第145話 交点
先遣の調査隊を送り出してから丁度24時間後。ようやく連絡が入った。
降下してからすぐに連絡を寄越さなかった事は多少気にはなるが、それでも状況を知らせる事の出来る余裕がある事が判ったので一安心して、通信回線を開く。
『すまない。ずいぶんと連絡が遅くなった』
「本当だよ。ずいぶんと待たされた。それで、どんな具合だ」
『そうだな。まずは大気組成に関してだが、地上付近はこうなっている』
レジーナから送られてきたデータを確認するアッシュとシルル。
「窒素約78パーセント、酸素約20パーセントにアルゴン約1パーセント。残りが二酸化炭素とその他もろもろ……有害な物質、および蓄積することで有毒化する物質は確認できず。うん、理想的な大気組成だ」
「食料にできそうなものはあったか?」
『ある程度の範囲を捜索し、果実のようなものはいくつか見つけた。その検査結果を元に、今食用になりそうなものを選別中だ。あとは、それを栽培できるか、だが……まあ、これに関しては一朝一夕では結果は出まい』
「まあな。あとは肉に関してだが――」
『その点に関しては少々問題がある』
やや食い気味にレジーナが答える。
「問題とは?」
『今のところ接触した原生生物は肉食・草食問わず皆大型で、力も強い。これを狩猟するとなると少々骨が折れるし、集落をつくるのにも相応の強度の防壁でもなければ難しいだろう』
「家畜化もできそうに……って、それこそ現段階でわかる話じゃあない、か」
『生態調査のための研究団でも欲しいくらいだ』
「それに関しては、アルヴの人間から協力者を集ってもいいかもしれないね。彼等も代わり映えのしないベース内よりも、惑星に降りたほうが精神衛生的にも良いだろうし」
「リーファ王女にも聞いてみよう」
『頼む。あとは、そうだな。現在も続けているが、ある程度採掘作業も行った。現状出てきたのは、石炭、鉄、金、銀、銅。あとは鉛、マンガン、ニッケル、といったところか』
「それは1か所……というわけではないね」
『もちろん、相応に離れた場所に採掘場を作ってソリッドトルーパー隊に採掘をしてもらっていた結果だ。おかげで24時間もかかった』
なるほど。広範囲の採掘ポイントを移動していた結果、連絡が遅れた、と。
それならばそれで連絡をしてくれればいいのに、とは思うが、成果が出たというだけでも朗報だ。
「引き続き調査を頼む。拠点の位置は、今の場所でいいのか?」
『ああ。ではまた』
通信が終わる。
とりあえず、先遣隊の調査も順調のようだ。
「この分だと、もっと人を降ろしてもいいんじゃないかい?」
「全員が全員銃を使えるわけじゃないし、銃も無限にあるわけじゃない。それに、タリスマン達が毎回面倒を見てくれるわけでもないからな。今は要請のあった生物学者と医者。あとは調理師、銃を扱える人間を何人か、だ」
「調理師? 医者と銃を扱える人間はともかく調理師?」
アッシュの発言に首をかしげるシルル。
「いや、だってあそこにいるのはタリスマンとアストラル体だぞ。飯食う奴いねえじゃん」
「……ああ。確かに、食べる必要がないから、調理する技術を持っていない可能性がある、と」
「あったとしても、味見できないだろうからさ。だから調理師」
「めっちゃ納得できたわ。確かに必要だね、うん。味は、大事だ」
2人の脳裏に浮かぶ、マリーの料理。
改めてベルの加入により食の安全が確保され、栄養価と味が確約されたことを神に感謝した。
宗教など廃れて久しいが、なんだかんだ神に祈るという行為はなくなりはしないのだ。
「で、現状食料問題には光が見えてきた。資源も、採掘量が増えれば御の字ってところだ。が、結局気休めにしかならないんだよなあ」
「一番の問題は医薬品だ。こればかりはここにある設備だけでは生産できないものもある。外部から入手する必要があるのだけれど……」
「その外部がどこになるんだよ、って話だろ。頭が痛い」
結局、丸1日経ってなお連絡がつかない状態である。
