第85話 乱入
考えることは多い。だが、じっとしていても始まらない。今わかっている情報から行動を決定するしかない。
ならば、ドラウの地下にあるという施設に侵入する、という案が出てくるのだが――それはリスクが高すぎる。
戦力としてアニマの存在は大きい。それはソリッドトルーパーとしてもであるが、バトルドールとしても、高い戦闘力を誇っている。
だが所詮は単独の戦力。数の暴力の前ではどうしようもない。
マコも場数を踏んでいる為、戦いそのものが苦手というわけではない。だが、強すぎる火力を扱うというのが問題であり、地下施設での戦闘で施設を崩落させる可能性のあるプラズママグナムはどうも使い勝手が悪い。
破壊するだけならばそれでいい。だが中を調べることが目的ならば、マコの武器も、アニマの戦闘力も過剰なのだ。
「……となると、もうあっちを調べるしかないか」
『あっち、というと?』
「決まってるじゃない。革命軍、さ」
『革命軍……確かに、そちらのほうが情報ソースとしては有益なものが得られそうですけど、どうやって接触するんですか』
「決まってるじゃないか。ミスター・ノウレッジに協力を仰ぐのさ」
コンソールを操作し、ミスター・ノウレッジに連絡をつける。
シルルお手製の専用通信ツールによって、いくつもの回線を経由した秘匿回線での通信。
複数の回線を経由するせいか、繋がりにくい。
『何用かな、マコ・ギルマン』
「単刀直入に要件を伝えると、惑星アルヴの革命軍と接触したい」
『なるほど。どのような方法で接触する? アポを取るか、それとも――』
「次に正規軍と革命軍がぶつかる日時とその場所を」
『ちょっと、マコさん?! それってつまり……』
「その通り。アロンダイトで革命軍に参加する」
◆
要塞都市ニクス。かつて惑星アルヴがいくつもの国家に分かれてその覇権を争っていた際に生み出された都市のひとつで、その機能は現代においても健在。
都市全域が戦争のために生み出されたこともあり、いたるところに仕掛けがしてある。
例えば、街の中央にあるかつては要塞の心臓部たる指令部は堀に囲まれ、いくつかある通り道にかけられた橋は作業ひとつで簡単に崩落するようにできている。
また堀も深く、角度も急。加えて掴んだりひっかけたりするような場所がないときていて、並大抵の手段では侵入できない。
何より、攻めるとなれば厄介極まるのがトーチカの数。
高い場所にあることで、地上から攻めてくる相手にはめっぽう強く、互いに互いの死角を補うような配置がなされている。
ならば、上空からならどうか、となるとこれも難しい。
アルヴが統一されたのはたかだかここ数十年のこと。すでにソリッドトルーパーや、大気圏内を飛行可能な艦船も存在していた。
つまり、要塞を攻める際にもそれらの兵器が投入され、それに対抗するべく対空設備も多く設置されているということだ。
そして、その城塞都市は戦力で劣る革命軍にとっては重要拠点である。
攻めにくく、守りに適した武装が充実している。
おまけに、拠点には兵器の製造工場として使える場所まであり、兵力をそろえるという意味でもこれ以上に適した場所はない。
故に、対立している正規軍にとってもこの都市は最重要攻撃目標であり、定期的な攻撃が行われている。
そう、定期的に、だ。
繰り返される攻撃は、物資と戦力に余裕がない革命軍側を確実に疲弊させていく。
しかし、革命軍としては重要な拠点を落とされる訳にもいかず、抵抗しないという選択肢はまず存在しない。
「地上の戦力差はさほどない、か……」
街のいたるところで起きる爆発。立ち上る黒煙が
アロンダイトのコクピットの中で戦闘の様子を伺うマコは、俯瞰した視点でその様子を見ていた。
確かに、正規軍からすれば自分達に大きな被害が出ない程度につついて撤退を繰り返せば、確実に仕留められる相手だ。
やろうと思えば大量の戦力を投入して一気に制圧することだってできるはずだ。
『なぜ一気に叩かないんでしょうか』
