惑星アルヴ
第82話 戦火
アッシュとシルルが惑星エアリアでトラブルに巻き込まれているころ、マコが操舵するソードフィッシュは惑星アルヴの空を飛んでいた。
惑星アルヴ。巨大樹木の生い茂る惑星であり、古い時代において人間の生活圏もそういった樹木の
無論、現代はちゃんと近代化し、スペースポートも存在するし、近代的な都市も存在している。
自然が多く残る惑星であり、この惑星特有の巨大樹木目当ての観光客も多い惑星――のはずなのだが。
「見る影もない、な」
巨大樹木があったであろう場所は黒に染まり、砕けて折れた大木。
その周囲に散らばる無数の兵器の骸。
『陸上艦にソリッドトルーパー……この高度からでもわかるのはそのくらいですかね』
「マジでドンパチやったんだ……」
『大気中に残存する成分を分析したところ、焼夷弾が使われた形跡があります』
「確かに、この惑星は可燃物が多いから効果絶大だろうさ。いや、それよりも」
行けども行けども、黒く焼けた大地が続く。
地図上では、本来ここには広大な巨大樹木の群生地があったはずだが、それが全て焼けて失われている。
残るのは、炭と灰と鉄屑だけ。
『どうしますか』
「どうって?」
『ボクが降りて詳細を調べるとか……』
「ああ、駄目駄目。ここが戦場なら対戦車用地雷が設置されてる可能性だってある。その爆発を受けたら、ソリッドトルーパーっだってタダじゃすまないよ」
明らかな戦闘の形跡。確かに残骸を調べれば、何らかの手掛かりを得られるかもしれない。
だがそれ以上に、不確定要素が多すぎてアニマ――アロンダイト単体での降下はリスクが大きすぎる。
何より、今はちゃんとした修理ができるシルルとは別行動をしているのだ。アニマが無事でも、戦力が失われるのは何も情報が得られていない現状では痛すぎる。
「とにかく今は情報だ。街のほうへ向かおう」
『待ってください』
アニマが艦のシステムに介入し、メインスクリーンの映像を切り替える。
『接近中の熱源確認。現在の速度を維持した場合、接触まであと5分』
「熱源?」
レーダーがキャッチした熱源と、ソードフィッシュの位置関係がメインスクリーンに表示され、外部カメラがその姿を捉えようと望遠率を上げる。
そこに映るのは白と黒で塗装された大気圏内用のジッパーヒット。
要するに、治安維持部隊の機体である。
だが、マコは違和感に顔をしかめる。
「アニマ、ちょっと航行ログ遡って、この燃えた森林地帯に入ったあたりから周辺に反応があったかを調べてくれない?」
『はい? ちょっと待ってください』
「多分、周囲に反応はないはずだよ。そしてあれは突然この場所に現れた」
『……はい』
「さて、この状況で考えられる事は?」
本当に治安維持部隊であったとするのならば、戦火で焼かれた大地にやってくるとして、母艦なりなんなりがあって当然だろう。
何せどこに敵対勢力が隠れているかわからないのだ。単独行動なんてするわけがない。
何より、飛んでいるのがジッパーヒットという違和感。
あの機体は本来空間戦闘用の機体であり、大出力の推進装置を搭載しているからこそ小改造で大気圏内でも飛行可能な機体だ。
が、しかし。大気圏内においてソリッドトルーパーを飛行させ、かつそれ相応の速度を出そうとすると――それ用の燃料を大量に消耗する。
つまり、ジッパーヒットの航続距離は短い。
少なくとも、艦船のレーダー範囲外から単独で接近することができるほどの速度を維持し続けることなど不可能に近い。
『もしかして、狙われてます?』
「可能性あり、かもね。アニマ、準備だけはしてて。撃ってきたら即座に応戦」
『わかりました』
まだ攻撃を仕掛けてくる様子はない。
だが、そのジッパーヒットの形状を見て、マコは確信する。
「強襲用ブースター装備ッ!」
最初から攻撃するつもりでの接近であると確信し、エンジン出力を上げて加速する。
直線加速能力だけならば宇宙最速レベルのソードフィッシュに、ジッパーヒットが追い付けるわけがない。
「そうだよ。よくよく考えればわかるじゃないか」
『マコさん?』
