何やら情報収集を始めている。
「もしかして、コレか?」
「そう。ソレ」
「彼等、ですか……」
こうなってくると、ますます国庫に金がなく、国民の収益が物々交換のまま、というのは非常に拙い。
「よし、というわけでリーファ王女――いや、リーファ女王。早速だが取引がしたいのだけれど」
『そうなると思っていましたわ』
アルヴからの使者と合流したリーファは、先の女王であるエル・アルヴがすでに故人であることが体外的に見て確定的である事と、他の王位継承権を持つ人間がいない事もあり、マルグリットのあの宣誓のあと正式にアルヴの女王に即位した。
彼女自身、今から国をまとめなおすという責務を負った人間であるが、あちらは元々それなりの国家であり、元手が全くないネクサスとは少々事情が異なる。
「とりあえずはこちらがすぐにでも提供できるのは――残念ながら兵器だ」
『具体的には』
「そうだねー」
としばらく考え込んで、シルルにはにぃと笑う。
「
「おいそれって……」
「流石にクラレントほどのヤツは無理だ。量産に向いていない。けれど、飛行能力くらいは持たせられるさ」
『それは興味深いですね』
現状、ジッパーヒット以外で飛行能力を持ったソリッドトルーパーというのは存在しない。
そのジッパーヒットも大推力で強引に機体を飛行させているだけであり、航続距離は決して長くないし、その場に滞空することは不可能だ。
だが、自由に飛行も滞空もできる機体となれば、その価値は計り知れない。
『では、具体的な金額の話を始めましょうか』
「まあ落ち着いてくれ。ソリッドトルーパー
『それは残念です』
「なので、まずは3機ほど製造して運用テスト。その評価次第で正式受注、ということでいいかい?」
『なるほど……で、それはどれほどでできますか?』
「んーと……10日かな」
『「「早ッ」」』
流石にそれはシースベースの製造速度を超えている。
あり得ない話だ、とアッシュも驚愕する。
「各地に配置した中継ステーションのいくつかにはソリッドトルーパーの製造機能も持ち合わせている。ここにパーツごとに発注。その部位の製造に特化させれば――まあ可能だね」
『普通、新型を1機製造するのに設計段階からやったら、どれだけ流用したって3カ月以上はかかりますよ』
「まあ、ウチには優秀な作業員がいるから」
またアストラル体たちに無茶をさせるのか、とマルグリットは大きなため息をついた。
「それ、わたくしのやるべき事だったのでは?」
そのため息には、連合国家の代表たるマルグリットではなくシルルが最初から最後まで全部やってしまったことに対する不満も含まれていたようだ。
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