第133話 ネオベガス潜入

 ネオベガスに接近するいくつもの艦艇。

 その内訳は、惑星連盟の治安維持部隊が6割。残りの4割は管理組合ギルドに出された人質関係者の依頼を受けた者たちで、賞金稼ぎとならず者が半々といったところ。

 同じ目的を持ってはいるが、その行動原理が違う2つの勢力は決して味方同士ではない。

 だからこそ、ネオベガスから攻撃が飛んできてなお、足の引っ張り合いを――いや、足を引っ張ろうとしているのはならず者のみであるか。

 賞金稼ぎ達は治安維持部隊とも通信を行い、その場で簡易的な契約を取り付けて自分達に損が出ないように立ち回る賢さを持っている。

 だがならず者と呼ばれる者たちはそうではない。

 武力を持ち、それを扱うくらいには頭が回るが、自分達の損得ばかりを考えている。だからこそ、ならず者である。

 そのならず者たちにとっては、自分達の稼ぎの邪魔になりうる治安維持部隊も、賞金稼ぎも邪魔でしかなく、積極的に攻撃を仕掛けるということはしないが、相手の攻撃を誘導しようとはしている。


 故に。この戦場はかなり混沌とした様相を呈している。

 かろうじて連携が取れている治安維持部隊と賞金稼ぎをならず者が足を引っ張り、ネオベガスのビーム砲が近づくすべての艦艇を排除しようと閃光を乱射する。

 ビーム攪乱幕を使用しての防御も、連射されるビームを前にしてはあっという間に攪乱粒子を使い切ってしまって効果持続時間がかなり短く、結果として各艦は常に動き回ってシールドと艦そのもののビームコーティングでビームの直撃を避ける方向へとシフトする。

 だがそれでは接近することはできないし、突入艇を送り出すこともできない。

 これは、ならず者連中が足を引っ張っていてもいなくてもきっと、変わらなかっただろう。


 が、そこへ状況を一変させるものが現れた。


「最終確認だ。全員準備は良いな?」


 キャリバーン号。その艦底に取り付けられたシューターに乗り込んだ3人とオートマトン1機が、突入に備えて各自の装備を確認する。

 といっても装備を確認する必要があるのはアッシュとベルだけであり、レジーナに関しては自身の身体そのものを武器に変化させることができるし、アニマに関してはそもそも現在はオートマトンを使っているためそのものでは戦闘できない。


「アッシュさん、その実弾は?」

「シルルに頼み込んでハウリングこいつの弾丸を製造できるだけ製造してもらった。相当な威力があるから、バトルドールが出ても問題ないはずだ。そっちは?」

「毒の量も十分です。仕込みも当然万全。一応アサルトライフルも用意しましたけど……」


 ベルの戦闘スタイルは身軽さを活かした近距離戦。あまり重たい装備は使いたくないのだろう。


「まあ最悪そいつは捨ててもいい。市販品だしな。ただ、機械を相手にすることも考えると――」

「その点は問題ないかと。EMPグレネードもありますし」

『それは……人間のいる場所で使ってもいいものなのか?』

『いえ、普通に駄目です。炸裂時の閃光と音、破片などは勿論ですけど、発生する電磁パルスは義体を使っている人やペースメーカーには間違いなく影響が出ます』

「まあ、よっぽどのことがない限りはベル自身が処置可能だけど……さすがにペースメーカーは拙いよなあ」

「解ってますよ。よっぽどの時以外は使いません」


 ネオベガス側がキャリバーン号に気が付いた。

 他の艦艇が左右から攻撃を仕掛けるのに対し、キャリバーン号は真正面から突っ込んできている。

 航路を先回りしたのだから当然と言えば当然の進行方向である。

 が、アッシュ達にとってはこの侵攻ルートは大当たりであった。

 何せ先に展開した艦隊――と呼んでいいのかどうかはおいておくが、それらによって攻撃がばらけて真正面の防御が手薄になっているのだ。

 とはいえ、全く妨害がないわけではない。

 事実、正面に向けるビーム砲はいくつかあり、それらがすべてキャリバーン号にのみ向けられるのだから、砲門数で言えば少なくとも、その攻撃密度は両舷から攻めようとしている者たちよりも圧倒的に濃い。

