第101話 フェイズ2B

 フェイズ2B。

 アニマとミーナによるアウルズ拠点潜入がフェイズ1。

 そこから起こりうる4つの状況。


 1つ、エル・アルヴの捕縛に成功した場合。

 1つ、女王に逃走された場合。

 1つ、ミーナが女王を殺害してしまった場合。

 1つ、ミーナが失敗し、死亡した場合。


 これに対応したプランがAからDまで用意され、現在の状況はBにあたる。

 Aなら人質として利用し、そのまま脱出。あとは援軍として呼んだキャリバーン号と合流するまで時間を稼げれば、どうとでもなるという楽観的なもの。

 Cはどうにかして脱出し、女王の悪行を公表しつつミーナを悪政を布く女王を討った英雄として担ぎ上げるというもの。これもまた楽観的。

 最後のDに関してはアニマとアロンダイトによる施設の徹底破壊。これに関しては最も簡単であるが、一方で得られる情報が一切ないという欠点を持つ。

 そしてフェイズ2Bとは、脱出しようとする女王の妨害をすべく、基地施設の破壊と同時進行で行われるソードフィッシュによる拠点攻撃である。


「立案者ながらガバガバな作戦だよねえ、コレ!」


 マコはソードフィッシュをぐるぐるとクーシー基地の上空を旋回させている。

 当然それに警告をしてくるが、そんなものはすべてカット。

 地上にはソリッドトルーパー・バッシャーマが何機も見えているが、それらの装備では現在の位置まで攻撃は届かない。

 基地の対空砲なら届くかもしれないが、時折戦闘機もびっくりなアクロバットな動きと、規格外の速度を持つ改造駆逐艦には到底旋回速度が追い付かない。


「さて、今のところ2人――いや、グランパも入れて3人か。全員無事なのは確定しているんだけど……」


 上空からでは地上の異変が判りにくい。

 たとえば地震が起きていたとして、揺れを感じないのだから大地が激しく揺れているというのがわからない。

 ――さすがに建造物が倒壊すれば気付くかもしれないが。


 が、さすがに上空に居てもわかる変化が起きる。

 3つ並んだ格納庫。そのうちの1つを内側から突き破って閃光の柱が伸びる。


「合図だね、コレは!」


 アロンダイトのロングレンジビームライフルによる垂直方向へと発砲。

 それはまさに攻撃開始の合図であり、マコはすべての火器を起動させる。


「レーザー機銃、全砲門攻撃開始ッ!!」


 上空から降り注ぐ光の雨。触れれば必殺のそれが、1機のバッシャーマの腕を貫いた。

 その瞬間、地上に展開していた部隊が逃げ惑う。

 レーザーとビームは似て非なるものである。

 これが意味することは、強固な装甲に対ビームコーティングが施され、遠距離攻撃に強いバッシャーマであったとしても、レーザーならばその装甲を容易く射抜かれるということである。

