第125話 衛星兵器
ワープドライブで地上から衛星軌道上へと移動したキャリバーン号は、PD-01の存在する地点めがけて移動を始める。
その間に、各自は装備を整える。
クラレントはハンドビームガンをフルチャージ状態のものと交換。フロレントは推進剤の補充と、マシンガンの弾薬の補給。
そして――モルガナの起動。
「キャリバーンをマリーとマコだけで回せるか?」
「やってもらわなければ困る。今はアニマに頼れないんだ」
「ですよね。なら、フロレントももっと火力の高い武器を装備したほうが……」
「そうしてくれ。ビームランチャーがあったはずだ」
それぞれがコクピットに腰を落としてコンディションの最終チェックを行う。
『目標を確認しました。各機、スタンバイをお願いします』
マリーの声が格納庫に木霊する。
格納庫に固定されていた機体の拘束具が外れ、クラレント、フロレント、モルガナの順番でリニアカタパルトへと移動する。
「作戦は、どうします」
「そんなもん決まってるだろ。さっといってぶっ壊す」
「それをやり遂げるためにも、出撃前に相手の基本性能は確認しておいてくれ」
各機およびキャリバーン号のコンソールへモルガナから発信されたPD-01のデータが表示される。
ミサイルにビーム砲。それだけでも近づくことが難しく思えるが、問題はそれだけではない。
「全方位展開型のアンチビームフィールド発生装置に、1万2000枚の積層装甲……」
「積層装甲は装甲と装甲の間に超速硬化ジェルが挟まっているから、ちょっとした破損程度ならばほとんど効果がない、ということですね」
「ビームも駄目。実弾も駄目。だから、エーテルブラストを装備したモルガナの出番というわけだ」
『ですが、アンチビームフィールドという以上、あちらもそれを展開している間はビームが使えないはずです』
『なるほど。ビームが飛んできている間は、攻撃のチャンスってワケか』
「ま、こっちが蜂の巣にならなきゃだけどな。さて、カタパルト接続完了。出るぞ」
リニアカタパルトから、クラレントに続いて2機射出される。
キャリバーン号から射出された3機はクラレントを先頭に、V字型に並んだ。
目標となるPD-01は、一応まだ姿が目視できない。マリーの報告も、あくまでもキャリバーン号のカメラを望遠モードで起動させて確認できた、というだけの話である。
勿論、それほど離れた距離から接近しなければ機体を展開させるような暇もないだろう、という理由もあるが。
「アッシュ、改めてだが
「解ってる。そこまでバカじゃねえって」
「……」
「あの、ベルさん。そこは沈黙しないでもらえます? 俺、さすがにここまで念押しされて攻撃に使ったりしないぞ?」
「その点に関しては信用できないんですよ」
「右に同じ」
「むぅ……」
相手側の有効射程範囲を確認し、そろそろその範囲に入ることを確認。
敵側の攻撃に備え、クラレントの
こうすることで、ミサイルの直撃と爆風からは守られる。ビームに関しては、進行方向を逸らすくらいにしか使えないが、それでも十分だ。
「そろそろ来るぞ」
「……ッ!」
いくつもの光が瞬く。すなわち、そのすべてがビームである。
回避運動など間に合わない。気付いたタイミングから間を置くことなく殺到するいくつものビーム。
それらは重力場に命中し、その外周を沿うような形で流れていく。
逸れたビームはキャリバーン号のほうへと向かうが、すでに大幅に減衰していたそれはシールドによって容易に防御できた。
「やたらと攻撃的じゃないか?」
「まるでわたし達が来ることが判って――いや、解っているみたいですね」
「やはり、誰かしらの意思によって、この事態は引き起こされた、か」
ビームによる攻撃は止まない。
攻撃するタイミングを見計らい、フロレントがビームランチャーを構えて飛び出し、1発発射するなり即座に元の位置に戻る。
ほんのわずかな時間の攻撃であるが、ビーム攻撃を行っている間はこちらのビーム攻撃も有効である。
そして光速に近い速度で飛来する光の粒子はPD-01を直撃――することはなかった。
「は!?」
それに声を出して驚愕したのはシルルである。
当然と言えば当然だ。
「ビームをビームで相殺しやがったぞアレ!?」
「そこまで精密な射撃ができるわけがない! あれはただの衛星兵器。登録されていない機体が接近すれば自衛する程度の機能しかないはずだ!!」
「けど、現にッ……! ああもう、こうなると
先ほどの攻撃を切っ掛けに、PD-01からの攻撃が一層激しくなる。
まさに藪蛇。
接近を拒むための攻撃ではあるが、現状クラレントの展開した重力場によってそれらが無効化されている為、3機とその後ろに続くキャリバーン号の接近は防げていない。
と、ビームの攻撃が止まる。
代わりに飛んできたのは無数のミサイル。
