第48話 魔法
坑道を進む3人。規則正しく並ぶ照明と、代わり映えのしない光景に時間間隔を失いそうで、ベルが時折腕時計を確認している。
鉱山に入ってから約30分。ようやく分岐点に到着する。
ほぼほぼ一直線に伸びる坑道で、電源ケーブルの伸びていないの分岐路を探すだけだったとはいえ、景色が変わらなさ過ぎてどうにかなりそうになっていた頃のことであった。
「これでたった30分とかマジか……」
「もっと長い間歩いている気がするね」
マイペースなシルルであるが、さすがに代わり映えのしない光景に参っていたようである。
だが、ここから先は今までと違ってより気を張って進む必要がある。
「全員、準備はいいかい?」
「勿論」
ここから進む道には照明らしい照明はない。
暗い坑道を進むというのはなかなかに難易度の高いことである。
加えて、この先にはアッシュたちにとっての敵がいる可能性が極めて高い。
だから照明なんてものをこちらで用意する訳にはいかない――なんてことはない。
これが隠密行動ならともかく、こちらは正々堂々正面きって突っ込んでいってる。
相手が拠点を構えているのならば、すでに侵入してきていることに気付いているはずだ。
だから――アッシュとベルは武器を構えた。
「それじゃあ、いこうか」
と、シルルが指で空中に何かを描く。
すると、光の球体が3人の前に出現し、周囲を照らす。
それを見て、アッシュとベルは硬直した。
――今、何をしたんだ?
と、困惑した視線をシルルに向ける。
「さっき言ったじゃないか。レイスダイトのもうひとつの特性があるって。それが、これさ」
「これさ、じゃねえよ!」
「なんですかこれ。手品ですか!?」
「いいや? そんなチャチなもんじゃあないさ。ごく当たり前の技術体系のひとつ。ちゃんとした理論もあるし、素質さえあれば誰だって使えるものだよ。尤も、大抵の惑星では存在しない、私の母星であるエアリアですら衰退しつつある技術。それが、魔法」
そういうと、ポケットの中のレイスダイトを取り出して2人に見せる。
「こいつはね、私達エアリア人にとっては魔法の効率を各段に上げてくれる触媒になるんだよ」
「……エアリア人だったのかお前」
「そうだけど? 言ってなかったかな」
「聞いてねえよ……通りで、クレストの設計に携わったとか言ってるわけだわ」
「エアリア人って確か――」
「そ。これでも軽く1000年は生きてるからねぇ」
くっくっく、と笑うシルル。
アッシュとベルは突然聞かされた彼女の出自にただ茫然とするだけである。
それはそうと、である。
「魔法ってなんだよ」
「その説明は――後でいいだろう? 早速お出迎えが来たよ。さすがにここで騒ぎすぎたね」
ガシャガシャと音を立てながらいくつもの金属の足音が迫る。
戦闘用オートマトン。それもこの鉱山に対応し、銃を一切装備していない近接戦闘特化タイプ。
視界に入った瞬間、ベルは短い悲鳴を上げた。
「ちょっとアレっぽいね、ほら。えーっとゴキブリ」
「言わないでください!」
「やっぱそう見えたんだな」
アッシュがEMPグレネードを投げる。
それに反応し、オートマトンたちがぴたりと足を止め投げられたものを注視する。
危険物かどうかの判断なら即座に行われる。だが、そのEMPグレネードはアッシュお手製。それらのデータベースに合致するものなど、ありはしない。
ようは、ラウンドの衛星工廠でやったのと同じ現象である。
当然、その結果も同じ。
炸裂したグレネードの発生させた電磁パルスがオートマトンの中を焼き、機能を停止させる。
とはいえ、自己修復機能があれば時間が経てば復活する。
なので――ここで徹底的に破壊しておく。
「この距離なら外さないからな」
アッシュがエーテルガンを振り回し、オートマトンを叩き壊す。
ベルは細い針を取り出し、装甲の隙間にそれを突き刺して内部を破壊。
シルルも、地面から生やした槍でオートマトンを貫き、仮に再起動したとしても身動きがとれないような状態にした。
