第94話 尋問開始

 ソードフィッシュに帰還したマコとアニマ。

 アロンダイトの姿勢を低くさせてハッチを開いてコクピットから飛び降りる――前に、拘束した女性兵士の首根っこを掴んで持ち上げる。


「今暴れたら明日の朝までここに放置するからね」

「――――」


 抗議する視線は相変わらず。だが、マコの言葉に従い、抵抗の意思は見せていない。

 マコは飛び降りるようにしてコクピットから降りる。必然的にその動きにあわせて子猫のように首根っこを掴まれた女性兵士も引っ張られることになるのだが……着地した際に思いっきり身体を床に叩きつけられた。


「――!」


 痛みに女性兵士が呻く。


「さて、と。もうここでいいか」


 床に横たえたままの女性兵士の胸元に手を突っ込むマコ。

 しばらくまさぐってから引き抜いたその手には、金属製の楕円形のプレート――認識票IDタグが握られていた。


「古風だねえ。こんなの持ってたってビーム食らったらまとめて蒸発するってのに」


 これを見るだけでわかる情報は主に4つ。

 どこの部隊の所属であるか。タグの所有者の氏名、血液型。そしてその認識番号だ。

 とはいえ、今からマコがやろうとしている事に重要なのは最初の1つだけ。

 どこの部隊の所属か、である。


「アケオロス基地所属、か。まあ、そりゃあそうか。けど――」


 タグを裏返し、そこに何も書かれていないことを確認。


「グランパ」


 現在、オートマトン集団のリーダーであるグランパの前にタグを見せると、グランパはそれをスキャンし、結果をマコの携帯端末に送る。


「……女王直轄特殊部隊アウルズ、ね。これは好都合」

『その割には弱かったような』

「――――!!」


 アニマの弱かった、という感想で暴れる女性兵士。

 マコは奪ったばかりのタグを女性兵士に投げて返す。


「まあ、確かに特殊部隊がこの為体ていたらくじゃあねえ。グランパ、口のを外して」


 グランパが返事すると、女性兵士の猿轡を外す。


「貴様等、何者だ!」

「立場、わかってる? アウルズ所属のミーナ・アレインさん」

「……」

『マコさん、何をするつもりなんですか、ここで』

「え、決まってるじゃん。尋問」


 にっこり、と笑みを浮かべるマコ。その笑みは、笑顔が起源は威嚇だ、という話に真実味が増すようにも思えるほど、邪悪で、攻撃的。

 女性兵士――ミーナも、その笑みを見て、短い悲鳴を上げる。


「まずは何から聞くべきかな、アニマ」

『それは……やはり女王エル・アルヴの居場所、ですかね』

「まあそうなんだけど、普通王族なんだから首都にいるんじゃないの?」

『それはそうなんですけど、こんな状況です。どこかに隠れている可能性だって十分にあります』

「なるほど。でも、まず聞くのは――アタシたちがドラウで襲われた時、そこにいたかどうか、かな」


 と、マコは手にプラズマライフルを握る。

 勿論、それを使うことはない。まともに身動きできない相手に対し、そんなものを使えば自分達の母艦を傷つけるだけだ。

 ――そう、誰もが思ったのだが、マコはその銃口をミーナの額に付きつけた。


「出す銃間違えちゃった。でもまあ、いいや。で、アタシ達を襲った連中にアンタはいたの?」

「……答えると?」


 その反応に、マコは笑顔のままプラズママグナムを持ち直し、銃身を握ってグリップ部分で蟀谷こめかみのあたりを叩いた。

 無論、あまり力を入れず、勢いもそれほど。

 が、人的急所の1つであるそこを叩かれれば、ダメージは大きい。


「答えないなんて選択肢はないの。それと、舌を嚙んで死ぬなんて真似はフィクションでしかまず成立しないから無駄。ああ、あと口の中の毒薬カプセルっぽいの全撤去させてもらってるからそれによる自決も不可能だってのは付け加えておくね」

