第105話 ホールインワンショット
地上へと飛び出したアロンダイトが放った閃光。それはとっさに防御のために構えたタイラント・インペラトルの右腕装甲を焼く。
耐えきれる限界を超えた高出力のビームは、着実に装甲を融解させ、本来の機能を大きく損なわせていく。
が、それでも十分な防御性能を発揮する装甲に守られた機体を破壊するには至らず、照射が終わってもなお、巨体は健在である。
「アニマ!」
思わず、マコが叫ぶ。それに応じるように、アロンダイトは一度着地するとソードフィッシュのほうを向いて頷いた。
『てめぇがこの状況を作り出した元凶か!』
『答える必要がある、と?』
再度ビームライフルを構え射撃体勢に入るが、そこへビットが飛来し、アロンダイトの行動を妨害する。
ビームが発射される寸前に細かくスラスターを噴射して攻撃を避けつつ、アニマは照準を絞る。
そして、四方から同時に放たれたビームを掻い潜りながら発砲。
放たれたビームはタイラント・インペラトルの頭部に命中するも、チャージに時間をかけていなかったせいか、それとも先ほど高出力のビームを放った影響でパワーダウンを起こしていたかで威力が足りず装甲の融解すら起こしていない。
『豆鉄砲なんだよ、それじゃあ!!』
通常のソリッドトルーパーに対して明らかに巨大なタイラント・インペラトルの左腕の肘から先が本体から切り離されて射出された。
本体とワイヤーで繋がれた拳が、ブースターを噴射させながらアロンダイトへと迫る。
「アニマ、そいつの胸部を狙え!」
『!』
通信装置の送信機能だけを物理的に破壊し、アニマが使っている機械の身体へと携帯端末から直接通信回線を開いてマコは、今のタイラント・インペラトルにできた弱点を伝える。
直撃こそしなかったが、切っ先が刎ね飛ばした装甲の向こう側にあるコクピットハッチを守る積層装甲。
流石にこの装甲までは外装のように銃弾やビーム攻撃に強いというわけではないだろう。
何より。音速を越えた速度で振りぬかれたソードフィッシュの切っ先で装甲を刎ね飛ばされていたのだ。その奥にある装甲だって、その際に生じる衝撃波の影響を少なからず受けている。
というか、その衝撃波を受けて原型をとどめている時点で相当な防御性能ではあるが。
「応答はいい。アタシの声はアニマにしか聞こえてない。けど、今のビームライフルだと抜けるのはそこだけだ」
『……』
飛んでくる拳を回避しつつ、ワイヤーめがけて発砲する。
が、このワイヤーも対ビームコーティングが施されており、撃ったビームが弾かれる。
「このまま下手に動けばすぐにでも攻撃されるか……」
タイラント・インペラトルの肩装甲そのものが変形した、非対称デザインのソリッドトルーパーは、元々は両肩の高出力ビーム砲であった片腕をソードフィッシュめがけて突き出している。
タイラント・インペラトルのパイロットの言う通り、マコが変な動きをすれば即座にそれを撃ってくるだろう。
「なら、ここから攻撃するか……?」
プラズマライフルならば、ソードフィッシュの装甲を内側から突き破って攻撃することができるだろう。
が、それを実行する前に携帯端末にメッセージが届く。
送り主は――グランパである。
「ん? 『分離した機体にも生体制御装置が搭載されている』? 『正確な位置が割り出せるまで攻撃は避けられたし』……マジで?」
生体制御装置。惑星ウィンダムで確認された時は13基。うちウィンダムで1つ、レイスで1つで、残りは11。
その11のうちの2つが、今目の前にある。
いや、それだけじゃない。
「にも、って言ってた……。つまり、3つ目が本体に……」
◆
アニマは正直、余裕がなかった。
だが、相手が投げかけてくる言葉に返せないほうが、その余裕のなさを見透かされるようで、その都度言葉を放つ。
その間にも交互に飛び出す巨大な腕を避け、4つのビットによるビーム攻撃を回避せねばならず、相手が3機同時にかかってこないのがせめてもの救いだろうか。
しかも、だ。
その身を横たえるソードフィッシュにビーム砲を突きつけるソリッドトルーパーにはそれぞれ生体制御装置が搭載されていることを、アニマは感じられた。
それだけでもない。
タイラント・インペラトルの本体にも1つ。
この場には計3基の生体制御装置が存在しており、それを破壊することは回避したい。
――今更だ。
生身の人間が乗った機体を、すでにいくつも撃ち落としている。