「魔法って何でもできるの……?」
「何でもはできないさ。やろうとしても、こっちが付いていかない」
指で頭を軽くたたきつつ、シルルは笑う。
「魔法というのは、エーテルへの干渉技術。出力される超常現象を導くために、常人ならば廃人になってもおかしくないくらいに脳への負荷がかかる。だから、魔法は廃れたのさ」
「じゃあシルルさんはどうしてそれを使えるんですか?」
「決まってるじゃあないか。それだけ、脳の処理能力が高いってことさ」
「なるほどな。普段からマルチタスクやりまくってる理由が分かった気がするわ」
「あと、レイスダイトみたいな触媒があると、より効率が良くなる」
軽口はその程度で終え、3人はさらに奥へと歩みを進める。
オートマトンが出てきた、ということは間違いなく黒。疑う余地はなくなり、攻め入る理由だけが残る。
走る3人。それを迎え撃つために、後続のオートマトンが現れるが、それらはシルルが地面に手をついた直後に地面が変化した槍に貫かれ、そのまま天井に貼り付けになった。
「あんまり派手な動きをさせないでくれ。そっちだって生き埋めになりたくないだろうに」
銃を使えばなんてことはない敵。
だが銃を使えば、そのわずかな衝撃で坑道が崩壊する危険性すらある場所で、そんなものを使うわけがない。
とはいえ、いざとなれば遠慮なく使うつもりではいるが。
「見えてきたよ」
オートマトンをどれだけ排除したのか数えるのが面倒になってきたころ。シルルが照明を消す。それでもなお前方は若干明るく、目当ての施設がそこにあると知らせてくれている。
もちろん、あちら側からすれば不本意であろうが。
「さて、ちょっと行ってくる!」
アッシュが先陣を切って突撃する。
やや遅れてその後ろにベルとシルルが続く。
「なんだお前等は! オートマトンは何を――」
「言ってる場合か! 撃て!!」
ゲート前に待機している警備員が銃を構える。
無論、火薬を使うような銃ではない。減衰率の極めて高い短距離用のレーザー銃である。
放たれたレーザーは一切アッシュに当たることはない。
当然といえば当然。相手はアッシュを狙ってから引鉄を引いている。だが、アッシュはその銃口が自分の方を向いた瞬間に回避行動に移り、攻撃が当たらない絶妙なコースを選んで走っている。
無論、警備員はそれに気づいていない。ただ、撃てば確実に当たるとまで言われるレーザー銃が当たらないということに困惑し、攻撃が雑になり始める。
「ったぶねえ!?」
尤も。アッシュにとってはそっちのほうが当たってしまいそうになる。
狼狽してブレる射線。想定外の場所にとんでくる即死級の一撃。流石にこれ以上はアッシュ1人だけではどうしようもない。
だが、アッシュは1人ではない。アッシュの動きにばかり注視していると背後から迫る2つの影に気付けない。
「うっ……」
「ごっ……」
警備員が2人同時に倒れる。1人はベルの投げた針を喉元に受けて絶命。もう1人はシルルが魔法で地面から出現させた円柱に胸を突かれて気絶――とはいえ、そのように見えるだけでかなりの勢いで飛び出したので胸骨や肋骨は折れているかもだが。
警備員を排除し、施設の入り口を開く。
当然、諸々の作業がシルルの担当である。鼻歌混じりにキーボードを操作し、ゲートの解除ついでにいろいろと施設内の情報を抜き出す。
そして、不敵に笑う。
「いい知らせだ。中ではドンパチし放題。中の衝撃が外に伝わらないようにできている。だがこれは同時に悪い知らせでもある」
「ドンパチしても外に衝撃が伝わらないように、ってことは――」
「内側で何かあるかもしれない施設ってことさ。覚悟しろよ。それじゃあ早速――」
開いたゲートにめがけてエーテルガンを構えて最大出力で発射する。
「「うごぁっ!?」」
待ち構えていた武装警備員たちが、訳も分からないまま吹っ飛ばされる。
「カチコミ、いってみようか」
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