第87話 思案
最初からある程度は覚悟していた。
内乱なんて起きている国だ。その内情が単純なはずがない。
レーツェルをはじめとした要塞都市ニクスの革命軍の主要メンバーたちとの上方交換を終え、格納庫で他の機体同様にメンテナンスを受けているアロンダイトのコクピットに跳び乗るマコ。
「あ、まだメンテナンスが――」
「大丈夫。必要ない」
そう言ってハッチを閉じる。こうしないと、少しばかりややこしいことになる。
『お帰りなさい、マコさん。どうでした?』
「めっちゃくちゃ疲れた。ああいうのはアッシュの役目でしょ……」
『お疲れ様です。それで、何か判りましたか?』
「思ったより問題の根が深いってことが判った。あー、マジで頭痛いわこれ」
外に聞こえないからこそ、そうやって愚痴をこぼす。
そも、この惑星にきたのは現地の情報収集が主な理由。無論、その情報収集の過程で正規軍と衝突する可能性も考えていた。
だが実際には、いきなり女王エル・アルヴ直轄の特殊部隊とやりあうハメになった。
ただの駐屯部隊に不審者として追われるならまだわかる。マコだってあの時の自分の恰好とアニマの恰好が観光客と言い切るには怪しすぎるのは理解している。
だが、女王直轄の特殊部隊となると流石にドラウの街に駐屯しているというのはおかしな話で、そんな相手に狙われるほどの事をした覚えもない。
「特殊部隊が直々に出張ってくるとかなんなのさ」
『特殊部隊……あの時の、ですか』
「それに、第1・第2王女の行方不明にも女王が関与してる可能性が出てきた。ちょっとこれはただの宇宙海賊の手に負える話じゃない」
現王政側からすれば、女王の威光を白絞める為のものであり、敗北すれば国家の在り方が根本から変わる。文字通り国家の存亡をかけた戦い。
革命軍からすれば、圧政で自分達を押さえつける女王への反逆であり、自分達のために
どちらも士気は高い。下がる事も出来ない。
折り合いなど付かない。どちらかを完全に叩き潰し、降伏させるまでこの戦いは続く。
「本当。最悪。このままなら革命軍は確実に負ける。物量が違いすぎる。いや、そもそも……」
『すでに負けていてもおかしくはない、ですか?』
「そう。それ。あの戦闘を見ていた時からおかしいと思ってた」
革命軍とは名乗っているが、結局のところは正規の訓練を受けたわけではない民間出身者の集まりでしかない。
当然、強力な火力を持つ艦船を多数所有しているわけもなく、生産拠点があるとはいえ、そこまで多くのソリッドトルーパーを用意できるわけもない。
加えて問題になるのが惑星アルヴ正規軍の使用する機体、バッシャーマの存在だ。
「実弾にもビームにも耐性を持つ装甲を持つバッシャーマが相手なのに、こっちの戦力はウッゾタイプ。しかも共食い修理したスクラップ寸前の機体ばっかり」
『ウッゾタイプの機体が装備できる武装では、バッシャーマの装甲に傷をつけることが難しいはずですしね』
「事実を羅列するだけでも、革命軍が勝てる要素が見当たらない。だったら――」
勝てる見込みがないのに、なぜか持ちこたえることができている。
まるですり潰すようにじっくり、ゆっくりと攻める必要性はない。それが女王の趣味だとするならばまあ話は別だが――実子をギロチンで処刑するような人間がそんな悠長なことをするとも思えない。
何か、そうする理由があるはずなのだ。そうでなければ、今の状況はありえない。
『……あの、疑問なんですけど』
「何?」
『第1王女と第2王女が行方不明にして、第1王子と第2王子は処刑。第3王女は5万人とまとめて惑星の外へ放り出した。これって何か意味があるんですかね?』
「意味……? 意味、ねえ」
言われてみれば。王子・王女たちが邪魔になったのならば、王子達同様に殺してしまえばいいのだ。
見せしめとして辱めてもいいし、斬首しても構わない。
だが、彼女たちは行方不明。生死がわからないという状態で、排除されている。
「リーファ王女はあの薬の実験台だった、と考えるのが自然だけど他の2人の王女に関しては何もわからない、か」
『でも発表もおかしいんですよ。本当に2人が邪魔で、排除したかったのならば行方不明なんて言い方をしないはずです』
「それもそうなんだけど……情報操作の可能性もあるし、ちょっと判断が難しいかも」
事故で死にました。それで済む話が、行方不明扱いとされている。
生死不明とすることで、余計な反発を避けるつもりだったのか。それとも、本当に女王――あるいはその後ろで糸を引いているかもしれない何者かにとってそうしているほうが都合がいいのかはわからない。
そうする目的が見えてこないというのが、恐ろしい。
「ま、とりあえず。難しいことは一旦置いておいてここからの話をしましょうか」
『と、言うとつまりは何と戦うか、という話ですよね?』
「まあね。どちらに付くか、って言われると当然革命軍になるわけだけど――」
『?』
「防戦一方って、気に入らないのよね」
と、不敵な笑みを浮かべるマコ。
携帯端末を使い、特別回線を使ってミスター・ノウレッジに通信を繋ぐ。
『また随分と早い連絡だな』
「何度も悪いね。けど、この件に関してはそちらも思うことがあるんでしょ?」
『そうだな。偽の情報を掴まされたことは業腹だ。できればその原因というのを知りたいのだが――まあ、それはいいとして、だ。どんな情報が知りたい』
「前と同じ。正規軍の次の攻撃目標とそのタイミング。ただし、今回はできるだけ多く欲しい」
『ふむ。それは構わない。だが、何故だ? 革命軍とは言っているが、指導者を失いいつ瓦解してもおかしくはない状態。それに戦力も圧倒的な差がある。君は何故、そんな組織に手を貸す?』
ミスター・ノウレッジの言葉に、マコは笑みを浮かべる。
にぃ、と口角を吊り上げた――いわゆる悪い顔。
「決まってんでしょ。後ろで画を描いてるろくでもない奴等の邪魔をしたいのさ」
『なるほど。下手に連ねられた言葉よりは納得できる理由だ。今使っている端末に正規軍の活動予定を送っておく』
「聞いちゃあいけないんだろうけど、どこでこういうのを調べてくるんだか」
『企業秘密、というやつだな』
通話が終わるなり、端末のメールが届く。
添付ファイルを開くと、さすがに詳細な作戦内容などは書かれていなかったが、マコの求める情報は全てあった。
具体的には、各地の基地とその保有戦力。攻撃目標となる拠点。出撃するであろう戦力と日時。
「アニマ、作戦会議」
『はい。どうするんですか?』
「そりゃあ勿論、打って出る。まずは――ここを攻める」
『アケオロス基地……?』
「攻める理由は、この基地から出た部隊がさっきニクスを攻めていた部隊だってこと。で、その部隊は――」
『ボク達が潰した……?』
「そう。だから、本来の戦力よりも少なくなっている」
『ですが、ほぼすべての機体が未帰還となっているとすれば、相手も警戒しているんじゃ……』
確かにその通り。大半のバッシャーマはアロンダイトのビームライフルによって撃破されたが、それでも撃ち漏らしはある。
要塞都市全域をカバーしきれていない以上、そもそもマコとアニマが把握していない機体もあったはずだ。
そういう機体が基地に戻って一部始終を報告をしていれば、警戒して第2波を差し向けてくる可能性だってある。
「だからこそ、アタシ達が目立つことができる」
『目立つ? 目立つんですか?』
「そうさ。今回の革命軍の勝利はアタシ達の存在が大きい。……いや、もうほとんどアニマしか動いてないけど」
『それはおいておいて』
「まあ、ようするにアロンダイトはあちらさんにすれば革命軍とは比較にならないほどの脅威だってことさ」
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