第116話 食い残し
廃星。
それは、その惑星が人類が居住し続けることができる環境ではなくなったと、
基本的にこれに認定された場合、以後特別な理由がない限り、その惑星への出入りは禁止される事になる。
「これを満たすのは、居住性の著しい低下ただ1点のみ。科学技術で解決できるならば、どんな惑星であっても廃星に認定されることはないが――」
「この規模のサメカラスの大量繁殖は、それに該当する、ということですか」
「だって、有害なサンドメタルから居住区を守るシェルターを作ったって、あの量のサメカラスに対抗できる訳ないだろう?」
過酷な環境という点では、ベルの故郷である惑星ウィンダムもそうだ。気象状況が激しく変動するあの惑星は人類の居住区はシェルターとなっており、その内側では安全が確保されている。
アッシュの故郷である惑星サバイブも、巨大生物が跋扈する危険な惑星ではあるが、それらの縄張りを避けるという形で居住区が存在。万が一に接触したとしても対抗する手段を持っている。
これらように、普通に生活するのが困難ではないかと思われる環境の惑星であっても、それに対抗する手段が存在すれば、廃星などにはならない。
が、今のサンドラッドはそれができない。
サメカラスとその変異種。直接的な脅威となるこれらに加え、大気中に舞ったサンドメタルが呼吸するだけで人体を蝕む。
それらから人類を守るためのシェルターを建造しようにも、それそのものが困難。
加えて、迎撃をすればするほど、サメカラスがどんどん寄ってくる。
そんな場所で安心して生活ができるか、と問われれば勿論答えはノーである。
『レジーナさん。貴女のような戦闘力を持ったサンドラッド人は全体の何割ほどですか?』
『1割もいないはずだ。それに、度重なる戦闘でずいぶんと数が減った』
『……それ以外の生存者は?』
『グルナ、テュルキス、オルパス――惑星全土でもそれら含めた10ほどの都市に集中しているのは連絡を取り合っていたから把握しているが、それ以外の都市については不明としか』
「連絡はつくんですか?」
『それについては、アメシスタの拠点に戻れば問題ない』
連絡ができるなら、とキャリバーン号はレジーナと出会った場所であるアメシスタの跡地へと舵を取る。
◆
そのアメシスタに到着したキャリバーン号を待っていたのは――散々たる光景であった。
考えてみれば当然のことだ。
肉片が散らばれば、空から降りてくる。そしてそれらが肉片を食い尽くせば、今度は満たせぬ腹を満たそうと仲間内で食い合う。
流した血が、さらなる個体を招き寄せ、最終的には生き残った個体が腹を満たしつくし、肉片が残らなくなるまで続けられる。
「惨い……」
凄惨な光景にはそれなりに耐性があるベルが顔を歪ませるほどの惨状。
砂に残された大量の血液の痕跡と、何頭食い尽くされたのかわからないほどの大量の骨と、何等かの内蔵。
自然の摂理といえばそれまで。だが、それにしてもあまりにも惨い。
マリーはそれを見るだけで嘔気をこらえきれず、ダストシュートに向かってえずき続けている。
「ねえ、アレどう思う?」
マコがいうアレとは、当然惨劇の現場に残された内蔵の事である。
大きさもまちまち、損傷具合も同様。だが、形状はどこか似ている。
このことから、それは皆同様の機能を持つ内蔵であるというのは推測できる。
だが他の内蔵は食われているのに、なぜその内蔵だけ残されているのか、という疑問が残る。
「残されている、ってことは食えない理由があるってこと、ですよね」
「食わず嫌いって可能性は?」
「ないでしょう。だって骨以外食い尽くす食欲ですよ? だったらあの内蔵が遺されているほうが不自然ですよ」
と、ベルとマコのやり取りを聞いていたアッシュとシルルが、考え込んでいる。
それを不思議そうにアニマとレジーナが見つめているのだが――突如としてシルルが立ち上がった。
「アッシュ! 君、通常のサメカラスの身体構造についても詳しいかい?!」
「俺もそれを考えていた。アニマ、データベースに記録されてないか?」
『検索してみます』
アニマが自身の人型からキャリバーン号のデータベースへと接続し、データの閲覧を始める。
『ありました』
ほんのわずかな時間。1分にも満たない程度の検索時間でアニマが見つけてきたデータがメインスクリーンに表示される。
「解剖図? なんでこんなものが」
と、マコが不思議そうにイラストで描かれたサメカラスの骨格と各種臓器の画像が映し出されるスクリーンを見つめる。
『シースベースと接続した時、キャリバーンとベースとでデータを共有したんですよ』
「なるほどな。ベースは親父さんの趣味もあるから、そういうデータもあるか」
「あ、マリーは見ない方が良いね。イラストだとはいえ、結構グロいから」
「そうさせていただきます……」
顔を一切あげず、マリーが返事をする。
どうやらまだ気分が悪いようで、ダストシュートに抱きついているので無理はない。
「ふむ……やはり」
「え、もう読み取ったんですかシルルさん」
「視覚情報のうち、注目するポイントごとに思考を分割すれば簡単なことさ」
『それは簡単なことではないのでは?』
と、レジーナから冷静なツッコミが入ったが、シルルは気にした様子もなく話を続ける。
「まず、あの臓器は間違いなくサメカラス変異種のものだ。原種には存在しない謎の臓器。つまり――これが、サンドメタル環境下において変異種が問題なく活動できる理由であり、そしてそれこそがこれだけ食い残された理由だろう」
「……もしかして、サンドメタルを貯蔵しておくための器官、ということですか?」
「ああ。そうだベル。そう考えれば、サメカラス自身にとって忌むべき毒素であるサンドメタルを捕食するなんてことはありえない。人間で言うと――そうだな。鉄分補給に、と鉄インゴットを飲み込むような行為だからね」
なるほど。それは死ぬな、と誰もが理解する。
鉄は人間――大多数の生物が生き続ける限り必須の成分である。
血液が酸素を全身の細胞へと行き渡らせるのに鉄のイオンを使用している、といえばいかに必要である物質であるかは理解できるだろう。
が、その鉄も多く取りすぎれば当然毒になる。
――さすがにインゴットを経口摂取できる人間など存在していないだろうが。
「けどこれはいいなあ」
『……ちょっとボク用事を思い出したんで』
「アッシュ、ベル。アニマを捕まえてくれ」
「え、あ。はい」
「了解だ」
何か嫌なものを感じ取ったアニマがブリッジから離れようとしたが、シルルの指示で飛び出してきたアッシュとベルに捕まえられる。
「悪いけど、アニマ。あの内蔵。取ってきてくれる?」
『いやだあああああああ!! さすがにあんなの触りたくないいいい!!』
『何か考えがあるのだな。私も手伝おうか?』
「それはいい。そっちのほうが作業効率があがる!」
『ちょっと! 話を進めないで!! ボクの意思はどこに!?』
「私の推測が正しいのであれば、アレはいい素材になる」
『それ、今後やらなきゃいけない事に関係ないですよね!?』
必死の抵抗むなしく、アニマの意思を無視して話が進んでしまい、逃げ切れない状況ができてしまった。
当然と言えば当然だ。
この惑星で何の装備も用いずに外に出ることができるのは、今キャリバーン号に乗っている人間の中ではアニマとレジーナだけ。
「で、シルル。今回は何をするつもりなんだ?」
「言っただろう。回収しておいてあとでキャリバーン号に対レーザー用のコーティングを施すのさ。そのためのノウハウは、ここにある」
にやりと笑いながらシルルは自分の
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