第90話 基地侵入

 アケオロス基地の防衛網はザルではない。

 北部は切り立った岸壁であり、陸路での侵攻は不可能。

 要塞都市ニクスのある方向である南部は山岳地帯であり、そもそも陸路で接近できるルートが限られ、必然的にこの基地を攻撃しようとすれば空路からの侵攻になるが――当然、それに対応しないわけがない。北部の崖からの飛び降りも同様。

 着陸するまでに、対空砲によって撃ち落とされる。

 陸路から接近する相手には基地に配備されたソリッドトルーパーで対応可能であるし、その侵攻ルートも限られている為対処はしやすい。


「おい、なんだこれは……」


 アケオロス基地のレーダーが、5つの熱源を確認。それらがまっすぐこちらに向かってきている。

 即座に基地の望遠カメラで目視確認を行う。

 そこには4両のトレーラーを引く車両が、ウッゾ・ムゾに追いかけられているように見える。

 しかもそのウッゾ・ムゾの装甲は明らかに継ぎはぎの形跡が見られ、武装も銃火器ではなく、電磁投射式のアンカーを使って4両の車両の足を止めようとしている。

 と、追われている車両の先頭を行く車両がライトを一定のパターンで明滅させ、発光信号でメッセージを送ってくる。


「なんと言っている?」

「反乱軍に追われている、援護を求む、と」

「なぜ通信機を使わないんだ」


 その旨をこちらも発光信号で返す。

 するとすぐに返答があった。


「通信装置が故障していて使えない、と」

「詳しい事情を聴きだしたいところだが――余裕もなさそうだな。受け入れると伝えろ」

「了解」


 発行信号でこちらの意思をニクス方面から逃げてきた車両に返す。

 と、その車両が突如として速度を上げる。

 それに違和感を覚える暇もなく、車両を追いかけていたウッゾ・ムゾがライフルを取り出す。

 そしてその銃口が、管制塔に向けられる。


「なっ!?」


 発砲。弾丸は管制塔をかすめ、背後の岩壁へと突き刺さった。


「敵襲かッ!」

「応戦しろ! となれば、あの4両の車両も……!! 乗り込んでくるぞ!」


 気付くのが遅い。それに彼等は致命的な間違いを犯した。

 接近してきた車両が、ただの車両だと勘違いしたまま、指示を出したのだ。



 ノックルーマ各機がアケオロス基地の敷地内に突入し、2機ずつに分かれてそれぞれの目標へと向かう。

 2か所ある機体格納庫。そこの制圧に向かったのだ。

 ウッゾ・ムゾによる攻撃ですでに相手は警戒態勢には入っている。

 だが、即座に展開できるわけでもない。そこが勝負所だ。


「チームB、目標到達。制圧開始します」

「了解。こっちチームAも目標地点到着だ。ノックルーマ各機、トレーラー切り離し。即座に変形して、格納庫に近づく相手を牽制! 制圧班、急いで! 乗り切れない機体があったら転倒させてすぐに乗れないようにして!」


 マコが格納庫に突入して各自に指示を出す。

 と、端末がアニマからの通信を受信する。


「どうしたの?」

『すいません、やりすぎました』

「あ、もしかして」

『応戦していたら全滅させてしまいました。脱出したパイロットも拘束済みです』

「……どうやって? いや、とにかくそれでいい。むしろそれだけ暴れるんだったらむしろ援軍を送られなくてよかった」

『? 何故です』

「そっちのほうが、


 悪い笑みを浮かべるマコ。

 その後ろで、次々とバッシャーマが起動していく。


「チームBから報告。全員機体に搭乗完了。格納庫、制圧しました!」

「こちらも全員機体に乗り込んだ。外は!」

「問題ありません! ノックルーマ各機無事です」


 ここまで順調。それどころか、奪える機体は全部奪った。

 パイロットが乗り込んでいない機体は転倒させハッチを塞ぐことで仮に今すぐここに乗り込んできたとしても機体へ乗り込まれることはない。

 恐ろしいのは、対ソリッドトルーパー用装備を取り出された時。


「機体を奪ったメンバーは基地に対して降伏勧告。残ったチームBメンバーは司令室、チームAは管制塔の制圧準備!」


 自身は格納庫に残り、他の突入メンバーを制圧に向かわせる。

 周囲に誰もいないのを確認すると、アニマと通信を再開する。


「アニマ、捕虜を連れて合流して」

『構いませんが、どうするつもりなんですか?』

「念のため、さ」


 通信を続けながら携帯端末にミスター・ノウレッジから提供された基地の見取り図を確認する。

 おかしくないか、と。

 地上に出ている部分の施設では、フレスベルク級攻撃空母を待機・整備させる設備がない。

 だとすると、地下施設ということになるのだが――地下の図面がない。

 やはりそれはミスター・ノウレッジもおかしいと感じたのか、注釈として『これ以上の情報が得られなかった』と書き、注意を促している。


「あの人がそんなミスをするとは思えない。ありえる可能性は――」


 頭を使うことは得意ではない。それでも考える。

 そもそも、今ここに居ることになったのは、ミスター・ノウレッジが偽情報を掴まされたから。

 情報操作が得意な相手が、今回も介入してきたとしたら、情報が不足しているのもうなずける。


「アニマ、一応アッシュたちに連絡付けといて。ちょっと相手が厄介そうだって」

『了解です。あ、あと5分程度でそちらに到着します』


 5分。その間にこの基地を制圧できるかどうか。

 確かに機体は奪った。だから、アドバンテージはこちらにある。

 この時点で降伏勧告は出すように指示しているが、それに応じていないというのがどうにも気にかかる。

 こちらがこの基地そのものをできるだけ傷つけずに乗っ取ろうとしているのを察して、手を出しにくいと考えているのか、それとももっと別の理由があるのか。

 そしてその理由が、マコの考えている通りの、別の理由だったとしたら?


「調べるか」


 できるだけ高い場所へ移動し、プラズママグナムを構える。このままぶち抜いて地下へ向かおうとも考えたのだが――流石に格納庫の真下、というわけがない。

 何より確実性がない。確実なのは、外だ。

 この基地がフレスベルク級攻撃空母を複数運用できるほどの設備を持っているのならば、それは間違いなく地下。

 滑走路の下にリフトが仕込まれていると考えるのが自然だ。

 できればそれも無傷で手に入れたいが――この際贅沢は言えない。


『マコさん! 滑走路が割れて……』

「なッ!?」


 想像通りであったことにも驚きだが、それ以上にマコの直感が危険を察知する。

 地上の施設にある格納庫の戦力は全て押さえた。

 だが地下にどれだけの戦力が存在しているか、マコ達は把握できていない。

 ミスター・ノウレッジの情報によってこの基地に配備されている全戦力は把握していたし、それが嘘の情報であるとも思えない。

 が、もしも、この基地も正規軍――いや女王の後ろにいる存在の研究施設を兼ねているとしたら、表向きの戦力以外も所有している可能性は否定できない。


「ああッ、クソッ!! バカはアタシは!! なんでその可能性に行き着かない! お前の相手にしようとしてる相手はなんだ!!」


 蛇――ウロボロスネスト。

 この惑星そのものが女王含めて奴等の支配下にあるというのならば、そういう秘密戦力というものが出てくる可能性だって考えておかなければならなかった。

 何より、それを惑星ウィンダムで経験しているのに、同じことを繰り返してしまった。

 それが何より腹立たしい。


『マコさん、敵の新手です!』

『こんな機体、見たことないッ!』


 想像通り。あまりにも想像通り過ぎて、苛立ちが募り、ただでさえ混乱しそうな思考がぐちゃぐちゃになりはじめる。


「あああああああッ!!」


 だが、それでは駄目だ、と叫び、自分の両頬を叩いて気合を入れなおす。

 迷っている暇はない。今は自分が指示を出す立場だ。


「制圧部隊は作戦続行。ソリッドトルーパー各機は相互に援護しながら5分間回避に専念。相手の性能が判らない以上、下手に攻撃しないで!」

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