第103話 タイラント・インペラトル
何故だ何故だ、と疑問の言葉を頭の中で何度も反芻する。
ナイアにとってこの状況で、アルヴ軍の主力機であるバッシャーマに攻撃を受けることそのものがおかしい状況だ。
では、反逆者が乗り込んだ? それはありえない。攻撃を仕掛けてきたのはたった1機のソリッドトルーパーと、たった1隻の改造駆逐艦のみ。
しかも攻撃が始まってそう時間が経っていない。工作員が施設に入り込んでいた、という可能性も低い。
だからこそ、なぜ攻撃を受けているのか。
バッシャーマの携行するアサルトライフル程度の弾丸は、タイラント・インペラトルの装甲には効果が薄い。
というより、構造的にはバッシャーマに使われているものと同一であるため、射撃武器にはめっぽう強い為、ほとんど効いていないからこそ、ナイアは思考する。
何が起きた。
混乱しながらも、手は機体のシステムを稼働させるための操作に動き、目は周囲の状況を把握するために周囲を見渡し情報を集めようとする。
と、強制的に通信回線が開かれた。
『どうもお初にお目にかかる』
「貴様……何者だ」
通信越しに聞こえてくる男の声。
そしてその音の声はどこか不自然に聞こえる。
加工された音声であることは間違いない。だが、この声はボイスチェンジャーを使ったものではない。
「合成音声……か。この状況はお前が?」
『私の仕事を邪魔してくれた礼だ』
「貴様、最近オレたちのことを嗅ぎまわっていたヤツか。覚えているぞ。で、何をしやがった」
『簡単な話だ。君が地下でしていた会話をそのままアルヴ中に流してやっただけだ。映像付きでな』
「……は? そんなもんどうやっ――」
瞬間、自分と対峙した女の事を思い出す。
あいつだ、と。
『ウィザード級のハッカーだろうと、目の前で起きた状況を書き換える事はできない。これまでは防ぎようがないだろう?』
「野郎ォ、やってくれやがったな!」
『君としては大失態だろう。何せ、会話の中にはウロボロスネストの言葉も出てきているからなあ』
一度落ち着いていた怒りが、またこみあげてくるのをナイアは感じていた。
だが、一旦落ち着くために深呼吸を行い、頭を冷やす。
「あーもう、お前が何者かとかどうでもいい。どうせどこかのハッカーか情報屋だろうさ」
攻撃を続けるバッシャーマ部隊。それに視線を向け、コンソールを操作する。
「今は見逃してやる。さっさと消えろ」
『そうさせてもらおう』
「っはぁ……っざけんなああああああああ!!」
ナイアは叫び、操縦桿を握りしめ、スイッチを押した。
◆
巨大なソリッドトルーパーの登場。
それと前後するように、惑星アルヴ全域の映像媒体をジャックして行われたクーシー基地地下で行われた、偽り女王と、女王を裏切ったミーナ及びその協力者たるアニマのやり取りそのままの映像と音声。
映像と音声を流せる媒体ならば、携帯端末だろうがテレビだろうがパソコンだろうが、ソリッドトルーパーや艦艇のモニターであろうと、ネットワークに接続されている機器すべてに向けて行われたそれにより、アルヴの正規軍は勿論のこと、革命軍にも激震が走った。
すべては偽りの女王が仕組んだこと。国が割れるような事態も、民を苦しめる悪政もすべてが仕組まれたものだったと知らしめられたのである。
何より、その信憑性を上げたのは、ミーナ・アレインの存在である。
クーシー基地に集まっていたアウルズ全隊員にとっては同じく特殊部隊所属の同僚であり、革命軍からすれば先の大規模作戦において自分達を苦しめた軍人の1人。
そんな人間が映像の中に登場し、偽りの女王と対峙していた。
そして、最後に登場した巨大なソリッドトルーパーの影。
ここまで状況が揃っていれば、どれが敵かははっきりとしている。
『全機、攻撃目標変更! 地下から出現した機体を攻撃せよ!』
