第123話 サプライズプレゼント

 戦場を一変させるいくつもの閃光。

 肉片の1つすら残さず、すべてのサメカラスを焼き殺す。

 たった1回の攻撃で、地上にいた個体の8割、上空の個体に関してはどれだけ減らせたのかはわからないが、黒く覆われていた空から日の光が差し込んできている。

 圧倒的な火力。

 そして、正確無比な射撃。

 地上の目標は任せた、と言わんばかりに各砲座からは空の目標にめがけてビームが飛ぶ。


「あれを、アニマがやってるのか……」


 そう、キャリバーン号のブリッジでシルルが言葉を漏らす。

 元々、キャリバーン号のレーザー機銃の照準を任せれば正確無比な射撃をやって見せていた。

 だがそれは、バトルドールのシステムを介してキャリバーン号の機銃関連のシステムにアクセスしていたからこそ可能であったことであり、艦そのものに憑依して行っていたものではない。


「! フロンティア号からアクセスだ。しかも、私達の使ってる秘匿回線用コードでね」

「開いてッ!」


 呆けている場合ではない。

 シルルに回線を開くようにマリーが指示を出し、通信回線が開かれる。


『なんだ、回線が急に……どこと繋がっている?!』

「こちらッキャリバーン号。そちらの状況はどうか」

『キャリバーン? いや、しかし何故だ』

「簡単な話さ。そっちの艦――フロンティア号を操っているのは、ウチのクルーの1人だからね。今こうして話しているのも、我々の秘匿回線を使っているのが証拠さ。それで、どういう状況か、確認してもいいか」


