第70話 遺跡
怪物を撃破し、Gプレッシャーライフルとクラレント本体の
機体ステータスが表示される小さなモニターにはその
「通常推力がなけりゃもう死んでるな……」
その通常推力も、推進剤が無くなればそこまでだ。
「アッシュ、ヤツがいた島に降りよう。わかっているよね」
「ああ。直行する」
◆
怪物がいた島。エアリウム採掘が今なお行われているはずのその島は、不自然なほど静かで、採掘がおこなわれているとは到底思えなかった。
たしかに貨物運搬用のコンテナも存在しているが、それにしては数が多すぎる。
「この島、怪しいね」
「ああ。怪しすぎる」
確認のためにコンテナをひとつこじ開けて中を確認すれば、ノックルーマだったり、ウッゾタイプのパーツだとかがごろごろと出てくる。
完全に黒。
この島で何かが行われているのは間違いない。少なくとも、兵器の製造はやっているだろう。
――それにしては静かすぎる。
付近で戦闘が起きていたというのに、それに対する対応というのが一切見えてこない。
いや、もしかするとあの怪物に破壊されたエーテルマシンがその対応とやらだったのかもであるが。
だが、ここが兵器の製造工場だとして、こうやって堂々と侵入してきた相手になんのリアクションも起こさないというのもおかしい。
「全滅した、のかな?」
「だったら話は単純なんだがな」
手がかりになりそうなものは、目の前に広がる坑道への入り口くらいなもの。
人工的に補強された、全高20メートルほどのそれは、ソリッドトルーパーどころかエーテルマシンすら中で活動できるようにそう設計されているように見える。
「ここ、一応持ち主とかいるんじゃないのか」
「一応調べたさ。けど、所有者がわからなかった」
「わからなかった? お前がか?」
「というか、カレンデュラ王国以前の記録に遡ってもこの採掘島に関する情報が一切見つからない。そもそも、なんでここにあるのかすら定かではない」
「一切の記録がない島、か。まあここまでデカいものが突然現れて気付かない訳がないだろうし――」
アッシュはクラレントのコクピットに跳び乗る。中に入って調べるのならば、生身よりこっちのほうが安全だろう。
それにシルルも続いて、クラレントのコクピットへと入り込んでくる。
「いや、なんでこっちに乗ってるんだよ。モルガナはどうした」
「不完全なものを使うわけがないだろう。あれはまだまだ調整中だ」
「けどかなり狭いんだけど」
「我慢してくれ。それに、役得だろう」
と、挑発して見せるが、アッシュはため息で返した。
「とにかく、行くぞ」
「まったく……少しは女の色香というものをだな」
「そんなの気にしてたらキャリバーンでやってけねーよ」
などと言いながらどうにかハッチを閉じ、クラレントはゆっくりとした歩みで坑道の奥へと進んでいく。
整備されていたのは入り口だけではない。
中も外見からはわからないが、きちんと近代的な改造が徹底されている。
道の端には中からコンテナを運び出すためのレールが設置され、そのレールに通う電気はまだ生きている。
つまりこの施設そのものは今も稼働中か、まだ稼働させることができる状態であるということだ。
「アッシュ、アレを」
「これは……」
モニターを指すシルルの指の先へ視線を向けると、コンテナが通ったにしては不自然な高さに何かが擦りつけたような痕跡が残っている。それも、向かって左側と天井に。
「エーテルマシンならまず間違いなくこんな場所で飛行しようとは思わないだろうね。すこし跳ねただけでも頭打つだろうし」
「ソリッドトルーパーでも、天井に擦り付けるような飛び方するヤツはいねえな」
擦った跡を追いかけ、クラレントは入り組んだ道を進んでいく。
と、今度は明白に戦闘の痕跡を見つけた。
具体的には壁にめり込んだウッゾタイプの残骸や、強い力によって生み出されたであろう四方八方のクレーター。
そして高熱で壁や地面に焼き付つけられた残骸。
「……なあ、シルル。これって」
「ああ。間違いない。あの怪物は、この奥から出てきたものだ」
