第96話 艦船乱舞
フレスベルク級攻撃空母。それは本来の艦種としては空母に分類されるものではなく、分類としては大型輸送機である。
だが本体の攻撃性能と、多数の機体を長距離運搬して一気に展開するその様は空母と呼ぶにふさわしいと言われ、そう呼ばれている。
そんな機体が、5機。その格納スペースに投下用の爆弾と、多数のジッパーヒットを抱え、革命軍――彼等からすれば反乱軍が占拠したアケオロス基地へと向かっていた。
フレスベルク級攻撃空母による空爆だけでなく、飛行可能な機体であるジッパーヒットにも爆撃用の装備を持たせ、徹底的に地上施設を破壊しつくす。
それが、この攻撃部隊にあ与えられた任務である。
が、それ故に通常の部隊は動かすことができない。
自軍の基地奪還のための出撃ではなく、壊滅させるための出撃など、疑問を持つ者が多いだろう。
それに、たかが基地1つ落とされたとして、絶対的有利という現状には変わりがない。
つまり、わざわざ取り返しに行くだけの価値も、設備を破壊しなければいけない理由もない場所への出撃となる。
そんな命令。何も知らない一般の兵士ならば疑問をもって当然だろう。
だから、この作戦に投入されているのは特殊部隊。
その基地の――より正確にはその地下にある施設の重要性を知る人間のみで構成された女王直轄部隊である。
あくまでもその部隊の存在は極秘。運用する機体も、通常部隊と同様の機体を使用している。無論、その性能はカスタムされたものであるが。
が、彼等特殊部隊にとってもこの作戦は不本意なものである。
自分達の能力からみて、爆撃するだけの作戦に投入されるなど過小評価されているとしか思えないからだ。
ただ1つ。気がかりがあるとするならば、アケオロス基地が占拠されたということはつまり、配備されていたタイラント・レックスが攻略されたということだ。
そんなことをできる戦力が革命軍側に存在しているとは到底思えない。
だとするならば、第三者の存在がどうしても見えてくる。
その第三者。それが要塞都市ニクス攻撃作戦をご破算にしたソリッドトルーパーだというのならば、警戒をせねばならない、と部隊の緊張は基地に近づけば近づくほど張りつめていく。
そして。それは危惧などではなく、現実として彼らの前に閃光と共に現れた。
閃光が1機のフレスベルク級攻撃空母の胴を抜けた。
瞬間、満載した爆薬に一気に着火。空の支配者たる大型輸送機はわずか一瞬にして大爆発と共に破片を周囲にまき散らして消し飛んだ。
◆
高速で風を突っ切る艦艇。サイズは駆逐艦程度。それもそのはずで、元はスペースフィッシュ級駆逐艦。宇宙用の艦船である。
尤も。魔改造と言っていいほど徹底改造されたそれの名はソードフィッシュ。最高速度は宇宙最速レベルの艦艇である。
そしてその性能を誰よりも熟知した人間が直接操舵を行い、大気圏内で出せる最高速度で、5機の大型輸送機――フレスベルク級攻撃空母の編隊めがけて突っ込んでいく。
「アニマ、照準合わせられる?」
『なんとか』
ソードフィッシュの中から上半身だけを甲板に出し、ロングレンジライフルを構えて狙いを定める。
『撃ちますか?』
「お願い。そっちも振り回すけど我慢してね」
マコの艦の操縦は、荒い。
無論、わざと荒っぽい操縦をしているだけで、普段は無茶苦茶な操作をしているわけではない。
それに、無茶な動きをさせたとしても、それは艦に無理がかからない限界を見極め、その限界ギリギリの操舵を行い、その上で必要ならばその限界以上の無茶をさせているだけである。
その必要な時が、今である。
「荒れるぜぇ!」
一気に加速するソードフィッシュ。
十分な速度を出していたと思っていたアニマであるが、その速度でもかなり手加減していたようだ。
加えて、戦闘機か何かと勘違いしているような動きで編隊めがけて一直線に突っ込んでいく。
「照準は!」
『今です』
そんな無茶苦茶な動きをしているのに、その動きに合わせてアニマはビームを放つ。
もはやマニューバと言って過言ではない動きをするソードフィッシュでは、照準の合うタイミングなどほんの一瞬しか存在しない。
にもかかわらず、そのタイミングにばっちり合わせ、まずは1機。胴体をビームが撃ち抜き、大爆発を起こした。
「やっぱり想像通り、爆弾を満載してたか……」
『敵、艦載機展開しました』
「了解ッ」
1機のフレスベルク級攻撃空母が粉々に吹き飛び、それに巻き込まれた他の機体も損傷。
そんな状況に慌てた各機に搭載されていたソリッドトルーパーのパイロットたちは我先に、と飛び出してくる。