「叩かないんじゃなく、叩けないんじゃあないかな。理由はわからないけど……いや、それは革命軍のほうについたらわかるかも」
『それではそろそろ動きますか?』
「頼むよ。アタシはこっちのほうは素人同然なんだ」
アロンダイトのモニターが起動する。普段は使われていない機能。起動したとしても必要のない機能である。
各種ステータスも表示され、サブモニターには機体のコンディションと武装の状態が表示され、システムが戦闘モードに切り替わる。
「とりあえず、まずは――制空権をなんとかしないと話にならないな」
視線を上空に待機する飛行空母に向けるマコ。
フレスベルク級攻撃空母。大型輸送機を大型化しただけにも見えるそれは、空中にいるだけでも威圧感を与える。
地上への攻撃用としてビーム砲も存在しており、それを使って対空砲を破壊し対空防御能力を奪っていく。
だが、この飛行空母の厄介なところは搭載するもの戦闘機やソリッドトルーパーから爆弾に変えれば巨大な爆撃機にも変わるということだ。
当然、その両方を搭載することも可能。
今はソリッドトルーパーの投下だけを行っているが、いつ爆撃を始めるかわかったものではない。
だからこそ、優先的に破壊する必要がある。
「攻撃タイミングは任せるよ。けど」
『墜落地点の予測もたてないと、ですよね』
ロングレンジビームライフルを構えるアロンダイト。
霊素――エーテルの濃度によって減衰率が変わるビームであるが、この惑星の濃度はそこまで濃くはない。
少なくとも、惑星レイスよりは薄い。
それ即ち、より遠くまで減衰せずビームが届く、ということである。
『今』
引鉄が引かれ、ビームが発射される。
その後、すぐにアロンダイトはその場を離れる。
ビームはどうしても目立つ。
視覚的にもそうだが、高熱の粒子を発射するという関係上、熱源でも感知される。
加えて、視覚的に目立つ上に弾速が速すぎることもあり、わずかな時間ではあるが射線がくっきりと残り、発射直後に即座に場所がバレる。
尤も。
必死こいて命のやり取りをしている最中の乱入者など、正規軍も革命軍も想定していない。
初撃くらいは、こちらの位置が特定されることはないだろう。
そして肝心のその初撃だが、フレスベルク級攻撃空母の左翼エンジンを撃ち貫き推力バランスを狂わせ、高度が下がり始める。
とはいえ、航空機は片翼のエンジンが停止したところで、もう一方が生きていれば飛行することは可能。それはフレスベルク級攻撃空母も変わらない。
高高度を確保することはできずとも、飛行は続けられる。
なので、もう1発放つ。
今度は右翼側のエンジンも撃ち抜き、完全に飛行能力を奪う。
巨大すぎる機体は高度を落とし、大地めがけて墜落していく。
「墜落地点には?」
『建造物はありません。勿論、避難経路にもなっていない、はずです』
巨大質量が落ち、大爆発を起こす。
流石にそこまで派手なことをすれば、嫌でも目立つことになる。
戦場が止まる。
突然の乱入者。
正規軍からすれば、母艦をたった2発で撃破した新手。
革命軍からすれば、突如として現れた敵とも味方ともとれぬ何者か。
アロンダイトは戦場すべてを見下ろせる高台に立ち、ビームライフルを構える。
『どれが敵か分からないんですけど』
「決まってるでしょ。機体が綺麗なほうが敵だ!」
『なるほど』
アロンダイトが再び引鉄を引き、正規軍のソリッドトルーパー・バッシャーマのコクピットを撃ち抜く。
これで、敵と味方がはっきりした。
同時に、革命軍が勢いづく。
当然だ。正規軍側は、母艦を破壊されている。この時点でかなりの動揺が兵士たちにはあり、士気の低下を招いていた。
一方で、革命軍側からすれば、自分達の上空を抑えてくる厄介な敵の母艦が排除され、かつそれを行った乱入者が自分たちにとって味方であると証明されたのだ。これで士気が上がらないわけがない。
戦況は、一気に傾いていく。
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