それも当然と言えば当然の話。
この広い宇宙において、わずか1ミリ変わるだけであろうと、距離が離れるほどその差異は広がり、最終的にはとんでもないズレになる。
現在位置からハイパースペースリンクを用いた超長距離発信を試みても、エーテル通信も結局は発信方向へと直進するだけであり、適当に角度をつけて発信しまくっても、それがどこかの誰かに届く可能性は限りなく低い。
だが今のアッシュ達――もっと言えば、シースベースに滞在している全員の立場上、救援を求められる相手は限られる。
惑星アルヴに届けば良し。惑星サバイブも同様か。だが、他の惑星はそうではない。
せいぜいウィンダムにいるかつてのベルの仲間たちや、エアリアにいるシルルの義理の娘2人くらい。
それに、届くという確証も一切ない。元々確率が低いのに、さらに確率が下がる。もはや天文学的数字の確率での奇跡でも起きない限りは不可能だろう。
「しかし、アイデアだけは良かったと思うよ。ミスター・ノウレッジに助けを求める、というのは」
だからこそ、闇雲に行っても問題のない回線を使った通信で、それを行う。
ミスター・ノウレッジとの通信。これならば他の人間の介入を許すことはないし、こちらの状況を話したとしても、とりあえずは問題はないはずだ。
「まあ、そう簡単につながるものではないけど……」
『――ちら、――――じ』
「……」
「……アッシュ」
『聞こえているか、キャリバーン』
「「つながったああああああああああああああああ!!」」
通信機の前で絶叫するアッシュとシルル。
「シルル、どの角度で出したヤツだこれ!!」
「今調べる! アッシュは情報を!!」
「ああ! ミスター、この通信はどこで受け取っている」
『奇妙なことを聞――待て、お前達。どこから通信を送っている。こんな座標を私は知らんぞ』
「当たり前だ。現在進行形で俺達は宇宙の迷子。だからこうしてミスター・ノウレッジ宛にメッセージを送りまくってんだよ」
『なるほどな。それで、通信ログから現在位置を割り出そう、ということか』
「そういうことだ。で、どうなってる?」
『まて。こちらからもそちらにメッセージを送ってみる。受信したら教えてくれ』
宇宙中にいるミスター・ノウレッジの現地活動用端末や、彼の拠点から一斉に送信されたであろう、『燃える灰』へのエーテル通信。
最低でもあと1か所。できればさらにもう1か所と通信がつながれば、それらの交点となる場所が現在位置の座標、ということである。
無論、実際にはそんな単純な話ではない。
つながった通信の発信元同士の位置関係も想定しなければならない。それらの計算は――シルルに丸投げするしかない。
「それで、この通信はどこと繋がっているんだ」
『惑星フォシルだ』
「フォシル……また、うん。まさかその名前をすぐ聞くことになるなんてな」
続いて、通信が3つ入る。
当然ミスター・ノウレッジが発信したものであり、それらすべてに応じる。
『ふむ……なるほどな』
「どこと繋がったんだ」
『アクエリアス、レイス、ラウンドだな』
ミスター・ノウレッジから齎された情報を元に、シルルが現在位置を計算し始める。
4つの通信。その相手である惑星の位置関係を元に、その交点を導き出す。
宇宙規模の計算だ。数メートル単位のことならばともかく、数光年あるいは数十、数百光年単位での計算。
当然ながら誤差は相当なもの。だからこそ、データは多い方が良い。
正直もっと情報は欲しいが――贅沢は言うまい。
「出たぞ。大体の座標は割り出せた!」
「よし、これで最悪の事態は回避できる! 助かったよミスター」
『まあ、役立てたようで何より。それで、位置が特定できたということだが……そこ、何なんだ』
「え、おそらく未開拓惑星」
『……は?』
ミスター・ノウレッジが、珍しく困惑した声を漏らした。
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