第92話 繋がり

 アニマがマコを回収し、タイラント・レックスのほうを向きなおる。

 瞬間、巨大な剣がアロンダイトめがけて振り下ろされる。

 それをスラスターを全開にし、真横にスライドするようにして回避。即座に反撃としてマルチプルランチャーからロケット弾を発射する。

 爆発物ならそれなりの効果があると踏んだ攻撃であったが、爆発の衝撃ですこしよろめく程度。

 純粋に装甲を破壊出来なかった。それだけの話だが、こちらの火力がほとんど通じないというのはやり辛い。


「残弾は」

『ロケット弾は2。徹甲弾が3。煙幕弾が1。信号弾が1回分です』


 左肩に取り付けられたマルチプルランチャーユニットの弾倉を切り替える。

 爆発でダメなら、強烈な一撃で。

 弾丸そのものの硬度と速度で装甲を貫く為の弾丸、徹甲弾。

 それを装填し、即座に発射。

 放たれた弾丸は胸部装甲を直撃し、それを陥没させる。

 だが、そこまで。

 連続して同じ場所へ攻撃を行えば動力炉を破壊することだって可能だろうが、一撃でも攻撃を受けたら死が確定するような状況で、足を止めて同じ場所を狙うなんて真似をするバカはいないし、そもそも相手だって動き続けているのだ。

 動き回りながら撃ち、当たったとしても、望む効果を得られるかどうか。


「わかってたけど、やっぱり狙うのは頭か」

『頭までかなり遠いですけど……』

「前に倒したときはクラレントがいたからね。各機、攻撃!」


 マコの指示にバッシャーマ各機と3機のノックルーマが攻撃する。

 といってもバッシャーマが持つアサルトライフルも、ノックルーマの両腕のマシンキャノンも豆鉄砲程度の威力にしかならない。

 が、それでも無視するわけにもいかない。

 タイラント・レックスは定期的に冷却のために停止する。その欠点がそのまま残っている以上、今は豆鉄砲であったとしても排熱フィンが解放された時にそこへ命中すれば、致命傷になる。


「各自、排熱フィンの展開箇所は覚えているか」

『もちろんです』

「狙うのは両脚のフィン。そこを狙って攻撃を継続! 上手くいけば、脚部を破壊すれば、どうにでもなる! ただし、やばいと思ったら逃げる!!」

『やってやる、やってやるぞ!』

「最後のほうは聞いちゃいないか……急ぐよ、アニマ」


 明らかに士気が上がる。見るからに勝てそうにない相手。倒せないと思い込んでいた相手が倒せるかもしれない、と。

 マコは嘘は言っていないし、実際に惑星ウィンダムではクラレントとフロレントが連携して脚部を破壊し、行動を封じる事ができていた。

 が、しかし、だ。あの時はタイラント・レックス自身の想定外の行動を起こして、最後の一撃を放ってきた。

 あんな真似は、さすがに有人機でやってくるとは思いたくないが、それでもどんな抵抗をしてくることも考えれば、突っ込むだけでなく逃げる事も考えてほしいのだが――どうやら彼等はそこまで頭は回っていないようだ。


「アニマ、ビームライフルのチャージは始めておいて」

『了解です』


 なら、極力急いで撃破するしかない。

 あくまでもアロンダイトが目指すべきは、タイラント・レックスの頭部。そのれを破壊しない限り、安心はできない。


 タイラント・レックスはライフルが狙いを定めるなり発砲。ソリッドトルーパーからすれば砲弾ともいえるそれを避けるのに必死に走り回る各機。

 一発ごとに舗装が粉砕され、粉になって舞い上がる。

 それが終わると今度は対艦用ブレードによる薙ぎ払い。

 回避しようと多くの機体が跳びあがるが、アロンダイトだけは弧を描くような動きでタイラント・レックスの足元へと向かう。

 そうすることで、ブレードの攻撃範囲から逃れつつ、相手の死角に入ることができる。

 それに、だ。ブレードでの攻撃はそう何度もできるものでもない。

 あれを使うだけで、あの機体のジェネレーターは大量の熱を発生させる。

 以前の機体も、数度攻撃を行っただけで排熱を行っていたくらいだ。


『マコさん!』

「!?」


 この攻撃を回避すれば反撃のチャンスがある。そう考えていたマコの目の前で、タイラント・レックスが足場を砕きながら踏み込み、振り抜いたはずのブレードを返す刀で振り上げて上に逃げた機体を追う。