 シルルが状況把握のため、フロンティア号側のブリッジにいる人間に尋ねる。

 スクリーンに映った通信担当者は表情の伺い知れない水晶を削って作ったような班球体の顔をしているのに、明らかに困惑しているのが伝わってくる。


『現在のフロンティア号は科学的にあり得ない現象のもと飛行。戦闘を行っている、としか……』

「それで十分だ。君たちは残った同胞の収容作業を急いでくれ」

『了解した』


 通信そのものは切れた。だが、その通信を行っている間にキャリバーン号とフロンティア号の間にパスが繋がれ、シルルはそのパスを使ってあちら側のシステムに侵入する。

 抵抗なくメインシステムの中枢部にまで侵入できたが、おそらくアニマの意思がそうさせている。


「本来のステータスを開示……っと。確かに、彼等の言う通り本来のフロンティア号の状態ではあれだけのビーム砲を放つことどころか、飛行すら不可能だろうね」

「じゃあなんでアレ、飛んでるのさ」

「アニマさんの力、ですよね」

「ああ。正確には、アニマ達の力、かな。ほら、フロンティア号をよく見てみるといい」


 シルルがスクリーンにフロンティア号の映像を拡大表示させる。

 その艦体から何度もビームが放たれ、その度サメカラスが数十頭単位で焼失しているが、注目すべきはそこではない。


「艦全体が、青白く光っているような……」

「惑星レイスで見たカスミホタルとも呼ばれていた現象。アストラル体がエーテルに干渉し、物理的な干渉能力を持った状態、というやつだ」

「つまり、あの艦は……」

「アストラル体の力で空を飛び、ビームをぶっ放してる、ってことね」


 なんでもありかよ、とマコは笑う。笑うしかなかった。

 目の前の光景が、自分の理解を超えていた。

 一度は惑星レイスで見ている。

 タイラント・レジーナの動きを封じ込めたあの光を、マコも覚えている。

 だが、規模が違う。

 あの時は数千人、あるいは数万人規模のアストラル体がいたからこそできたことである。

 だが今回はアニマと彼女と一体化した2000人分のアストラル体だけでそれを行っている。

 加えて、タイラント・レジーナとフロンティア号では圧倒的にフロンティア号のほうが質量で勝る。


「あれ、無茶してない……?」

「……急ぎましょう。アッシュさんとベルさんはフロンティア号の援護。わたくし達は地上の個体を焼き払います!」

「了解。高度さげるから、シルルは下に注意してて!」

「任された。正直マルチタスクにも限度があると言いたいが、ちょっと楽しくなってきててね。今ならなんだってできそうだ!」


 それは疲労のピークを越えてハイになっているだけなのでは、という言葉を飲み込み、マリーは自身のコンソールを操作して主砲と副砲のコントロールを得る。


「マリー。味方に当てないでくれよ」

「そこまでひどくありません!」



 フロンティア号に合流するサンドラッドの生き残り。

 どれも6キロメートルの巨体を誇るフロンティア号と比べれば小さいもので、残存したすべての艦艇が巨大な格納庫へと収容されていく。


「各艦の収容まであとどれだけかかる?!」

『次の艦艇が最後です!』

「了解した。ベル、そっちの護衛を。俺はフロンティア号のブリッジに張り付く」

「わかりました」


 最後の1隻を守るためにフロレントが向かう。

 多くのサメカラスは接近する前にフロンティア号の砲撃で焼失させられているが、それでもその砲撃を抜けてくる個体も多い。

 そういった個体を片付けるのが、クラレントとフロレントの仕事、というわけだ。

 相手は所詮生物。対人用の弾丸ならともかく、対ソリッドトルーパーを想定した火力のマシンガンを受けては流石に耐え切れない。


 とはいえ、クラレントやフロレントがサメカラスと正面からぶつかって平気か、と言われるとそんなことはない。

 考えてみれば当然のことで、ソリッドトルーパーとサメカラスの大きさは大して変わらない。

 そんな生物と正面きってぶつかってタダで済むわけがない。


「ちょっとばかり骨が折れますね、これは」


 十字型の刃のついた槍を振り下ろし、サメカラスの首を切断する。

 簡単な作業のように思えるが、実際は頸椎の関節部分を狙って振り下ろしているからである。

 まともに骨に当たっていれば、いくらソリッドトルーパーの出力であったとしても――むしろソリッドトルーパーの出力だからこそ、武器の方が折れる可能性が高い。

 なので、この槍の使い方はベルのように振り回して斬撃武器として使うのではなく、本来の用途である刺突武器として使うのがベストなのだが……それはそれで肋骨に阻まれて心臓や肺などに命中しない可能性がある。


「やっぱりこっちのほうが手っ取り早いッ。スペースクルーザー、甲板付近に人はいませんよね?」

『はい。重要な機関もありません』

「今から、こいつを投げます!」


 面倒くさくなり、結局マシンガンで攻撃することを選択する。

 ならば、無駄な重量は必要ない、と思い切ってベルは槍を振りかぶって投げる。

 数頭の翼を貫き、飛行能力を喪失させ、最後の1隻であるスペースクルーザーの甲板に突き刺さった。


「何やってんだお前ェっ!?」


 当然、アッシュは驚いて声を荒げる。


『大丈夫です。死傷者はでてません。このまま行きます』


 と、スペースクルーザーから返ってきたからいいようなもので、普通に一歩間違えばブリッジを直撃したり、艦体を貫通していたかもしれない危険な行為である。

 突き刺さったのは運が良かった、というしかない。

 が、突き刺さった状態だというならば回収もしやすい。

 刺さった槍を回収しつつ、再びフロレントは迎撃に向かう。


「あと数分。それでどうにか間に合うか……」


 このままいけば。

 希望が見え始めた。だが。こういう時こそ気を引き締める必要がある。

 わずかに芽生えた希望は油断を招く。

 それはアッシュもベルも重々承知している。だが――そう意識していても全員が全員それを意識しているというわけもない。

 それに、だ。

 どれだけ気を張っていても、想定外の出来事というのは起きるのだ。


『総員に通達! 惑星の衛星軌道上にワープアウトする物体アリ! 照合の結果、PD-01の確率98.9パーセント!!』

「PD-01だと!?」


 アッシュが声を荒げ、思わず空を見上げた。

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