「こちらソードフィッシュ。これより攻撃目標を巨大ソリッドトルーパーに限定する。クーシー基地およびその所属機への戦闘意思はない」
マコはそう基地の部隊へ通達し、高度を確保しつつ、レーザー機銃の冷却と入れ替わりに、主砲の準備を始める。
情報ひとつ。たったそれだけで、状況は変わる。
つい数分前まで襲撃者であったソードフィッシュと、クーシー基地の駐屯部隊が共通の敵であるタイラント・インペラトルに銃を向ける。
「流石はミスター・ノウレッジ。いい仕事をする」
この状況を作り出したはの、もちろん直接基地に潜入したアニマの眼であるカメラやセンサー類が捉えた映像であるし、それを大々的に惑星全土に流出させたのは、アニマの映像を受け取ったミスター・ノウレッジの仕業である。
本来情報屋の領分とはいえない仕事であるが、今回に限りはその領分からはみ出すことを良しとした。
理由は単純。仕事の妨害をされたから、である。
結果、これまで互いに向け合っていた敵意が基地地下から出てきた巨大ソリッドトルーパー、タイラント・インペラトルに集中している。
『こちら革命軍のレーツェル。正規軍へ通達。革命軍の全戦力をクーシー基地へと向かわせている。我等も偽りの女王討伐に参加する』
『了解した。各機、反乱軍――いや、革命軍の機体への攻撃を禁ずる』
2つの勢力に分かれていた惑星アルヴが、再び団結しようとしている。
それを肌で感じ、マコは思わず身震いする。武者震い、というやつだ。
「これより砲撃支援を行う。目標から離れ――!?」
主砲での攻撃を行おうと艦の位置を調整していたマコの直感が、その行動に待ったをかけた。
嫌な感じがする。
そしてそのような場合の彼女の直感は、9割9分的中する。
咄嗟に操縦桿を思いっきり左に傾ける。
艦のバランスだとかそんなことはどうでもいい。
そうしないと、もっと拙いことになる。そう確信めいた直感が、頭で熟考するまでもなく身体を突き動かした。
かなり無理な姿勢になるソードフィッシュであるが、そこは
が、直後に艦後方のシールドに何かが叩きつけられ、艦は激しく揺れながら突き飛ばされた。
「ぐぅぅっ……」
嫌な予感が的中した。
必死に姿勢を戻そうと、ありとあらゆる機能と自身の操舵技術を使うが、コンソール上に表示された艦のステータスを見て、マコは笑みを浮かべた。
決して余裕のあるからではない。いい案を思いついたからではない。
笑うしかなかったのだ。
「シールドジェネレーターがさっきのでダウンしたッ?!」
先ほどの衝撃の正体。それをマコが理解するのにそう時間はかからなかった。
なぜならば、地上部隊がすべて焼き払われていたから。
焼かれた機体の、かろうじて残った下半身に焼き付いた跡からして、超高熱の何かがそこを通過したのがわかる。
つまり、ビームである。
が、ただのビームではない。
元がスペースフィッシュ級駆逐艦であるとはいえ、徹底した改造が施されてそんじょそこらの艦艇よりも高い防御力を持つソードフィッシュのシールドに多大な負荷をあたえ、シールドジェネレーターをダウンさせるほどの威力。
加えて、残されたバッシャーマの残骸をみるに、その効果範囲はかなり広い。
ビームライフルの攻撃のように点を突くようなものではなく、極太のビーム照射。それが行われたのだとみて間違いない。
そして、まだ熱の残る両肩の砲口を閉じた巨大ソリッドトルーパー、タイラント・インペラトルは張り出した背中から薄い板状の物体を4つ射出して展開。そこから一斉にビームを放った。
「ビットとかアリ!?」
避けようと艦を動かすが、さすがに的が大きい。
何度も何度も、閃光が艦を掠めて装甲を削っていく。ついには直撃までもらってしまい、一気にソードフィッシュは失速。そのまま基地施設めがけて墜落していくことになった。
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