第53話 抵抗

 軌道エレベーターへの侵攻は一時的ではあるが、左側のイオンクラフトエンジンが機能不全を起こした為、止まっている。

 逆に言えばイオンクラフトエンジンの調整が終われば、最初よりはスローペースになるだろうが再度侵攻が始まる。


 だから。攻めきるのならば、今だ。


「クラレント、パージ! フロレント出撃!!

 マリーの指示と共に真上に陣取ったキャリバーン号の艦首からクラレントが切り離され、後部ハッチからはフロレントが飛び出す。

 2機がタイラント・レジーナの上に取り付き、フロレントが手に持ったシールドを投げてよこす。

 即座にそれを左手で受け取り構える。


 途端、2機のソリッドトルーパーめがけて無数のマリス・ギニョルが群がろうと集まってくる。

 が、しかしである。

 所詮は人間サイズの戦闘兵器。出力ではソリッドトルーパーに勝てる訳もない。


 フロレントが十字型ブレードを振り回すだけでいとも簡単に胴体を失い、クラレントのハンドビームガンの直撃を受ければ蒸発する。

 ただの体当たりだけでも、マリス・ギニョルにとっては脅威である。


 だというのに、それらはクラレントとフロレントを排除せんと殺到する。

 加えて、タイラント・レジーナ自身の武装が2機とキャリバーン号を狙う。

 ミサイルが飛び交い、ビーム砲が閃光を放ち、機関砲が弾丸を吐き出す。


「散開!」


 足元に絡みつく人型を振り払いながら、クラレントは空中に、フロレントは後方に避ける。

 直後、先ほどまで2機がいた場所をビームが直撃。タイラント・レジーナ本体そのものはコーティングによって守られている為、そういった攻撃を行っても無傷である。


「やっぱアレを潰さないと駄目か!」


 アッシュたちの視線の先。この巨体の先頭に取り付けられた、人型の上半身。

 タイラント・レックスと同様の機体であるとするならば、あの部分の頭部にこの巨体を制御するすべてが、生体制御装置が詰まっているはずだ。

 この機体の図体からして、たった8メートル前後の大きさしかないソリッドトルーパーの装備で破壊しつくすのは現実的ではない。

 キャリバーン号による援護も、タイラント・レジーナの抵抗が激しくなったことで今後は期待できない。

 あとはアロンダイト――アニマであるが、今回が初陣である以上的確な判断というのは期待できないだろう。


「どうします、これ」

「中から潰す。そっちのほうが頭のアレ潰すより手っ取り早い」

「ならわたしが行きます。クラレントだと、かさばりそうですから」

「……頼む」


 フロレントは、先ほどアロンダイトからの攻撃を受けて吹き飛んだ場所へと向かい、機体内部に侵入した。

 そうなると、外にいる機体はクラレントだけになり、ヘイトが集中する。


 ぐりん、と。タイラント・レジーナの背に乗っているすべてのマリス・ギニョルの頭が一斉にクラレントを凝視する。

 それと共に、キャリバーン号への攻撃を行っていないすべてのビーム砲と機関砲も、照準をクラレントに合わせる。


「あっ、やっべこれ」


 思考を加速させ、瞬時に周囲の状況を確認する。

 攻撃態勢に入ったビーム砲の位置と、自分の武器の射程。ビームシールドの出力のチェックを行うと、即座に行動を起こす。


 クラレントは高度を下げつつ後退。着地してもなお後退を続け、反身を反らして後方を確認。そこにビーム砲があることを確認し、ハンドビームガンで攻撃。発射されるまえに1つ潰す。

