第111話 黒い空
すべての準備を終え、シースベースから出発。
早速惑星サンドラッドに降下を始めるが――惑星の大気圏に入るなり、早速異様な光景を目の当たりにする。
「なんだ、あの数……!?」
「マコ、余計な事は考えるな! 一度地上まで降りるぞ!」
「ッ! 了解ッ」
目視でも見える、視界いっぱいに広がる黒い影。
それらすべてがサメカラス。地上がほとんど見えないほどの大群が空を飛んでいる。
いや――違う。
「まさか共食いして――」
空中で激しくぶつかり合い、ついばみ合い、互いの肉を抉る。
おそらく、異なる群れ同士の衝突。自身と異なる群れの個体を攻撃し、食料としているのであろう。
が、その光景は凄惨そのもの。攻撃が行われるたびに鮮血が飛び散り、
「マリー、キツイならレーダーだけ見てろ! シルル、シールドジェネレーターの出力調整任せた!」
「任された。マリー、接近してくる個体の方向を指示してくれ」
「は、はい!」
「ベルは副砲、アニマは機銃。俺は主砲を担当する!」
『了解。各砲座にアクセスします』
「データリンク完了。行きます!」
共食いをし合うのは、他に餌がないから。
そんな場所に艦船が、それがどういうものかを理解しているサメカラスの大群の中に突っ込めば言うまでもない。
互いに攻撃しあうことをやめ、キャリバーン号めがけて突撃して来る。
「これ口頭での指示出し無理です!!」
「だろうな! だから、真正面のをまず焼き切る!」
正面から突っ込んでくるサメカラスに向け、主砲を放つ。
高熱のビームに焼かれ、燃え落ちていくサメカラスの大群。
たった1射――性格には両舷の主砲なので2射だが。それによって相当数の目標が吹き飛んだ。
が、その際にできた穴もあっという間に塞がれる。
「降りられるんですか、コレ!」
「降りるんでしょ!」
マリーの弱音に、シルルが即座に返す。
軽く音速を越えた速度での攻防戦。
ベルの操作する副砲による迎撃が第1段階。さらに近い位置になるとアニマが自身の身体に搭載された演算装置と接続して直接操作するレーザー機銃の第2段階の迎撃で、大抵の個体は倒せる。
それでも数が多すぎ、迎撃しきれなかった個体を局所的に展開するシールドによって押し返す。
シールドの出力を限定的に絞る事で強力な防壁とする技術自体はそう難しくはない。が、それを的確なタイミングで行うというのは、シルルの技があってこそである。
『敵の数が減りませんね』
「……マリー。仕事の追加だ」
「なんですか?」
「地上のほうを警戒しろ。変異種がいる可能性がある」
「ですが……!」
「わかってる。ベル、あわせろ!!」
「了解ッ」
数が多すぎて判別ができない。
だからこそ、主砲と副砲の一斉射を行い、突破口を開く。
放たれた閃光に焼かれ、焼失する巨大怪鳥。
黒一色であった空に切れ間が見えた。
「マコ!」
「あいよッ!!」
その隙を逃さず、キャリバーン号が加速する。
「シールド範囲を限定。後部ミサイルランチャー、発射良いか?!」
「許可する!」
群れを突っ切って降りようとするキャリバーン号を追いかけてくる無数のサメカラスにめがけ、ミサイルの弾幕が伸びていく。
これがまた、面白いように当たる。
当然と言えば当然で、キャリバーン号の後方から進行方向とは逆向きに発射されたミサイルと、逃げるキャリバーン号を追いかけるサメカラスの相対距離はごく短時間で縮まる。
加えて、発射されたミサイルはすべてが近接信管。サメカラスが一定の距離以内に入れば、その存在を感知して起爆する。
「ここまでやれば十分だろ。奴等も流石に気付いたはずだ。地上には餌が大量に落ちているってな」
『原型を保ったままの個体は712。完全消失が564。映像記録、取れてます』
交戦時間は数分程度。
だがその間に撃ち落としたサメカラスの数は、個体の食欲を満たすには十分だったのか、キャリバーン号を避けて地上に落下した死体に群がっていく。
その様はカラスというよりはハゲワシだ。
「なんとかなった、か……」
