第67話 ファースト・コンタクト
エアリウム、という鉱石が惑星エアリアでは採取できる。
これは空に浮かぶエアリアの大地にとってはなくてはならない鉱石であり、エーテルと反応することで浮力を与える効果がある。
周辺の岩石=大地の重さがエアリウムの発生させる浮力のバランスにより、この惑星の大地の高度が決定されていると言っていいし、エアリウムが陸地を浮かせることができなくなればその島や大陸は、雲より高い位置にある場所から真っ逆さまに落ちていくことになる。
しかしエアリウムは発電機やこの惑星独自の機動兵器であるエーテルマシンのフレームや装甲、果てはどの家庭にもあるコンロなど、用途は多岐にわたる為、エアリアの生活に欠かせない鉱石であり、採掘しないわけにもいかない。
そのために、人間が定住するには小さすぎる陸地はほぼすべてエアリウム採掘に使われている。
中には――特別な理由で保護されている島もあるが。
「資源採掘用の島っていうけどかなりの数があるな」
カレンデュラ王国の近辺だけでも10や20できかない。
それらすべてがカレンデュラ王国の勢力圏内というのだから、この国の国力の高さは相当なものだ。
「まあ、あの国はこの惑星においても特異な国でね。他の国みたく自然の大地じゃあないんだ」
「……ギガフロート、とはまた違うだろうが。そういうことか」
「首都であるこのカレンデュラはね。それとは別に離れた場所にオウカ大陸とウィスタリア大陸。2つの大陸を国土としている大国さ」
「なんでその大陸を首都をおかないんだ」
「ちょっと事情が複雑でねえ。カレンデュラ王国の初代女王はね、2つの大国の王と女王の隠し子だったのさ」
「はあっ!?」
「で、2人が退位するとなった時に、王位継承権を持っていたのが――」
「カレンデュラ王国初代女王となる女性だった、というわけか」
「で、いっそのこともう2つの国も一緒にしちゃえば、と――」
「言いたくないけど、当時の王族どっちもバカしかいなかったのか?」
ノリと勢いだけで行動しているようにしか思えない建国理由で、アッシュは呆れかえる。
「っと、見えてきた。一番怪しい採掘島だ。できればエアリウムも回収したいね」
「ん? エアリウムを?」
「モルガナ用のものじゃないよ。私用のだ」
「……それは魔法の触媒か?」
「そう。ゲームみたいな属性でいうならばレイスダイトは地属性の触媒に適し、エアリウムは万能寄りだが、風属性に優れている」
「んじゃあと火と水か」
「四大元素を知っているのか。クク……君、子供のころ結構アレな言動してただろう」
「ノーコメントだ。っと、なんだこの反応」
何かが動いているのは間違いない。だが、熱源としての反応が弱い。
「エーテルマシンが出てる……? 何があったんだ」
「エーテルマシンっていうと……」
「詳しい説明はしてなかったか。この惑星独自の機動兵器だ。そしてエネルギー源は大気中の
「そいつはすごいな……でもそんなすごいものがなんでこの惑星独自の機体になってるんだ」
「重大な欠点があるからさ。っと、そろそろ見えるよ」
キャリバーン号の進行方向と重なるエーテルマシンの反応。
動きから見て、明らかに戦闘しているようであるが――急にその動きが見えなくなった。
そのタイミングで、キャリバーン号の望遠カメラが戦闘の起きた空域をズームアップする。
瞬間。
アッシュとシルルは驚愕のあまりに立ち上がり、メインスクリーンに映し出されたものに言葉を失った。
「なんだ、アレは……!」
数秒ほどの沈黙の後、先に言葉を発したのはシルル。
それでもまだ動揺は隠せない。
何せ、映し出されたそれは明らかに生物であったからだ。
左手で頭を掴んでいるエーテルマシンの成れの果てと比較してもほとんど大きさが変わらない。
それと比較するならば、15メートルから18メートルといったところだろう。
そのエーテルマシンも、装甲がほとんど破壊されつくしておりフレームがむき出し。かろうじて人の形を保っているような状態であり、潰れた胸部は内側から赤黒いものが漏れ出し、ひしゃげた装甲を濡らしている。
「シルル、アレは……」
「わからない。エアリアには、あんな生物なんて存在しない!」
人型に近いフォルムをした生物であった。
特徴といえば、3つの目が連なった頭部には角があり、右腕が左腕に対して異様に大きいことと、尻尾を持つ事だろう。
翼もなく宙に浮き、退屈そうに長い尾をくねらせる。
と、その尻尾の動きが止まり、3つの目がそれぞれ別の方向を見渡し――一斉に同じ方向を向いて瞳孔を大きくさせた。
「ッ!? 嘘だろ、アイツ――望遠距離のキャリバーンを見てやがる」
「ありえない。いくらキャリバーンが大きいとはいえ、兵器なんかならともかく、生物がこの距離の物体を視認できるなんて!」
ゆっくりと、怪物がこちらを向く。
掴んでいた残骸を放り捨てると、右腕を突き出して4本の指を広げる。
指と指の間にエネルギーを溜めはじめる。
『警告。超高出力のエネルギーを確認。直撃した場合の被害予想を表示します』
「んなもんいい! あれがヤバいのはわかる!! シルル!」
「もうやってる!」
システム音声にキレるアッシュ。
シルルも即座に対応を始め、シールドジェネレーターの出力を上げ、正面に集中させる。
直後。怪物の指の間に集められていたエネルギーが解放され、キャリバーン号へと迫る。
「シールド出力最大!!」
シールドを直撃するエネルギーの塊。
はじけるエネルギーの放つ閃光が視界を奪う。
「アッシュ! クラレント出撃だ!」
「だが……」
「いまの一撃でシールドジェネレーターがダウンした。次の攻撃には耐えられない。
「ッ!?」
「重力下で活動する艦艇のほぼすべてに
「……ああ!」
即座にシートのレバーを引いてアッシュはクラレントのところへ向かう。
「間に合ってくれよ、アッシュ」
怪物が手を下げて首をぐるりと回す。肩を鳴らすように首を左右に傾けてからゆっくりと滑るような動きでキャリバーン号に向かって進み始めた。
が、その速度は徐々に加速していきあっという間にキャリバーン号の眼前にまで迫る。
「ッ!?」
振り上げられる巨大な右腕。明確な殺意をもって振り下ろされる拳がブリッジへと迫る。
それを、真下から突き上げる機体。クラレントである。
重力ベクトルを操作することによって発生する強烈な衝撃が巨大な腕の重量を押し退け、怪物をのけぞらせる。
続けざまにハンドビームガンによる追撃。生物ならばビームの直撃に耐えられるはずがないのだが――被弾したはずの体表は少しだけ焼けたような跡がつくだけで大したダメージになっていない。
『嘘だろ!?』
「アッシュ、撤退だ!! ワープドライブを使う!!」
『ここでか!?』
「四の五の言っている場合じゃない。アイツが体勢を立て直す前に合流してくれ!」
『……了解』
ハンドビームガンを連射し、怪物を怯ませながらキャリバーン号の発着デッキへと着地するクラレント。
それを確認するなりシルルはワープドライブを起動させる。
本来は宇宙空間で使用するための機能であり、大気圏内での使用は周辺への影響を考えて推奨されない行為である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます