第135話 蛇への宣戦布告
廃墟の様な街並みを抜けてブリッジへ向かうため、この市街地エリアの端まで移動し、壁伝いに移動したアッシュとレジーナは、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉の前に立ち、暗証番号を入力しようとしているが――流石にそれ用のツールは持ち合わせていない。
『さっきの死体からカードキーでも拝借できればよかったが……』
「駄目だろうな。ジャックした連中がパスコードを書き換えてたらそれで終いだし」
『なるほど。しかし、1億通りも試す時間もないぞ』
カードキー以外にもパスコード入力用端末もあるが、0から9までの数字だけとはいえ8桁も入力するのであれば、レジーナの言葉通りそのパターンは1億通りになる。
それを試していては偶然成功する可能性も全くないわけではないが、8時間では到底足りるわけがない。
「……爆破対抗通行、は駄目だな」
『なら、斬るか』
「頼む」
アッシュと立ち位置を入れ替え、レジーナが扉の前に立って右手のブレードを伸ばし軽く振るう。
抵抗もなくスパっと斬れた鋼鉄製の扉が重たい音を響かせて地面に落ちる。
「そのブレード、一体どういう仕組みで物を斬っているんだろうな」
『自分の身体の事ながら、今の今までそこまで気にしたことはなかったな』
普通ではありえないような方法で突破した2人は、そのまま通路を進む。
やけに広い通路は、フォークリフトのような小型のものなら対向通行できそうなほど。
おそらくは物資搬入などにも使っていた通路なのだろう。
そして、資材ごとの保管庫へ続く扉がずらりと並んでいる。
『……アッシュ』
「解ってる。ったく、素人どもが」
その扉の向こう。厚さ数センチもの鋼鉄の扉越しにも伝わる殺気。
こちらがある程度進んでから挟み撃ちにでもするつもりだろうが――レジーナが扉の前で立ち止まる。
『構わないか?』
「仕掛けたのはあっちだ」
『とはいえ、本来のクルーだったらどうする?』
「扉だけ斬ればいいだろ」
『それも、そうか』
ブレードを展開するが、それは先ほど扉を斬った時よりも短い。
剣というよりは短剣。
扉の枠をなぞるように刃を通し、最後まで斬らずにすこしだけ元の状態で残して――思いっきり蹴っ飛ばした。
レジーナの蹴りの威力がどれほどのものかなどは見たことはないが、目測高2メートル前後、目測幅1.3メートルから1.5メートル、厚さ数センチの鋼鉄の板がすっ飛んでいくのを見てアッシュは嫌な汗をかいた。
当然、それを見た扉の向こうで待ち構えていたテロリストも。
『なるほど。やはり敵か』
装備を確認し、それがベイエリアで攻撃を仕掛けてきた者たちと同じものであることを確認したレジーナは近づいて首根っこを掴んで壁めがけて放り投げた。
首のあたりから勢いよく壁に叩きつけられ首が折れたそれは、そのまま力なく床に沈む。
「レジーナ、しゃがめ!!」
『!』
アッシュの声に従い、姿勢を低くするレジーナ。
その頭上を弾丸が通り過ぎる。
レジーナの入った薄暗い部屋の奥から連射される弾丸。おそらくアサルトライフルかマシンガンか。
あちらからすれば照明のある通路側にいるレジーナは狙いやすいだろう。
「寝てろ!」
身を隠していたアッシュがレジーナの真後ろに立つことで相手の意識を向けさせ、マズルフラッシュの光を頼りにエーテルガンの引鉄を引く。
当然新たに現れた敵に対し、即座にアッシュめがけて弾丸を放った。
互いの弾丸が、互いに向かって飛ぶ。
アッシュの方はその弾丸を身を捻って回避する。狙ってくる場所が解っていれば、ほぼ直進してくる弾丸を回避するのはそこまで難しいものではない。
一方で、アッシュのエーテルガンから放たれたエーテル弾は相手に察知されることなく、その身を打つ。
当然と言えば当然だ。エーテル弾を目視できる人間などまずいない。
撃たれた側は相手が何をしたのかも理解せずまま、防弾チョッキを着ていようが、衝撃はそれを貫き直接内蔵を叩く。