目の前に抵抗してこない食料があるのならば、そちらを食う。至極単純な、野性的なロジック。
砂にまみれた肉であっても、宇宙船の装甲すら貫く嘴で啄み、肉を食いちぎって喉へと運ぶ。
すでに奴等にはキャリバーン号のことなど視界に映っておらず、ただ肉を貪ることだけに意識が向いている。
「今の内に街の方へ向かうぞ。尤も――」
これだけサメカラスが繁殖するような環境で、どれだけの都市に人が残っているのだろうか。
「ッ!? 地下から何か来る……アッシュさん!」
「マコ、急上昇!」
「無茶を言ってくれる!!」
「シルル!」
「言われなくても」
さっきは急降下しろと言っていたのに、今度は急上昇。
加速がついているせいで、かなり上昇させようとしても艦種が上を向くまでにかなり高度が落ちる。
もし高度が地表に近づいたタイミングで地下から上がってくる何かに攻撃されたら――と、考えたくない事まで考える。
故に、シールドを艦底に重点的に展開し、急上昇へと移行するのだ。
「来ます!」
が、最悪のタイミングでそれは来た。
急降下の加速から、急上昇の加速に変わる瞬間の、高度が最も下がっているタイミングで、大量の砂を爆発のように巻き上げ、地下から巨大生物が飛び出した。
頭部の形状は、サメカラスに似ている。
だが、決定的に違うのは――その翼が腕のように変化していることである。
「嘘だろ!?」
カメラに映ったその姿を見たシルルが驚愕する。
何故なら、それはありえない進化だからだ。
サメカラスの進化は、1世代で行われるというのだけでも異常であるが、進化というのは世代ごとの変化の積み重ねで起きるものである。百歩譲ってそれはシルルも納得している。
だが、そんなことよりもあり得ないことがおきている。
それは、腕を持っている事。
「シルルさん、なんでそんなに驚いて――」
「驚かない方がどうかしているんだよ、ベル!」
「落ち着けシルル。サメカラスの変異種ってのはそういうもんだ」
割と落ち着いて会話をしているが、操舵を預かっているマコはしゃべる余裕が一切ない。
砂の中から飛び出てきたサメカラス変異種を振り切ろうと、艦首を上げるが、ここで上げすぎれば一気に失速するため、慎重に行わねばならないのだが、そんなことをしていると間に合わずに組み付かれる可能性もあるため、速度を維持し続けなくてはならない。
「んなくそぉぉぉぉっ!!」
ギリギリで飛び掛かりを回避した――というわけではない。
はっきり言って、間に合わなかった。
弾丸同等――ともすればレールガンの弾丸ほどの速度で突っ込んできたそれを避け切ることはできず、それはシールドを直撃し、大きく艦を揺らす。
それでもなんとか上昇し、地表付近から離れる。
「なんとかなった、か……」
追突してきたサメカラス変異種はシールドにとんでもない速度で突っ込んだ結果、首の骨でも折ったのかそのまま力なく砂に体を横たえて動かなくなると、空から黒い集団がそれに群がる。
かろうじて息はあったそれが、苦痛にか細い叫びをあげるものの、それは自分が弱っていることを周囲に知らしめる結果になりさらに群がるサメカラスの数が増える。
「で、シルルはなんで驚いてたのさ」
『多分、進化としてあり得ないことが起きていたから、じゃないですかね』
「うん……?」
シルルが驚いている理由を理解しているのは、データベースに接続できるアニマと、それを理解した上でそういうものだと納得できているアッシュのみで、残りの3人はよくわかっていない。
「生物の進化は不可逆なんだよ」
「不可逆?」
「ようするに、腕が変化した翼が、また腕に戻ることはないってことだ」
「その通りだ、アッシュ。でも、アレはそれが起きている。これは――生物としては異常なんだ」
そういうシルルは、過ぎ去っていく凄惨な光景をカメラでとらえながら、口元を抑えて考え込む。
この生物はなんなのだ、と。
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