なんなら、ついさっき生身の人間すら蹴り殺し、切り殺した。
なのに、生身の肉体を失い、脳だけとなって利用されているものを破壊するのは躊躇ってしまう。
それはきっと、自分に近い何かを感じるかからだろうか。
ビームがひっきりなしに飛び交い、アロンダイトを破壊せんとするも、なんとかそれを回避して距離を詰めていく。
今のビームライフルの威力は、心もとない。
やはり無茶をしただけあって攻撃に必要なだけのエネルギーが残っていない。
かといってライフルにエネルギーをチャージするために割けるリソースがない。
今のリソースは、相手の攻撃の予測と、全身のモーターを稼働させるのにほとんど持っていかれている。
『ちょこまかと鬱陶しい!』
こちらの狙いなど読まれている。
ナイアと名乗ったあの女だって、自分の機体がどんな状態なのか把握できているはずだ。
だが、それでいて余裕があるように見える。
つまるところそれは、こちらの攻撃が通用しづらいという意味である。
『いいかげん落ちろよこのバッタ野郎が!』
『虫で例えないでほしいんですけどぉッ!』
牽制用の装備は――何もない。
マルチプルランチャー用の弾倉は、アニマが基地へ潜入する際に使っていたから、弾が入っていない。
ビームライフルただひとつ。それが現状のアロンダイトの持つ武装である。
そう、アロンダイトの武装はそれだけだ。
『跳ねまわって逃げ回ってンだ。バッタだバッタ!!』
飛び出す拳を避け、それを踏み台にして一気に跳びあがる。
スラスターも噴射させ、高度を維持しつつライフルを構えて――放った。
放たれた閃光はむき出しになったコクピットハッチの積層装甲を融解させる。
が、完全に貫通する前にビームは霧散してしまった。
とはいえ、本当にギリギリだったようで、コクピットハッチ部分には大きな穴が開いている。
それこそ、人間の手や脚が入るかどうか、程度の小さな穴であるが。
『残念だったなあッ!!』
放ったばかりの右腕を引き戻しながら、左手で空中のアロンダイトを捕まえるタイラント・インペラトル。
咄嗟に回避しようとしたアロンダイトは、左肩を丸ごと握りつぶされるような恰好で持ち上げられる。
『こうなりゃもう逃げようがねえ。吹き飛びやがれ!!』
右手首のビーム砲がチャージを始める。
現状における最大火力で吹き飛ばすつもりなのだろう。
だから、そうなる前にこちらは動き出す。
コクピットハッチを開放し、その中からアニマは飛び出した。
その右肩にはグランパもしがみついている。
『あァ?』
容赦なく放たれる閃光。それはアロンダイトを貫いた。
コクピットめがけて放たれたそれであるが、突拍子もない行動に照準がズレ、腰から下をまるごと消し飛ばす程度に留まった。
その刹那、ハッチの穴から外を覗いたナイアの視線と、アニマの視線が交錯する。
「何、笑ってやがるブリキ野郎」
『チェックメイト』
アニマの膝が曲げられ、ミサイルが発射された。
それは本来アニマが持っていたものではない。
この基地で強奪した、歩兵用ミサイルである。
「はっ、冗談だろ……」
ミサイルが、先の攻撃で出来た穴からコクピットの中へ飛び込んで炸裂した。
コクピットハッチが内側から吹き飛び、制御を失った巨体が膝から崩れ落ちて巨体が大地へと倒れ込む。
『これで終わり……?!』
そう、すべて終わると思っていた。だが、まだ空中にいるアニマめがけて、ソードフィッシュを囲んでいたソリッドトルーパーが腕の高出力ビーム砲を向ける。
まだ、終わっていない。
流石にこんな状態から回避は間に合わない。
『間に合うさ!』
その声が、戦場に響く。
それと同じタイミングで、ビーム砲を向けていた2機のソリッドトルーパーの砲門がついたほうの腕が同時に潰れ、まるで何かに押しつぶされるように2機が地面に倒れ込む。
何が起きたのか、と一瞬混乱するも、着地して空を見上げれば、その答えがあった。
『あれは――クラレントと、キャリバーン号!』
ずいぶんと遅い援軍だ、と通信機能を失ったソードフィッシュから発光信号でクラレントめがけて文句を言っている。
――ああ、終わったんだ。
ほっとした瞬間、アニマは脱力したようにその場に座り込んだ。
そして、思わず笑ってしまう。機械の身体なのに、と。
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