「うっ、うぅ……」
といううめき声と共に倒れる音が聞こえる。
どこに当たったのかは相手のいる場所が暗すぎてよく見えないが、声を聴く限りダメージは大きいようだ。
「さて、と。レジーナ。拘束」
『了解だ』
倒れた『蛇の足』構成員と思われる男の両手首を左手だけで握って持ち上げるレジーナ。
アッシュは吊るされた男の身体を触って、男の使用している通信端末を奪う。
「さて、と。聞こえるか、『蛇の足』」
奪うなり、現在使われている周波数帯に向けて通信を開く。
「俺達は『燃える灰』。お前達を潰すためにやってきた。投降するのであれば命は保証するが、抵抗するならば全員殺す。以上」
そう宣言して通信を切る。
これは『蛇の足』への最後通告というだけでなく、その後ろに居る者――蛇への宣戦布告でもある。
『燃える灰』が来たぞ、と。
「というわけで、抵抗したお前はテロリストとして殺そうと思うんだけど、どうする?」
「た、たすけ……」
「じゃあ、『蛇の足』の規模と目的を話してもらおうか。もしこちらが嘘を言っていると判断すれば……レジーナ」
『ああ。こいつでその脚を突き刺す』
と、右手をブレードに変化させて脅す。
恐怖で顔を青くする男。
なんならアンモニアの臭いすら漂い出している。
「で、お前等本当のフォシルの人間なのか」
「あ、ああ……我々は確かに、フォシルの為に、ディノスと戦うレジスタンスだ」
「じゃあ、独立が目的というのも嘘ではないんだな」
「む、勿論だ! だから、たすけ……」
「で。お前等の後ろにいるの、何?」
わざとらしくハウリングの弾を交換しながら笑顔を向けるアッシュ。
その笑みに、男は短い悲鳴をあげる。
手に持ったものがどういうものか、言うまでもなく理解できてしまったが故、より鮮明な死のイメージをしてしまったのだろう。
「わ、我々はあくまでも『蛇の足』ッ! 後ろなど……」
「レジーナ」
『ああ』
「ぎっ……!? ああああああああ!!」
レジーナの刃――の切っ先が男の足に触れる。
それだけでも激痛が走るようで、男は叫びをあげる。
「嘘だろ。フォシルのレジスタンス程度が、なんでラウンドの最新装備なんて使ってんだよ」
「ぎぃひ、わかった、わかった! 喋る! 喋るからもう刺さないでくれ!!」
「じゃあ、お前達の後ろに居る組織についてしゃべってもらおうか」
「し、知らない。おれはしら、しらないッ!」
「ふむ……じゃあ仕方ないか」
右手にエーテルガン。左手にハウリングを持つアッシュが男を挟んでレジーナの対面に立つ。
そして、全力で男の脚を2丁の銃で強打する。
「ああああああああああ!!」
確かな手ごたえが、男の骨を砕いたことを確信させる。
両脚が折られた男をレジーナが乱暴に開放する。
男は地面に脚が着くたびに絶叫して転げまわっている。
「情報提供には感謝する。けど無駄に時間を食ったな」
『確かにな』
「うーん。どうしたものか……あ」
『妙案でも浮かんだか?』
「いや、それよりも先にやることができたってだけだ」
振り返りなががら両手の銃を部屋の入口めがけて放つ。
エーテルガンの弾丸は姿を現した者に。ハウリングのものは壁を貫通し、隠れていた者の身体を防弾チョッキの上から貫く。
『おい、大丈夫か』
「……しばらく頼むわ」
初めてハウリングを使った時は反動で吹っ飛ばされていたが、それまで相応に鍛えたが、さすがに連射には肩が耐えられず関節が外れた。
痛みを感じながら肩をはめなおす。
その間、向かってくる『蛇の足』構成員は皆レジーナが斬り伏せてくれている。
「これだけ肩外しまくってたらクセになってないかな……」
『片付いたぞ』
「悪い。急ごう。ルートの再計算も今端末にやらせてる」
『残り時間は』
「まだ6時間ある。それに、そろそろアニマがやらかすころだ」
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