未開惑星
第142話 ワープアウト
シースベースの周辺にいるソリッドトルーパーをすべて帰還させた後、ワープドライブを起動させベース丸ごと長距離移動を行う。
と言っても、具体的な目的地があるわけではない。
先の一件でキャリバーン号のワープ先を特定された可能性があり、追跡者が接近してきている可能性も否定できない以上、さっさと移動してしまうに越したことはない。
理由は2つ。
どちらも前提に、ワープ先を特定されていたとした場合であるが、まず1つ目は重力兵器を狙った連中が仕掛けてくる可能性が高いから。
重厚な装甲も対ビームコーティングも意味を成さない兵器は、喉から手が出るほど欲しい勢力はいくらでもいる。情報料だけでも相当な報酬になるだろう。
2つ目は『燃える灰』を快く思っていない勢力による攻撃の可能性を否定できないから、である。
あの場にいた賞金稼ぎやならず者――特に後者に関しては自分達の仕事を積極的に邪魔をして来る『燃える灰』は鬱陶しいことだろう。
ワープアウトした先に拠点があれば積極的に潰したいのは間違いない。
「で、シルル。どうするつもりなんだ」
シースベースのコントロールルームで、マコはベースそのものの制御を行っている。
元はコロニーであるが、操作系統は艦艇のものに限りなく近づけてあるので、そこまでマコにとってはそこまで難しいものではない。
まあ、流石にキャリバーン号のように曲芸飛行じみた動かし方はできないが。
「こちらがワープドライブを使って移動したことも監視されていた可能性もある。だから、ワープしきる前に通常空間に復帰する」
「……は?」
シルルの言っていることは、かなり無茶苦茶な事である。
つまり、ハイパースペースからいきなり飛び出す、と言っているのである。
これを解りやすく例えるなら、出入口がそれぞれ1か所ずつしか存在しない高速道路から飛び降りるようなものである。
「それ、普通にやったら死ぬよ。みんなまとめて。今シースベースにどれだけの人間が集まっているか……」
「いや、普通ならハイパースペースの壁面に衝突して大破する。が、こっちにはワープドライブが複数個存在しているだろう。それを使ってバイパスを作る」
「なるほど。キャリバーンにもエンペラーペンギンにも搭載されているから、それを使えば……プログラムは?」
「すでにできてる。パスは繋いであるから、こっちからでも操作できるよ」
「流石はシルル。で、一応アナウンス流した方がいい?」
「そうだね。何せそんな無茶をやったバカは今までいないはずだ」
そう聞かされてマコは苦笑する。
前代未聞のチャレンジをしようとしている。下手をするとみんなまとめてあの世行き。
理論的には可能でも、それを自分の身を使って試そうというバカはそうそういない。
それに誰も試さなかったのにも理由がある。
「耐衝撃防御警報くらいは出しておかないとね」
ワープドライブによる超長距離移動におけるデメリット。
それはワープアウト先に障害物が存在した場合。衝突するだけならともかく、その座標が艦艇や拠点の内側であった場合、大惨事になる。
無論、現在においてほとんど解決された問題であり、通常のワープならばその点も比較的安全に行えるのだが――今回はハイパースペースの横っ腹に大穴あけてそこから出ようというのだ。そうなると、さすがに話が変わる。
これの何が問題か。
実に単純。通常空間換算で光年単位の圧縮が起きているハイパースペースを横道にそれて離脱するというのは、どんな場所にワープアウトするか一切わからないのだ。
それこそ、アステロイドベルトに飛び出すならまだマシ。ブラックホールの重力圏に飛び出す可能性もあるし、恒星のど真ん中に飛び出したり、惑星内は惑星内でも地中や深海に出ることだってあり得る。
「ほとんど博打じゃん」
「確立を計算するだけ無駄だよ。この空間では時折数ミリが100光年ということもあり得るんだ。半々だ」
「出たとこ勝負、ね……それじゃあ、今からやるよ」
コンソールを操作し、シースベース全域およびベイエリアに接続されている各艦に耐衝撃防御の警報を流し、同時に今から行おうとしている愚行ともいえる行為も告げた。
『ちょっと待てマコ、シルル! 何やろうとしてるんだ!!』
と、コントロールルームにアッシュの声が飛び込んでくる。
まあ当然と言えば当然。危険行為この上ない行為を容認できるわけがない。
「とはいえ、こうしなければ確実に逃げきれない。それに、だ。ハイパースペースだからといって攻撃を受けないとも限らないだろう」
『それはそうだが……だが、そんなこと滅多に起きないぞ』
「……いや、そうでもないみたい」
「ほら、アッシュがフラグ建てるから」
『俺のせいじゃないだろ!! 状況は!?』
コンソールを操作して接近してくる存在を確認する。
警報を出すほどではないが、シースベースに近付いてくる存在との距離がどんどん近くなっている。
珍しい事ではある。
ハイパースペースで他の艦艇や要塞などと接触する機会などほとんどない。
だが、もし接触することがあるとすれば――明確な意思を以て行われている行為である。
「この速度……かなりの高速艦だぞ」
「狙いはやはりGプレッシャーライフル、重力兵器かな」
「ロックオンはされてないし、どうする?」
ロックオンに関しては、まだ相手の武器の射程外であるという可能性もあるが、接近してきている以上接触するつもりはある、と見ていい。
『……仕方ない。やってくれ』
「了解。それじゃあ、行くよ!!」
キャリバーン号とエンペラーペンギン号、そしてフロンティア号のワープドライブをリンクさせ起動。
ハイパースペースに分岐路を作り、そこめがけてシースベースを動かす。
理論上は可能だとされていること。そこまではいい。
問題は――ワープアウトした後だ。
「ッ!?」
突如、激しい振動がシースベース全体を襲う。
「やっぱまずかったかな!?」
「慣性と重力制御! シールド展開。各種隔壁随時閉鎖!! 急いで」
『おい、何が起きてる!?』
「ハイパースペースの中にハイパースペースを作った結果、干渉した可能性がある! なるほど、これでは試す人間もいないはずだ!!」
などとシルルが慌てながらも比較的冷静に状況を読み取って言語化する。
だが、それに対するアッシュの反応は、というと。
『言ってる場合か!!』
まあ、当然である。
「ワープアウトする?! こんな状況で――うわっ!?」
何度目かの強烈な振動で、椅子から放り出されたマコは、頭に受けた衝撃を最後に意識を手放した。
◆
どれほどの時間が経ったのだろうか。
気が付けばコントロールルームの天井を見上げて寝ていたマコは、痛む頭をさすりながら起き上がる。
とりあえず、痛みを感じている以上生きてはいる。
同時に、その痛みが一気に冷静にさせた。
「……そうだ。状況確認。ほら、シルル。起きて手伝って」
「う、うーん。あれ、視界が悪い? 眼鏡眼鏡……あ、あった」
コンソールを操作して、シースベースの状況を確認する。
食料生産エリア、動力エリア、メインコンピュータールーム、問題ナシ。
工場エリア、ベイエリア、居住エリア多少の損害あり。ただし致命的な損害はなし。
ベイエリアに接続中の各艦への損害、軽微。通常航行においては一切の問題ナシ。
その他もろもろ確認を進めるが……大きな問題はない。
奇跡的、といってもいいだろう。
「周辺宙域の状況は……って、なんだアレ」
周辺の状況を確認すると、周囲にはデブリのようなものもなければ、この恒星系の恒星からもそれなりの距離がある。
ワープアウトする場所としては理想的な場所である。
だがしかし。
目の前にある惑星を、マコは知らない。
即座にシースベースのデータベースと照合を賭けるも、該当する惑星が見当たらない。
念入りに、キャリバーン号、エンペラーペンギン号のデータベースにもアクセスするが、該当する惑星も存在しない。
「つまり、これって……」
「世紀の大発見、かもね」
――人類未踏の惑星を発見した可能性が高い、ということである。
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