 超高速。それどころか切っ先は音速を優に超える速度で振りぬかれた一撃。

 そんな攻撃を、つい最近までただの一般人だった人間が避けられるわけがない。

 フォローも間に合わない。

 マコの目の前で、バッシャーマが2機真っ二つになる。

 幸い、下半身が持っていかれただけで、コクピットは無事。むしろ下半身を失ったことで軽くなり、離脱速度が上がる。


「さっさと潰さないと被害が広がるな」


 たが、返す刀で振り上げた刃が降りぬかれ、その切っ先が地面を穿ったところで、タイラント・レックスが動きを止める。


「来た。アニマ!!」

『はい!』


 すでにビームライフルのチャージは終わっている。

 あとはそれを、顔面に叩き込むだけ。

 猶予はたったの5秒。

 スラスターを全開にし、相手の身体を足場にして跳びあがり、一気に頭部めがけて駆け上がる。

 アロンダイトの最高速度を考えれば、十分に間に合う。


「今だッ!」


 一息で頭部まで跳びあがる機体。

 その高さに到達すると同時に冷却が完了し、排熱フィンが閉じられ、タイラント・レックスが再起動をはじめるが――完全に動き出す前にビームライフルの銃口がその頭部に付きつけられた。

 そして、引鉄が引かれる。

 本来は超長距離射撃を行うための超高出力ビームライフルの一撃だ。

 しかも単発ではなく照射されたビームが至近距離で顔面に叩きつけられる。普通ならこの時点で装甲は融解し、とっくにビームが向こう側へと貫通しているはずだ。

 だが、放たれたビームはアンチビームコーティングによって拡散させられ、効果が薄まってしまう。

 その証拠に、拡散したビームは装甲に弾かれ、まるで線香花火のように四方八方へと散っていく。

 が、次第にその量が減り始めて目に見えて効果が表れ始めた。

 コーティングでは防ぎきれない大量の超高熱粒子がコーティングを貫き装甲を融解させ、機体の温度を危険な領域まで押し上げる。

 その証拠に、頭部に到達した時点では閉じていた排熱フィンが再度展開し、行動不能に陥ったタイラント・レックスはぴくりともしない。

 が、その装甲を完全に貫通することはできず、次第にビームの勢いも落ちていく。


『マコさん、チャージした粒子が無くなります!』

「ハッチ開放!!」

『え!? でも……』

「いいから!」


 マコに言われるままに、コクピットのハッチを開放する。

 その瞬間、コクピットの中に流れ込んでくる、直前までビームによって熱せられていた肌を焼かんとする高熱の空気と風。

 それに逆らうように、シートから離れて身を乗り出し、両手で愛銃を構える。


「確かめたいことがある。だから直撃はさせない」


 融解はしたが、未だ原型の残るタイラント・レックスの頭部。

 そこから少しずらした場所めがけて引鉄を引くマコ。

 瞬間。先ほどのビームとはまた違う閃光が一筋伸び、タイラント・レックスの頭部装甲をごっそりと削り取り、その内側を露出させる。


「アニマ、接近して!」

『はい!』


 内側――コクピットを露出させたタイラント・レックスの頭部に接近し、その機体に降り立ったマコは即座にコクピットに乗り込み、パイロットの頭めがけてプラズママグナムのグリップで殴りつけようとするが、そこで手が止まる。


「こいつ……ッ!」


 確かに、この機体、このタイラント・レックスは人間が乗り込んで直接操作する有人機であった。

 かつての構造と同一だとしたら、そのコクピットが頭部にあるであろうということも想像できた。

 加えて、稼働中には常に振り回されるコクピットの位置からして、普通の人間では操縦不可能であり、なんらかの強化手段を用いなければまともな運用は不可能であろうとも考えていたが――その考えが最悪の形で的中し、最悪の形でマコ達の目的と結びついた。


「彼等と同じ症状……甘き死ズューサー・トートの中毒症状だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る