 実際、それに触れたバッシャーマの腕は切断されている。


 そんな攻撃が、攻撃が届かない高高度から一方的に降り注いでくるのだから、地上はパニック状態だ。


「さて、攻撃は続けるとして、だ。上手くやってくれよ……」


 今はこちらが一方的に有利な状況であるが、援軍を呼ばれればあっという間に形勢は逆転する。

 特に、正規軍はジッパーヒットも配備しており、それらによる攻撃は流石に厄介極まる。

 その前に撤退してしまいたいが――流石にアニマとアロンダイトを回収しないままでは撤退できない。


「アニマのことだから、ミーナの回収しないまま撤退とかしないだろうなあ」


 そのミーナも、きっと女王エル・アルヴを捕縛するか殺害するかするまで撤退しないであろう。

 頭の痛い話である。


「それに――」


 アッシュたちの動向が気になる。

 アニマは確かに、キャリバーン号へ救援を求める通信を送っている。

 だがその返答がない。

 あちら側との到達時間を調整するため、わざわざ通常航行で3日かけてアルヴへとやってきたのだ。

 アニマが通信を送った時点で、キャリバーン号もハイパースペースを抜けて通信を受け取れる状況にあるはずなのだが――その返答がない。それが、どうにも気になる。



 上空からの攻撃が行われている最中、地下の施設内では一度真上に最大出力でビームを放った後も相変わらずアロンダイトが大暴れしていた。

 せっかくの機体であるセイバーバッツは1機たりとも動くことができず、次々とビームの熱で融解した鉄屑へと変わっていく。

 周辺にある機体のすべてを焼き尽くし、次の目標をコクピット内のモニターに表示する。

 無論、そこに人は乗っていない。乗ってはいないが、人の意思はそこにある。

 ここに来てからの短期間でスキャンした施設の構造を読み取るとともに、施設そのものにハッキングを仕掛け、施設の構造をより正確に把握。さらにミーナから提供された情報とも照合し、間違いがないことを確認する。

 本来の操者ではないグランパが機体を操っている以上、その動きはどこかたどたどしいが、そんなことをこの場にいるアウルズの兵士たちが理解できるはずもない。

 ただ、それよりも彼等が気にすべきなのは――アロンダイトが銃口を向けた一直線上に存在するものである。


「アイツ、何をする気だ!」


 地上と地下施設を繋ぐリフト周辺の惨状を聞いて援軍に駆け付けた兵が、壁に向かってビームライフルを構えるアロンダイトを見て困惑する。

 が、すぐにその意味を理解する。


「拙いぞ! さっさとアレを潰せ!!」

「え、でも……」

「あの一直線上に何があると思ってる!? アレを潰されたら、我々は一生ここで暮らす事になるんだぞ!?」

「それはどういう……まさか!?」


 事の重大さに気付き、慌てて持ってきた歩兵用ミサイルをセッティングし照準を合わせようとする。

 だが、彼等は失念している。

 より派手な破壊を前にして、小さいものを見逃している。


『それ、サイズ丁度いいですね』

「なっ……なんでメイドふ――」


 視界の端から突如として現れたそれが放った冗談みたいな速度で放たれる回し蹴り。

 そのつま先が頬を捉え、言葉を言い切る前に頭を180度回転させた。


「ひっ……!」


 その光景におののいたミサイルのスイッチャーは照準もロクにあっていないのにスイッチを押しそうになる。


『使われると困るんですよ』


 が、それを押そうとした手が床に落ちる。

 一瞬何が起きたか理解できず、スイッチャーの兵士は恐怖に染まった顔でメイド服を着た何かアニマを見上げ、遅れてきた激痛に自分の右手に視線を向け、もはや言語とはかけ離れた何かを叫びのたうち回る。

 アニマは左腕から展開したブレードに付着した血を払ってから収納する。


「貴様ァッ!」


 1人は頭が180度回転して死亡。もう1人は右手首から先を失う重症。今も赤い水溜まりの上でのたうち回りながら、体液を垂れ流している。

 そこまでされて、黙っていられるわけもない。が、銃を向けたところで勝ち目がない事も理解できてしまう。

 アウルズの中でも対人戦闘部隊クローズに所属する彼等にとって、相手との実力差を測る能力や直感というのは重要である。

 そしてその直感が訴えるのだ。


 ――こいつには絶対に勝てない。


 悠々と発射されなかったミサイルを持ち上げ、それを折り曲げた膝の中に収納。

 何度か間隔を確かめるように脚を振る。


『とりあえず、どいてくれますか。これ以上無駄な血を流す必要もないですよね。それに、手加減の仕方がつかめてないんです。さっきの蹴りも、本当は気絶させるつもりだったんですよ?』

「くそっ、なんなんだお前たちは!」

『ボク達ですか? そうですね。の言葉を借りるならば、ただのアウトローですよ』


 直後、アロンダイトが発砲。

 高出力ビームは壁を何枚も撃ち抜き、無数の配管や配線もろとも焼き切りその先にあるものを撃ち貫く。

 瞬間。激しい振動が施設全体を揺らし、照明が全て消え去った。


「基地の発電装置が……」


 本来ならば緊急用の予備電源へと切り替わるはずだが、ビームが配線すら焼き切ってしまっている為、その予備電源すら供給されず、地下施設は暗闇に閉ざされてしまった。

 その暗闇の中、兵士たちの間を抜けてアニマは通路を進んでいく。


『グランパ、機体の保護を最優先に。もし攻撃されそうになったら反撃も許可。ボクはミーナさんと合流する』

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