 続いて機関砲の攻撃を、ビームシールドを突き出して防ぐ。

 実体シールドの表面に張られたビームの膜。それが受けた弾丸を瞬時に融解させ攻撃を無効化する。

 馬鹿正直に機械まかせな照準合わせをしてくれる相手だからこそできたこと。殺到する弾丸はそのすべてがビームシールドに吸い込まれるように飛んできていた。


 続けてビーム砲の攻撃。それに対しては、重力制御機構による重力場をあらかじめ展開しておくことでその攻撃の進行方向を捻じ曲げて明後日の方向へと逃がす。

 が、その逃がした方向が少々まずかった。


「バカ! そっちは街だ!!」


 といってももう遅い。重力場によって曲がったビームは、街のほうめがけて飛んでいく。

 そして、着弾。幸い街そのもに当たったわけではなく、その前の地面に命中したらしい。しかも、距離もそれなりに離れている為威力はかなり減衰していたというのも不幸中の幸いと言えるだろう。


「戦ってる最中にそこまで考えられるかよ!」

「アッシュもマコも喧嘩なら後だ。もっと派手に暴れて、外にいる私達がアイツにとっての驚異であると認識させることだ。アニマ。君も並走しながら攻撃し続けてくれ!」

「できればイオンクラフトエンジンを破壊してください。そうすることで機体のバランスも崩れます!」

『わかりました』


 離れた位置からロングレンジビームライフルで攻撃を続けているアロンダイトが、自身を守っていた煙幕を突っ切って姿を現し、ビームライフルを連射しながら巨体へと向かっていく。

 一見すれば滅茶苦茶な攻撃のように見えるが、ロングレンジビームライフルというのは長距離までビームを減衰させることなく届けることできる高出力のビームライフルである。

 言ってみれば普通のビームライフルを撃ちあうような距離でも十分に使える武器であり、その場合――その威力は桁違いに上がる。

 当然の事だ。長距離まで届かせるために威力減衰を考慮しての高出力。それをそれそれ以下の距離で使えば、減衰するはずのエネルギーがそのまま破壊力に変わる。


「シルル、中の様子はわかるか?」

「一応はトレースできてる。彼女、派手に動き回ってるけど――肝心なところにはたどり着けていないみたいだ」

「となると――」

「中は、外以上の修羅場だと見たね」

『なら、より派手に動かないとですね』


 アロンダイトがマルチプルランチャーからグレネード弾を発射し、それを機体下部にあるイオンクラフトエンジンの付近に命中させる。

 とはいえ分厚い装甲版に阻まれているため、直撃ではないし、少々影響を与えた程度だろう。


 その攻撃にあわせてキャリバーン号からミサイルが発射され、それが巨体の先頭部分にある人型の上半身めがけて殺到する。


 と、背後からの攻撃であるにも関わらず、その上半身はぐるんと反転し、両腕を構えるとそこから拡散する閃光を放った。


「拡散ビーム砲!?」


 流石のマコもそれには驚き、キャリバーン号の高度を上げつつ後退。

 照射中はランダムな方向へと延びる閃光によって放ったミサイルはすべて迎撃され、いくつかの閃光はそのままキャリバーン号とクラレント、そしてアロンダイトにまで襲い掛かる。


 シールドを展開できるキャリバーン号にとっては大した問題ではない。

 問題なのは、照射されている間は光の筋となって射線がわかりやすいが、発射された瞬間にその射線上にいれば即アウトなクラレントとアロンダイトである。

 通常のビーム砲やビームライフル等ならばその砲口や銃口の向いている方向にしかビームが飛ばない。

 だが、拡散ビーム砲は違う。照射方向をある程度は操作できるが、目的が広範囲制圧であるため、わざわざ狙う必要もなく、文字通りビームをばら撒く。

 そうなると、攻撃の先読みを行って回避する、ということが難しくなり、戦場においては最強の兵器のひとつとして数えられている。


「おまけに自分の撃ったビームでは自分は傷つかない、と」

「代わりにマリス・ギニョルは蒸発して数が減っているようですが。アッシュさん、アレを止めることは――」

「流石にアレに突っ込む勇気はないぞ……」


 マリーにそう答えるアッシュ。

 実際、生体制御装置を破壊するか取り出してしまえばそれだけでこのバケモノは止まる。

 だが、それが困難を極める以上、外にいるアッシュたちは中に突入したベルに賭けるしかないのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る