幕間

幕間 ひどい女子会

 ――とある日のキャリバーン号食堂にて。


「ふと思ったのだけれども」

「どうしたのさ、シルル。藪から棒に」


「アッシュって、性欲あるの?」

「「「ぶふぉっぉッ!?」」」


「ちょ、シルル! いきなり何を言うのですか!! ああ、噴き出したお茶が勿体ない……」

「待って、ちょっと気管入った。マジで何言いだすのさシルル!」

「せ、せせせせせせ……」

「ほら、そういう事言い出すからベルが壊れた!」

「いや、すまないね。ただ、ね。普段からこれだけのバリエーション豊富な女性陣に囲まれていて、劣情を全く見せないというのもどうか、と思っただけなのさ」

「確かにそうかもしれないけどさあ。あ、ほら。ベル。そろそろ再起動して」

「ハッ! で、ですが! 生物である以上、三大欲求として存在しているはずです!!」

「ていうか、マリーの前でなんて話するのさ」

「わたくし、そこまで子供ではありませんけど?」


「え、じゃあ。はい」

「キャーーーー!!」

「さらっと端末でアダルトサイト開いて見せるんじゃあないよ。マリーの教育に悪いでしょう」

「あ、あわわ……」

「ほら、ベルもまたフリーズした」

「いや、さすがにベルはもうちょっと余裕持とうよ。ウィンダムでの仕事上、全く見ないとか無理だったでしょうに」

「孤児院の子供たちと大人とでは違います!!」

「あ、見たことはあるんだ」

「いや、そういう話ではなくてですね……えっと、何の話でしたっけ?」


「アッシュに性欲はあるのか、って話。そもそも、男の劣情を引き出すという意味ではベルが適任のはずなんだがね」

「えっ」

「ほら、今手をあててるところをよく見てごらんよ」

「まったシルル。その前に忘れていることがあるよ」

「なんだいマコ」

「アタシがほぼほぼ下着同然の恰好でいるのに一切手を出してこなかった男だよ? 流石にそれより布面積の多い修道服に興奮するとは思えないよ」

「……一理あるね」

「一理ある、じゃないんですよ。マリーさんがさっきからちょっとついて来れなくて遠い目してるじゃないですか!!」


「まあ、マリーは言っても王族。そういう教育は……あれ、なんでこの程度のことでフリーズしてるんだ?」

「知識を持っていたとしても、恥ずかしいものは恥ずかしいのです!!」

「それは、そうね。ていうか、ベル。ついて来れるってことはもしかして、結構なむっつりだったりする?」

「それ本人に聞きますか?」

「ステイ。ステイだ。ベル。その毒針をしまうんだ。流石にそれは洒落にならない刺すならマコだけにしてくれ」

「シルル!? いや、確かに今のはアタシが悪いけどさ!」

「大丈夫ですよ。解毒薬はちゃんとあります。ただ、しばらくの間全身を内側から焼かれるような痛みに苦しんで床をのたうち回るくらいですから」

「それ全然大丈夫じゃないヤツ!」


「で、まあ結局のところ、私が言いたいのは、控えめにいってパターンの異なる美女が揃っているのに、一切手を出してこないアッシュは男としてどうなのか、という話なのだけれど」

「相手を恋愛対象として見てるか否かによってその評価はかわるんじゃない? アタシは別になんとも思わないけどね。ま、ある意味愛してはいるよ?」

「「愛してるんですか!?」」

「マリーはともかくなんでベルまで?」

「あ、いえ。なんでも」

「まあ、愛って言っても色々あるじゃん。アタシのは恋愛じゃなく、家族愛ってのが一番近いと思う」

「家族、ねえ」

「で、さっきの続き。なんとも思っていない相手にセクハラ発言されたって気持ち悪いじゃん? だったら一切手を出してこない今の状況のほうがよっぽど健全に物事が回るんじゃないかな」

「そういうものかねえ」

「でも、確かに誰か1人に手を出した、なんてことになったら――」

「ああ……うん。マリーはともかくほか3人は直接攻撃してくるだろうから、下手な事はしない、か」

「つまり、わたし達に一切手を出してこない理由というのは、艦内で不要なトラブルを起こさないようにするため、ということですか?」

「さあね。そこは当人に聞くしかないんだが――」



 ――キャリバーン号、アッシュの自室。


『なんてことを言ってますけど、実際のところは?』

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