オーソドックスな、目標を決めたらまっすぐ進んでくるようなミサイルである。
――だが、嫌な予感がする。
「ベル、後ろ向いて迎撃準備! シルルはエーテルブラスト用意!!」
「了解した!」
「わかりました」
フロレントが進行方向に対して背を向けつつ、ビームランチャーを右のシールドに懸架。代わりに左のシールドからマシンガンを2つ取り出し、両手に持つ。
それとほぼ同じタイミングで、直進し続けていたはずのミサイルが一斉に軌道を変えた。
その軌道はまるで、クラレントの発生させた重力場の範囲を回り込むような動きで、実際大きく回り込んできた無数のミサイルを振り向いたばかりのフロレントが迎撃することになり、カバーしきれない範囲のものをキャリバーン号のレーザー機銃が撃ち落とす。
『こちらもミサイルで援護します』
キャリバーン号から放たれたミサイルがクラレントの重力場を避ける弓なりの軌道でPD-01へと向かっていく。
アンチビームフィールドを展開している以上、これを容易に防御できる装備はないはず。
例え被弾したとしても、積層装甲とその装甲同士の間にある超速硬化ジェルによって致命傷には至らないだろう。
しかし、放ったミサイルはただのミサイルではない。
ミサイルの外壁がはがれ、その中に収納されていた8発の小型ミサイルが露出。それが展開するなり次々と放たれた。
クラスターミサイル。対艦戦闘において少ない工程でより広範囲に攻撃が行えるように設計されたミサイルである。
勿論、実質小型のミサイル8発をたった1回の攻撃で使い切る上、そのミサイルを運ぶためのミサイルのコストもあり、非常に高価なミサイルでもある為、そうそう気安く使っていいものではない。
なのに、それを12発も使用した採算度外視の攻撃。流石にそれを見たアッシュはコクピット内で天を仰いだ。
「これで来月の予算はゼロだな……なんてね」
「ていうかあんなのいつ仕入れてたんですか?」
「俺知らねえぞ。ていうかお前だろシルル」
「こういうこともあろうかと」
「くそっ。無駄遣いだと言いたいが、この状況だとありがたくて強く言えねえ」
計96発のミサイルがPD-01に殺到する。
PD-01も自身のミサイルで迎撃しようとするが、こちらの攻撃に対して明らかに数が足りず、多数のミサイルが防衛網を抜け、次々と着弾し装甲を破壊していく。
当然それも超速硬化ジェルの効果で大きな損害にはなり得ないが――複数のミサイルがかなり近い位置に着弾する事で広がった損傷が後続のミサイルの着弾でさらに広がり、結果として広範囲の装甲が一気に崩れ、大量の硬化ジェルが飛び出し、いびつな形で固まる。
「シルル!」
「ああ。チャージはできている」
距離は十分縮めた。
重力場による防御ももう必要ない。あとはもう、トドメの一撃を放つだけ。
「一撃で吹き飛ばす。エーテルブラスト、発射ッ!!」
両肩の装甲が展開。砲口が露になり極限まで圧縮された
高密度の霊素がキャリバーン号の攻撃で生まれたジェルの塊めがけて放たれる。
その射線上の空間が歪んで見えるが――それを認識する機能は
ビームを無効化する防御フィールドに防がれることはなく、直撃した硬化したジェルをまとめて吹き飛ばし、その奥にある積層装甲をまとめて削り切って突き抜けた。
「おっと。出力が高すぎた」
照射を終えた砲口を、装甲が塞ぎながら冷却を始める。
大穴が開いたPD-01は沈黙。姿勢制御も行えず、惑星への突入コースを取る。
「終わった、か?」
「あっ、あれは……」
落ちていくPD-01の向こう側から、宇宙へ向けて上がってくる巨影が見える。
「フロンティア号……そうか、離脱できたのか」
宇宙へと脱出したフロンティア号。
その姿を見たアッシュ達は、これで一段落だ、と胸をなでおろしつつ、帰艦のために反転する。
「アッシュさん……」
「どうした、マリー」
「サンドラッドは、今後どうなってしまうのでしょうか」
しばしの沈黙の後、アッシュは自身の考えをまとめてそれを口にする。
「無人になって、対抗する存在がいなくなったことによってサメカラスの生息数は増えていく。それこそ、惑星上のあらゆる生命体を食い尽くし、最後は自分達も食い尽くして、サンドラッドからは動物が消えて植物以外目に見える生物が存在しない惑星になるだろうな」
「それが何年、何十年――もしかすると100年や200年も後になるかはわからないけどね」
「マコ、まとめだけ持ってくな。それより、曳航の準備をしろ」
この日よりほどなくして
はたして、それがマコの言ったように、100年後なのか200年後なのか。はたまたもっと短いのか長いのか。それは誰にも分からない。
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