ビーム兵器を使ったにしては不自然なほどに原型の残った残骸。ビームの威力が低かったという可能性もなくはないが、それを否定するのが壁や地面にできたクレーター。
その陥没具合からして、ソリッドトルーパーの仕業ではない。
通路を破壊する手段はいくらでもある。それこそ爆発物を使ったり、高出力のビームを使うなど。
だが、完全に破壊するのではなく陥没させるとなると話は別だ。
「……あの右腕だろうか」
「かもな」
「攻撃力は大したことがない――というわけじゃあないんだろうね」
通路は、狭い。
あの大きな腕は腕を拳を突き出すよりも、遠心力を使って振り回すほうが威力を出しやすいはずだ。
実際キャリバーン号のブリッジが狙われたとき、あの巨大な腕はハンマーのように振り下ろされていた。
だが、ここはそれができない。腕を振り上げれば天井に当たってしまう。
「フルパワーを出し切れない状態で、コレか」
的確に操縦席のある胸部だけを潰されたウッゾを見ながら、シルルはあの怪物の力に戦慄する。
「進むぞ」
「ああ……」
しばらく進む。奥へ奥へ。その間もいたるところにソリッドトルーパーのものと思われるパーツが散らばり、クレーターや焼け焦げた跡などが散見された。
激しい戦闘の痕跡が道しるべのように続いていたが、それがぱたりとなくなる。
代わりに、急に通路が暗くなり、その先から明滅する光が漏れ出ている。
そこが目的地だろう、とクラレントは速度を上げる。
「ずいぶんと浅い場所だが……」
「けど、アイツが出てきたのはあそこからだ。調べてみる価値はあるさ」
「ああ」
暗い通路を一気に抜けて、光の差し込んできた場所へとたどり着く。
そこは、異様なまでに開けた空間であった。
ただし、下方向に。
「なんだ、これは……」
螺旋状に下っていく階段状のもの。壁一面を覆いつくす壁画。
端的に言えばこの場所は遺跡だ。
「これは、遺跡か……?」
「アッシュ、エアリアの遺跡はね。こんなものじゃないんだ」
「どういうことだ」
「エアリアでいう遺跡というのはね、地球文明の遺産なんだ。地球文明が最も栄えていた時期にこの惑星にやってきた人たちの研究施設。それが、エアリアの遺跡だ」
「つまり……」
周囲を見渡しながら、壁やその質感などを確かめる。
どうみても、恒星間航行ができるほど科学技術が発展した文明の研究施設だった、とは思えない。
もっと古い時代のもの。少なくとも、壁画の塗料とその材質の劣化具合からとてもエアリアに人が移住してきた後から描かれたものだとは思えない。
クラレントのセンサーを使ったスキャニングでも正確な年代は出せないものの相当古いものであることは間違いない。
「これが始祖種族の遺した遺跡だとしたら、世紀の大発見――なんだろうが、そうも喜んでいられないね」
「ああ。蛇が絡んでるならなおさらな。降りるぞ」
今はクラレントに乗っているのだ。わざわざ降りて人間用に用意されている階段を降りていく必要はない。
中央部まで進み、スラスターの出力を調整してゆっくりと降りていく。
と、すぐにクラレントのセンサーが異変を察知した。
「高濃度のプラズマクラウド?! なんでこんなところで……」
宇宙空間に存在しているプラズマベルトと同質もの。それが大穴の中心には充満していた。
が、クラレントにとってはそれは大した問題ではない。
キャリバーン号がプラズマベルト内でも航行可能なように、クラレントもまたプラズマベルトの中でも活動できるようになっている。
いくつもの放電現象が起き、クラレントを打ち付けるもそれを意に介することなく、クラレントは高度を下げる。
「おい、シルル。アレは……」
「……ああ。ビンゴだ」
プラズマクラウドを抜け、2人が目にしたのは広大な広間。
その壁面すべてがカプセルのようなもので埋め尽くされており、そのうちの1つが内側から破壊されていた。
「あの怪物は、ここから出て、あのプラズマクラウドを突っ切って外に出たんだ……」
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