そのすべてがジッパーヒット。しかもサイドアーマーに爆撃用の大型爆弾を装備した機体だ。
本来のジッパーヒットならば、もしかするとソードフィッシュの速度に追いつけるかもしれない。
少なくとも反転するために減速すればあっという間に追いつけることだろう。
だが、その余計な荷物がジッパーヒットの持ち味である圧倒的な推力を殺し、飛行こそできているが本来のスピードが出せなくなっていた。
『止まって見えますね』
「こっちは止まってるんだけどね」
編隊を挑発するように機体同士の間をすり抜け、一気に距離を取ってから静止状態になり、アニマが狙いやすいようにする。
ビームライフルの閃光が短期間で何度も瞬き、その都度荷物を抱えていい的になったジッパーヒットが動力炉を吹き飛ばされて四散する。
が、それでも任務を続行しようとする機体も多くあり、こちらの攻撃をあえて無視してアケオロス基地への侵攻を続行しようとする機体が3つ。
比較的損傷の少ない3機のフレスベルク級攻撃空母と、それに随伴する数十機ほどのジッパーヒット。
地上施設の破壊も不可能ではないであろう量の爆薬がまだ残っている。
「先頭の機体、落とせるか?」
『翼のエンジンくらいなら撃てます』
「お願い。足を止めて」
『その前にッ!』
マルチプルランチャーが徹甲弾を発射。それが接近してきていたジッパーヒットを直撃し、コクピットを潰す。
あちらもあちらで、作戦を続行する部隊と、こちらの足止めをする部隊とに分かれて作戦を続けることにしたようだ。
『マコさん、突っ込みましょう』
「グランパ! 各員に対空砲座のコントロールやらせて。接近する機体は全部撃ち落とす!」
再び加速し始めるソードフィッシュ。
その眼前に、初撃で爆散した機体の破片でボロボロになったフレスベルク級攻撃空母が立ち塞がった。
それに対し、ソードフィッシュはシールドを展開しつつギリギリで艦を傾けて接触を回避しつつ、すれ違いざまに対空用レーザー機銃が一斉に攻撃。
ほんの一瞬の出来事であったが、装甲を容易に貫通するレーザーにより穴だらけになった機体はとどめを刺され、空中で爆散する。
それを背に、接近してくる機体の悉くをビームライフルとマルチプルランチャーで撃ち落とすアニマ。
「爆撃用の爆弾抱えたまま突っ込んできて……」
『自爆特攻ですか……』
「命を捨てるような戦い方をさせる。そんなのがこの
マコの指示に従い、アロンダイトを乗せたリフトが下がり、ハッチが閉じていく。
機体が艦内で完全に固定されたことを確認すると、マコは『燃える灰』が改造し、自分達で運用する艦には必ず装備されているものを起動させた。
瞬間。艦艇部に収納されていたブレードがまるで折り畳みナイフのような動きで展開し、鋭利な衝角として収まり、ソードフィッシュの外見を一振りの刃に変える。
「まとめて、ぶった切る」
シールドを展開し、空気抵抗を極限まで減らして加速するソードフィッシュ。
さらには隠し玉の燃料式ブースターまで使用し、その速度は本来のスペック以上の速度となり、背を向けた巨大な機影へと迫る。
無論。逃がさない。攻撃空母などとたいそうな名前がついているが、所詮は長距離輸送能力に優れる大型輸送機にちょっと強力な武装を付けただけ。
最初から戦闘用の艦として生み出され、それをさらに特化させた改造を施した艦艇の速度に勝てる訳がない。
「まずはひとつッ!」
巨大な剣が、大鷲の名を冠する機体を後ろから突き破り、引き裂いた。
シールドと接触したことで搭載していた火薬が爆発を起こし、その余波で随伴していたジッパーヒット達の抱えた爆弾も誘爆し、いくつもの爆発が起きる。
「続けてふたぁつ!」
1機目を撃墜した後急上昇してからの急降下。
真上から刃を突き穿たれて先頭を行く機体が落ちる。
そしてそのまま弧を描くように急降下からの急上昇で、ほぼ真下から最後に残ったもう1機を切断した。
『残存機、なし。仮に存在したとしても、あの施設を破壊しつくすだけの火力はありませんね』
「けど、こうなるともう時間との勝負になってきた、か」
今回はたまたまである。
たまたまマコの予想通りに相手が動き、コンピューターが導いた予想通りの侵攻ルートを使って相手が進軍し、そしてそのタイミングがたまたまマコが動いたタイミングと重なった。
次はこうも上手くいくとは限らないし、奴等は徹底的にアケオロス基地を攻撃し、革命軍を追い出そうとするだろう。
「これを止めるには――」
『大本を断つ。それ以外はありませんね』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます