第86話 革命軍
傾いた戦況は簡単には覆らない。
この要塞都市ニクスでの戦闘において、上空を支配していたフレスベルク級攻撃空母の存在は無視できるものではなかった。
存在するだけで威圧感を放ち見上げる者たちを畏怖させ、いつ襲い掛かるビームや爆撃に怯える事になる。
だが、それが排除された。たった1機のソリッドトルーパー・アロンダイトの出現によって。
正規軍のバッシャーマ部隊は、勢い付いた革命軍側のソリッドトルーパー部隊に押され始める。
かといって撤退しようにも、母艦となるフレスベルク級攻撃空母を失ったことで狼狽。被害を拡大させていった。
それから。数刻もしないうちにすべては決した。
無論、革命軍側の勝利である。
それも、ただ守り切ったというわけではなく、明確な勝利。
今まではまるで嵐が過ぎ去るのを待つかのような戦いであったのに、その嵐に真っ向から打ち勝てたのだ。
と、なれば勿論士気は上がり、ちょっとしたお祭り騒ぎ。
戦いが終わって、今回の勝利の立役者であるアロンダイトを取り囲んで酒盛りまで始めている。
まだ昼であるが。
「……」
『駄目ですよ』
「わかってる……わかってるよ」
マコが酒盛りの様子をコクピットからうらやましげに眺めている。
だが、彼女がこの場に参加したらまともに話なんてできなくなるし、本気で飲みだしたらそれこそ、アッシュが語る惨劇が起きる気がする。
これから友好的にやっていこうという相手の好感度を落とす可能性のある行為は避けたい。
『というか、降りないんですか?』
「……この雰囲気で降りれる?」
『……ちょっと興奮しすぎてて怖いですね』
「でしょ?」
現在のアロンダイトの状態を確認しながら、周辺状況をモニターに映す。
ここで降りて出て行けば、間違いなくマコは歓迎される。だが、とんでもない歓迎のされ方をしそうで、尻込みしてしまう。
「とりあえず外部スピーカーをオンにして話しかけてみる、か?」
『先に外の音声を拾いますか?』
「あ、そっちのほうがいいかも」
と、言うことで外部の音声を収音してみるが――もう混沌としすぎていて、耳が割れるような雑音そのもので、数秒もしないうちに収音マイクを切った。
「音声として認識できなかったんだけど?」
『テンション上がりすぎ、ですね』
「アニマは外の音聞いてるんでしょ。どんな感じ」
『……ノーコメントで』
とはいえ、話をしないことには何も進まない。
仕方ない、と覚悟してマコは外部スピーカーのスイッチを入れた。
「アタシはマコ・ギルマン。訳あって先ほどの戦いに介入させてもらった。ここの代表と話がしたい」
ここでようやく、周囲のざわめきが収まりはじめる。
アロンダイトの正面から人がはけてできた道を、1人の男性が歩いてくる。
外見から見て40代かそこらくらいの男であるが、杖を突き、右脚を引きずるようにして歩いてくる。
その男性が、アロンダイトの前に立つと、それに応じるようにアニマは膝を曲げて視点を低くしつつ、コクピットハッチを開いた。
「援護感謝する。私はレーツェル。この場を預かっている者だ」
「早速だけど、情報が欲しい。どうも事前情報とずいぶんと食い違っている」
◆
要塞都市ニクスの中心部にある司令部に招かれたマコは、ブリーフィングルームで人を集めた状態で革命軍の状況についての確認を行う。
少し前に一斉攻勢を仕掛けた革命軍は、大量の戦力を投入して大敗を喫した。
革命軍の中心人物であり、指導者であった第3女王リーヴァ・アルヴもその戦いに参加し、正規軍に捕らえられた。
ここまでは、革命軍側が把握している情報であり、マコにとっては推測の裏付けとなる情報である。
この大敗により、革命軍は解散こそしなかったが大打撃を受け、戦力の立て直しを余儀なくされた。
が、それを見逃す正規軍ではなく、各地の拠点は次々と攻め落とされていき、残る拠点もこのニクスを含め数えるほどしか残っていない。
加えて、生産拠点としても機能するのはこのニクス以外残されておらず、この要塞都市の陥落は革命軍の壊滅を意味するのだという。
「なぜそこまでして戦うんです?」
マコのその質問に、その場にいた多くの人間が露骨に嫌な顔をする。
当然、彼等は信念があって戦っているのだから、それを否定するような言い方をすれば、そういう反応にもなる。
無論、マコもそれを承知した上での発言である。だが、ここは重要な部分である。
指導者たる女王を失ってなお戦う意味。
普通、こういう組織はトップがいなくなるとそれだけで崩壊。空中分解することになる。
だが、多くの仲間を失ってなお結束し、戦う姿勢を失わない理由。それが知りたいのだ。
「諸君、落ち着け。彼女は悪意を以て尋ねたわけではない」
レーツェルが今にも飛び掛かりそうな勢いの周りを制する。
彼もマコの言葉には思うことがないわけではないようであるが、他の面々よりは冷静に物事を考えている。
それでも、不快感は隠しきれていないが。
「気分を悪くしたのであれば申し訳ない。ですが、そのまま隠れ潜み静かに暮らすという選択肢もあったはずです。敗走したのならばなおの事」
「……リーファ様の為だ」
レーツェルの隣にいた男が、そう呟く。
それに他の面々も続く。
「リーファ様は真にアルヴの未来を憂いておられたお方だ。圧政に苦しむ我等の為に矢面に立ってくださった」
「いいや。リーファ様だけではない」
「処刑されたライデン様とランド様、行方不明になられたフレア様とアクア様も同様だ」
「……確か、第1王女と第2王女が行方不明になり、その後で第3王女が革命軍を結成。第1王子と第2王子が処刑された、という時系列ですよね?」
「その通りだ」
マコはここで少し考える。もしかして、と思い、その質問を投げかける。
「もしかしてですが、表に立っているのは第3王女で、その裏で他の王女や王子達も革命軍を支援していたのですか?」
「それは……」
部外者には言いたくない、という空気を感じる。
その反応も当然。確かにマコ――というかアニマの活躍によってこの地の革命軍は勝利を掴むことができた。
だがそれは一時の利害の一致に過ぎず、用が済めば離れていく相手に必要以上に組織の内情を話したくないのだろう。
「んー」
困ったな、とマコは頭の後ろで手を組んで背を伸ばす。
言い淀むあたり、マコの想像の通りといったところだろう。
つまり、この惑星国家において起きていたのは、現在の王政に不満を持った人間の武装発起という単純なものではない。
現王政の象徴たる女王エル・アルヴに異を唱えた王子・王女たちの反抗である。
だとすれば、急激にきな臭くなるのが、第1王女フレアと第2王女アクアの失踪。
マコはぼんやりと行方不明という情報だけを持ってこの場に来たが、その行方不明も仕組まれていた可能性が高い。
「謀殺、いや、あるいは――」
不穏なことを呟いた後、しまった、とマコは口を抑える。
「失礼。ああ。それと。ここに来る前にドラウに寄りましてね」
「ドラウに?」
「あの街は不気味でした」
ドラウ、という単語を聞いて一瞬警戒されるが、その後に続けた嘘偽りのない感想が、男たちの緊張を解く。
「あの辺りはつい先日、焼夷弾によって焼き払われました。我々の生産拠点ごと」
「ええ。アタシも炭化した森林を見ました。あれだけの範囲が燃えたのに、あの街の人間は明るく、いつもと変わらない日常を過ごしているように見えて」
「だから、不気味、か」
「はい。それに、あの街で暗殺者のような連中に狙われましてね。その場は何とかしのぎましたが……」
「暗殺者? それは一体どのような」
「追ってきていたのは多分4人。うちまともにやり合ったのは1人で鉤爪をつけて――」
鉤爪。そう言った途端にレーツェル達が勢いよく立ち上がった。
「え、ど、どうしました?」
「アウルズだ……」
「アウルズ?」
「アルヴ軍の特殊部隊――それも女王直轄部隊だ。でもなんでドラウにそんな部隊が……」
女王直轄の特殊部隊。どうやらドラウには相当なものが隠されている事だけは間違いない。
どんどん想像以上に厄介なことになっていくようで、マコは深いため息をついた。
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