 実際、回避のためにキャリバーン号は重力制御機構グラビコンやイナーシャルキャンセラーが働いていなければ内臓をぶちまけてもおかしくないような無茶苦茶な動きをしている。

 何もない宇宙空間なら気にはならないが、何分視認しやすい目標物がそこにあって、その向きが目まぐるしく変わっていれば、酔ってしまいそうだ。


「次、姿勢安定したら切り離し!」

『了解ッ』


 あまり余裕のないマコの返答が、この状況の危うさを物語っている。

 が、なんとかマコは艦の姿勢を安定させて、シューターの切り離しを行う。

 それと同時にキャリバーン号のミサイルハッチが一斉に開いてそこから大量のミサイルが放たれた。

 攻撃目的――ではない。

 本気で攻撃するつもりならば、もっと派手にばら撒く。

 あくまでも少量。ネオベガスの装備でも十分迎撃できるだけの量を放つ。

 逆に言えば、ということでもある。


「ドッキングベイの位置確認!」

「データリンクできてます。アニマさん!」

『任せてください!』


 シューターが加速し、ミサイルに紛れてネオベガスへと接近する。

 次々とビーム砲で撃墜されていくミサイルと、その爆発による衝撃波から逃げるようにシューターが閃光の雨を掻い潜って側面に回り込み、固く閉じられてしまったドッキングベイのゲートを目指す。


「流石はアニマだな。機体の操縦もお手の物か!」

『フロンティア号に比べれば簡単ですよ』

『それはそうだろうな』

「目標発見しました」


 ベルの報告を聞くなり急制動をかけ、ドッキングベイの方向へ艦首を向けてそのまま再加速。

 同時にシルルお手製のハッキングツールを使いネオベガスの管理システムに侵入し、ゲートを開かせた。


「開けゴマってな」

「でもこのツール、ゲートの短時間開放だけしかできないって言ってませんでした?」

「だから、アニマがしくじったら全員地獄行きだ。アニマ以外な」

『責任重大じゃないですか!?』

『お前ならやれるだろう』

『……はい。やってみせます!』


 ゲートの開放が行われたが、すぐに閉じ始める。

 だがすでにシューターは最高速度。


『間に合うか……?』

『間に合わせます!!』


 瞬間。シューターが青白い光に包まれる。


「これは……」

「フロンティア号の時と同じ……」


 青白く光るシューターは速度を増し、そのままの速度で閉じかけたゲートの中に突っ込み、全体がゲートの内側に入ると同時に急制動をかけて静止する。

 トップスピードを越えた状態からの完全静止状態という急激な速度変化による慣性を打ち消したイナーシャルキャンセラーはオーバーヒート。

 おまけに無茶をしたエンジンやジェネレーターは安全装置が起動して機能停止。


『すいません、片道切符になったみたいです』

「構わない。周辺の酸素は?」

「濃度問題ありません。有毒物質もありません」

「よし、全員出るぞ」

『待て。周囲に何かいる』


 レジーナの忠告に、かろうじて生きている周辺監視用のカメラを起動させて周辺状況を確認する。

 それでは何も映らない。が、カメラをサーモセンサーに切り替えるとどうだ。


『……包囲されている?』

「挑発するだけあって、最初に乗り込んでくる俺達を出迎えた、って感じだな」

「もしかして、すべてのベイエリアがこんな感じなんでしょうか?」

「さあな。けど、どうする。シューターに武装はないぞ」

『決まっているだろう。強行突破だ』


 レジーナの言葉にアッシュとベルも同意し、アニマがベルの肩に跳び乗った。


「レジーナ。フラッシュバンを投げるが、大丈夫か?」

『問題ない。遮光も可能だ』

「よし。なら当初の組み分けで俺とレジーナ、ベルとアニマで散開。ベルはアニマを通気口に向かわせた後、各自行動開始で。じゃあレジーナ。まずは、このブリッジ吹き飛ばしてくれ」

『了解だ』


 アッシュとベルが姿勢を低くすると、レジーナは両手をブレードに変化させ、それを振るってブリッジの天井を切り裂いて吹っ飛ばす。

 その直後、アッシュがフラッシュバンを投擲。その閃光がベイエリアを包み込んだ。


「行くぞ!!」

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