幕間
幕間 アニマの艦内探索
ボクの名前はアニマ・アストラル。
ワンマンシップの戦艦キャリバーン号の新しいメンバーであり、惑星レイスでかつて栄えた先住レイス人で唯一自我を保ったまま現代まで存在し続けたアストラル体である。
アストラル体が何かと言われると、幽霊に似て非なるもの、と説明するのが1番イメージしやすいんじゃないか、と思う。
さて、ボクの身体は存在せず、用意された依代に憑依することで安定している。
問題は、約8メートルもあるソリッドトルーパーが依代として提供されているものだから、ほとんど身動きが取れないことだ。
だから、ボクと一緒に合流した
◆
まず向かったのは、食堂。
ここにはいつも誰かしらいるらしい。
と、いうのもここには作り置された焼き菓子の入ったボックスが常備されていて、小腹がすいたタイミングで誰かがふらっとやって来る。
実際、シルルさんが携帯端末を触りながらお菓子ボックスを漁ってはクッキーを口へ運んでいる。
と、厨房の方から出てきたベルさんがそれを見つけて怒り出す。
そう言えば、キャリバーン号ではよほどの事がない限りは決まった時間に食事をとる事になっているとアッシュさんが言っていたっけ。
あ、そうか。夕飯の時間に近すぎるから怒られてるのか。
……子供かな?
彼女は今キャリバーン号が向かっている惑星エアリアの出身で、ボクと同等かそれ以上の年齢だったはずだけど、もうご飯前にお菓子を食べて母親に叱られる子供にしか見えない。
とりあえず、次の場所にいこう。
◆
次に向かったのはブリッジ。
こっちも誰か1人は必ず待機している。
有事の際にいるのと居ないのとでは初期対応の展開速度が違うとか何とか。
今ブリッジにいるのは……マリーさんだけだ。
惑星ラウンドのお姫様らしいけど、細かいことは気にしないようにしよう。
何か複雑な事情があるんだろう。そういうのは深堀しないことが、円満な人間関係に繋がる、と思う。
で、そのマリーさんは、コンソールを見ながら何かをしている。
今の位置からはよく見えないけれど、1つだけわかる事がある。
このコも、クッキー食べてる。
ベルさんに見つかれば大目玉間違いないだろう。
とはいえ、やることはやっているようだから、ボクは出来るだけ音を立てず次の場所へ向かう。
◆
広い艦内を歩き回り、たどり着いたのはトレーニングルーム。
ここに入るなり、激しい音を聞く事になる。
床をしっかり踏み、全身の力で放つ拳をマコさん。
それを払う動作からの流れで裏拳を放つアッシュさん。
マコさんは顔面に迫る裏拳を自由な左腕を手首に押し当てて防ぐ――が、そのタイミングでアッシュさんの足払いが綺麗に決まって転倒。
追撃の蹴りが脇腹に当たる寸前で止められる。
所謂スパーリングと言うやつだろう。
参った、とマコさんが両手をあげ、アッシュさんも構えをとく。
2人とも決め手となる蹴りの手前まで本気で相手を倒そうとしていただけあり汗だくで、ボクがやってくる前から長い間やり合っていたんだろうと察する事ができた。
流石に汗をかき過ぎている、とボトルに入れたスポーツドリンクで水分と塩分を補給し……マコさんはついでにクッキーで糖分まで補給し始めた。
それを見ていたアッシュさんは、壁に掛けられた時計を確認し、辞めるように促しているけど……時すでに遅し、だ。
スポーツドリンクを飲んだ上でお菓子まで食べて、夕飯が入るとは思えない。
◆
「どうしました、皆さん。あまり食が進んでないようですけど」
「悪いな、ベル。さっきマコとスパやって水分補給にスポドリ飲んじまった」
「ああ、確かにそれはお腹に溜まりますね」
「まあ、ちゃんと食べるから安心しろ。俺はな」
「「「ははは……」」」
「そこの3人はどうなんです?」
「私は常に脳へ大量のブドウ糖を補給する必要があってだね……」
「わたくしはダイエットを……」
「運動したばっかりで食欲が……」
「アニマさん」
『その3人、クッキー食べてました』
「「「ちょっ?!」」」
「ご飯直前にお菓子を食べないようにとあれ程言ったでしょう!?」
「「「すいませんでした!!」」」
「しばらくの間、覚悟しておいて下さいね」
「アニマ。覚えておけよ」
『何をしょう、アッシュさん』
「
『なるほど。実に分かりやすい状況ですね』
その後、夕飯前に間食をした3人は1週間ほどの間食事の量とグレードが落ち、代わりにアッシュさんとベルさんの食事のグレードが上がったというオチで、今回の艦内探索に関する話は終わりだ。
……元の食事レベルに戻したあたりから、ベルさんが体重計に乗る回数が増えたのは、深く追求しない方がいいかもしれないし。
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