第146話 ロストテクノロジーの使い方
希望が見えた。大体の位置が特定できたことで、この惑星の位置情報が改めて判明。
そして現時点から確認できる恒星の位置も確認し、惑星の座標が絞れた。
「で、改めて解ったこと。案の定、この惑星は未発見の惑星。最寄りの有人惑星まで片道8日かかる距離である事。もちろん、通常のワープドライブで、だ」
と、シースベースのコントロールルームに集められたアッシュ、マコ、マリー、ベル、アニマの5名と、通信で参加しているレジーナと、車椅子で参加したリーファの計7人の前で、シルルは結論を述べた。
位置が特定できたことは大きく、これで外部からの補給も可能になり、さらにはリーファの帰還も現実的になった。
「なあシルル。空間跳躍ってのはできないのか?」
「それやってタイムスリップした本人からその発言が出たことに驚きだよ。不可能ではないけど、キャリバーンほどの質量を跳躍させようとするなら、リボルビングプラズマドライブでも無理。縮退炉を使えば可能だけど、アレを使うのは正直怖い」
「待った」
「なんだい、マコ」
「リボルビングプラズマドライブって何よ」
プラズマドライブは艦艇の動力炉のことだが、まだわかる。その頭にリボルビングがつくと一気に意味が分からなくなる。
「銃のリボルバーはわかる?」
「そりゃまあ」
「まあ、そんなイメージだ。プラズマドライブを最大稼働して冷却が必要になったら次のヤツに交換。全6基を並べて、1つ冷却している間に他の5つを使って出力を維持する仕組みだ。一応全部一気にフル稼働させて一時的な出力アップも可能だけど、おススメはしない」
「そんなのがキャリバーンに搭載されてたのか……」
「まあ、動力炉なんて大体プラズマドライブだから気にすることはないわな」
「えー、話を戻すぞー」
一旦咳払いして、コンソールを操作してメインスクリーンに現在解っている位置情報に関する情報を表示する。
「現在位置を中心に、重要な場所だけピックアップすると、アルヴがここ。そして一番近い惑星のアクエリアスがここだ」
「これは……」
「改めてみるとアルヴからはかなり離れてるな……これ、どれだけかかるんだ」
「通常のワープドライブで2カ月、ってところかな」
それが片道となると、さすがに長い。
何より、現実的な問題としてそこまでの長期間ハイパースペースに留まっていると、艦船という密閉空間では人間の精神は持たない。
加えてワープドライブそのものがそこまでの長期間連続使用を想定していない以上、どんなトラブルが起きるかわからない。
それこそ、今回のように遭難することだって考えられる。
「まあ、中継地点を何度か経由していくのが現実的、だが……」
「まず、5万人を一気に運ぶのは現状無理だね。かならずよくな事が起きる」
「それは……そうですね」
何か意見しようとしたリーファではあるが、シルルの言葉を理解できるが故に言葉を飲み込む。
人数が多くなればなるほど、統率は取りにくくなる。そして長期間の航行によるストレスはトラブルの原因になる。
それが5万人ともなれば、シルルも警戒するだろうし、リーファもその点は承知している。
だがそれでも、彼女としては一刻も早く同胞たちを故郷に戻してやりたいという気持ちは強く、しかしその想いは現実という問題に阻まれているリーファの胸中は複雑だろう。
「王女には申し訳ない。だが下手に希望を持たせるよりはいいと思ってここで断言しておかなければと思ってね」
「いえ。確かにその通りです。続けてください」
「で、これをどう解決するかだが――それがキャリバーン号のパワーアップの話に繋がる」
「は?」
理解できないといった顔のアッシュ。話が全く入ってきていないマリーとベルは首をかしげる。
今回はバトルドールのほうに入ったアニマも同様の反応で、レジーナは微動だにしていないが、初めて聞く話に興味があるのかやや前のめりになる。
「あの時はアッシュとマコしかいなかったから、改めて説明するが――この3隻を今、シースベースでは建造中だ。名前はそれぞれローエングリン1とローエングリン2。そしてタンホイザーだ」
「ナニコレ……ハイヒール?」
「こっちのはなんだ……四つん這いなってるみたいな……」
「まあ、詳細は省くが、これら3隻は単独でも戦艦として運用できるが、キャリバーン号とドッキングすることで、キャリバーンの性能を底上げできる」
性能の底上げ。それについて、普段キャリバーン号を使っているシルル含む6人は異論はない。
基礎性能があがるということは、それだけやれることが増えるということでもある。
だが、どうも火力過多なようにも見える。
「あの、なんか物騒な文字が見えるですけど」
それを指摘したのは、ベルであった。
「陽電子砲とか、重力衝撃砲とか書いてあるんですけど」
『あ、本当だ。え、ちょっと待ってください。たしか陽電子砲って……』
「まあ、反物質砲だね」
アニマの指摘にさらっと答えるシルル。
「ローエングリンに搭載する陽電子砲は、まあ完全に宇宙空間専用の装備だね。大気圏内で使うと大気と反応して大量の放射線をまき散らすから当然だね」
『そんなものを装備して、何と戦うつもりなんだ』
「それは勿論」
「蛇、ですか」
「蛇……ウロボロスネスト。アルヴに牙向いた者たち」
リーファの表情が一気に険しくなる。
「で、まあそれはおいておいて」
「重力衝撃砲の説明は!?」
「いや、本題から外れるから後回しでいいかな、と」
『いや、流石に気になるのだが?』
「レジーナには悪いけど、本題に戻るよ。このドッキング形態において、ハイパードライブ内での移動速度も各段に上がる。想定では……」
シミュレーション結果を表示する。
それは通常のワープドライブを使用したものと、4隻の戦艦が合体した状態で行えるようになる新しいワープ航行法の比較である。
それを見た直後、その場がざわついた。
マリーとリーファは驚愕のあまり目を見開いたまま固まり、レジーナは前のめりになりすぎてカメラと衝突。
アニマは頭から煙を噴き出し、アッシュ、マコ、ベルの3人は立ち上がってシミュレーション結果を見て茫然としている。
「ちょ、ちょっと待てシルル!! いくらなんでもこの結果は盛りすぎているだろう!?」
「そうです! 2カ月の距離が3日とか、どう考えてもおかしいです!!」
「いいや。そんなことはない。何せこれは縮退炉を使うことを前提としたシミュレーション結果だからね」
「は? でもさっき縮退炉を使うのは怖いって……」
「ん? ああ。言ったよ。けど、それは縮退炉を使った空間跳躍のことだ。前にもアッシュには言ったけど、ハイパースペースってのは適切な距離でないとロスが多い。けどそのロスを帳消しにできるほどのエネルギーがあれば?」
「……気にしなくても構わない、と?」
「そう。つまり、今回のはワープドライブのエネルギー供給源として縮退炉を使用するって寸法さ!」
なるほど、と納得しかけるアッシュ。
「え、でも前にやった時って同じようにやってなかったか?」
そう。キャリバーン号が過去に飛んでしまった時、ワープドライブも使っている。
その指摘に対してシルルは不敵に笑って返す。
「あの時は、接続の仕方がまずかったんだよ。具体的には、縮退炉の空間制御機能が悪さをしていた、と私は結論付けた。なので、今回は単純に電力として使うから問題はない、はずさ」
「最後の一言で一気に不安にさせないでください」
そう言うとベルはため息をつきながら席に座りなおし、そのまま突っ伏した。
他のメンバーもとんでもないものを見たと言った風に脱力し、情報量の過多に疲れた頭を休めようとしている。
ただ、レジーナとリーファに関してはまだシルルと出会ってからそこまで経っていないせいか、とんでもない技術革新が目の前で発表されて受け止めきれずそのままフリーズしてしまった。
「これでキャリバーン号にとっての宇宙は20分の1になる。それ未満の距離ならば、それこそ一瞬で移動することができるって訳さ。これならばあっという間にアルヴとも往復できる」
「でも、さっき言ったことと矛盾してない?」
とのマコの指摘に、シルルは首を振る。
「残念ながら失敗のリスクがある以上、断言するわけにはいかない。あくまでも上手くいけばの話で、もし失敗すれば――我々は全滅。ここの惑星宙域から脱出する手段すら失う。そこだけは覚えておいてくれたまえ」
「それでも、実現すれば、これはとんでもない技術革新ですよ」
と、若干リーファが興奮気味に言う。
確かに技術革新ではあるのだろう。尤も、その肝心肝要ともいえる部分である縮退炉の再現性がない以上誰も真似しようのない技術なのだが。
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