「くっ……」

「で、その場にいたの? いなかったの?」

「……」


 なおも沈黙を続けようとするミーナ。それに対し、あきれたようにため息をつくと、オートマトンを1体呼び寄せ、そこからいくつかの工具を取り外す。

 うち、マイナスドライバーを手に取りそれを角度を変えてじっくりと観察する。


「先に宣言しておく。次、質問に応えなかったらを太ももに突き刺す」

「ッ……」

『マコさん、それは――』

「アニマ。悪いけどアンタは後始末の準備を進めておいて」

『……死なせませんよね?』

「そのつもりではあるけど、それは彼女の出方次第だよ」


 溶接用のバーナーを使い、マイナスドライバーの先端を熱する。

 それをどうするつもりなのかは、言うまでもない。


「で、繰り返し質問。あの夜、アタシ達を襲った連中の中にお前はいたか?」

「……私は、その場にはいなかった」

「へえ」


 マイナスドライバーをパイロットスーツに押し当てる。

 赤く染まった先端部分はスーツを融かし、素肌に触れていないとはいえスーツ越しに伝わる高熱にミーナが悶える。

 完全にスーツを融かして素肌に触れる前にドライバーを離すマコ。


「な、なんで……ッ!」

「ん? だって信用できないもの。そんなに落ち着いて話されてたらさ。考えてみてよ。この状況、こっちは銃弾1発でアンタを終わらせれる。確かに情報は欲しいけれど……それって別に今ここであんたに聞かなくてもいいことだってのは――理解している?」

「ッ……!」

「恐怖のあまりにしゃべれなくなるのも困るけどさー? 今のあんたみたいに冷静に淡々としゃべってるのって、あらかじめ覚えてたセリフみたいで気に入らないのよね。さ、本当は?」

「……し、知らない。本当に知らない!」


 やや怯えた様子を見せるミーナ。その様子を見て、マコは満足そうな笑みを浮かべる。

 が、マイナスドライバーをミーナの太ももめがけて振り下ろした。


「――――――!!」


 痛みに叫びをあげるミーナ。

 まだ熱の残るドライバーが突き刺さり、できた傷口が即座に焼かれるような痛み。

 そしてそれが強引に引き抜かれる痛みで、大粒の涙を浮かべて、呼吸を短く荒くする。

 流石にマコも必要以上に傷つけることを良しとしない。

 刺す場所は歩行に差し障るような場所を避けるし、突き刺す前によく振って熱を取ったことで火傷するほどの熱は残っていない。

 が、それでも傷を熱せられるのは相当な激痛を伴う。


「はっはっはっはっ――」


 殴る蹴るといったことはミーナ自身も覚悟していただろう。

 だがそんなレベルではない危害が加えられたことで、表情が一気に変わる。

 熱したマイナスドライバーを突き刺すといった過激な行動を笑顔でとる相手が目の前にいる。

 瞬間、恐怖が脳を支配する。

 堪えようとしても、歯の根が合わない。言葉を口にしようとしても、痛みが思考を乱し、荒い呼吸が一言すら言葉にさせない。


「安心して。舌と喉と肺は傷つけないから。しゃべれなくなるからね」

「……こんなの、捕虜の扱いじゃ」

「ん? あ、そうか。そういう認識なんだ」


 この時、マコとミーナの認識に齟齬があることが判明した。


「ミーナ・アレイン。アンタはアタシが革命軍の仲間だと思ってる。だから捕虜には相応の扱いをしてくれる、と」

「なっ、ならお前たちは……」

「アウトロー。惑星アルヴ内の争いには本来関係のない部外者。それにコクピットで聞いてたでしょ。アタシが、何をして死刑囚にまでなったのかって話を」


 ――サメの餌にした。


 その言葉を思い出し、今から自分がどんな目いあわされるかを想像してしまったミーナは顔を青くし、震えはじめていた。

 そんな様子をみて、マコは口元を吊り上げて――笑う。


「さあて、次は何を使おうか……な!」


 マイナスドライバーをミーナの眼前の床に突き立てる。

 まさに目と鼻の先。その位置に突き立てられた赤黒い液体が滴るドライバーを見て、ミーナは恐怖のあまりに失禁しながら気を失った。

 やりすぎたか、といった反省はマコにはない。

 次の準備に取り掛かるべく、気を失ったミーナを雑に抱えて別室へ向かう。


「悪いね、掃除よろしく」


 粗相の後始末をオートマトンたちへと任せて。

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