「本当に治安部隊の機体なら、こっちが気付いた時点で警告してくるはず。仮に、治安部隊の機体じゃないとしても偽装するつもりなら、そうする」
『つまり――』
「アレを使ってる相手は素人。それもかなり余裕がない人間ってこと」
どんどんジッパーヒットを突き放していくソードフィッシュ。
後部カメラではもうその姿を確認できず、レーダーに反応が見えるのみ。
「まずは近くの街に行こう。正規軍の情報もそうだけど、革命軍の情報も欲しい」
『でもどうやって集めるんですか? マコさん1人だけでは……』
「何言ってるのさ。アニマも来るんだよ」
『……はい?』
マコの言葉を理解できず、間の抜けた声がブリッジに木霊した。
その際首を傾げたアロンダイトの頭が格納庫の壁を小突いてしまったのか、艦が少しばかり揺れた。
◆
黒く焼けた巨大森林地帯の最寄りの街、ドラウ。その郊外に着陸したソードフィッシュの格納庫の片隅に置かれた縦長の箱をアロンダイト――アニマの前に運ぶマコ。
アニマは不思議そうにそれを見つめていた。
「アッシュとシルルがさ。現地調査に動ける人間がアタシだけだと大変だろう、ってことで義体を用意してくれたんだよ。それがこいつ。グランパ、開けて」
マコの指示を受け、オートマトンたちが箱を丁寧に開封してく。
そこにあるのは、生身の人間とほぼかわらない見た目の女性型の人形。
顔のつくりこそ、人間のものをデフォルメした、言ってみればアニメや漫画のキャラクターのような感じであるが、それ以外は服を着せれば人間とそう差はないように見える。
『これ、ボクにですか?』
「一応、護身用にいろんな機能が隠されているとは言ってたけど――まあ、そこは入ればわかるでしょ」
『これがあれば、皆さんと同じ目線で会話ができるんですね!』
「そういうこと、かな。あ、でも食事は駄目だからね。そういう機能はついてないんだから故障するよ」
『わかりました。では、早速』
そういうと、アロンダイトがしっかりとハンガーに固定される。
するとコクピット当たりから青白い光が抜け出し、それが人形のほうへ向かって伸びていき、その中に入り込んだ。
「アニマ……?」
マコの問いかけに、人形の目が見ひらかれた。
『はい。ボクはここにいます』
アニマの声にあわせて、人形の口が動いている。
完成度が高い、とマコが感心していると――左手首から刃が飛び出してきた。
「……」
『……』
2人して黙る。
そっと飛び出した刃を引っ込める。
「ははは。いや、うん。まさかとは思うけど、アニマ。一通り試してみてくれる?」
『は、はい。マニュアルもインストールされているみたいで……えっと』
右手の指がマシンキャノン、膝を折ればミサイルが顔を見せる。
「……え、あの2人はアニマに何をさせるつもりなの?」
『えーっと。護身用、だとマニュアルには書いてますね』
「護身用のミサイルとか聞いたことないんだけど」
『一応、マシンキャノン以外にもスタンガンとしての放電機能があるみたいです』
「できるだけそっちを使って。発砲は最終手段」
『もちろんです』
「で、あとの問題は――」
上から下まで、マコはアニマの新たな身体を観察する。
「服、だね」
『ですね』
そう。人形は人工皮膚を張っただけで、服を着ていなかった。
このままでは連れ歩くことはできないし、なんならアニマにも羞恥心というものがある。自分自身の本来の身体ではないとはいえ、裸を見られるのは快いものではない。
と、オートマトンたちが小さな箱を持ってくる。
「え、何これ」
『シルルさんからのプレゼント、だそうです。ボクに?』
オートマトンがアニマの前に箱を置く。
恐る恐るその箱に近づき、アニマが開封する。
『……』
瞬間。アニマが凍り付いた。
機械仕掛けの表情筋でそんな表情ができるのか、というくらいはっきりと凍り付いた顔。
あまりにも気になるので、マコが回り込んで箱の中身を確認する。
「……メイド服だこれ」
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