第47話 ムラ鉱山
ムラ鉱山。鉄鉱石やアルミニウムを多く抱えたそこは、ほぼ毎日昔ながらの人力での採掘がおこなわれている。
理由としては、大型の機械を使った採掘では坑道が崩れてしまう可能性があるからである。
早い話が、岩盤が
周囲の状況に注意を払いながら、人間が手作業で採掘する必要のある鉱山など、普通ならばそこまで価値はない。
何より鉄やアルミなら、他の惑星にも存在するし、なんならそこらの小惑星を掘ればいい。
だがそこまでして、この鉱山に拘る理由は、貴重な鉱石であるレイスダイトが採掘できるからである。
このレイスダイトは加工しやすく、比較的高温で超電導を実現できる物質であり、軍事や民間問わず様々な用途への利用が可能な鉱石である。
しかし、惑星レイスでしか産出されず、かつそれが採取できる鉱山も少ない、レアメタル中のレアメタル。
そんな鉱石が採取できる鉱山なら、たとえ手間がかかる手掘りだとしても、採取できればおつりでマンションくらい建てれるだろう。
「で、そんな鉱山なわけだが……アッシュ。そのあたりは情報を掴んでると言っていたけど?」
「ああ。既存の坑道から外れた道に行ったヤツが全員行方不明になってるって聞いてる。つまりは――」
「その外れた道っていうのに何かある、ということか」
「アニマ。お前何かしらないか?」
『必至になって逃げていたので、ゲゲルの地下施設と鉱山が繋がっているくらいしか……』
十分な情報である。
行方不明事件と地下施設。これで何者かの悪意が存在することだけは確実になった。
「しかし、オルカ団の運んだモノを追ってきたら妙な事になりましたね」
『オルカ団……? ベルさん、それはいつの事ですか?』
「ん? わたしたちがアルカディア・オアシスを出てからレイスに降下するまでが約1週間くらいで……それよりも少し前だから」
「大体2週間だな」
『2週間……アストラル体が奴等に捕らえられだしたのも、そのあたりです』
「うわ、真っ黒じゃんそれ」
疑いようがない事象の連鎖に、シルルが苦笑する。
だが、それだと少しばかり奇妙な話になる。
アッシュたちは、オルカ団の運んだ物資は生体制御装置であると思い込んでいた。
だが実際には、アストラル体を捕まえる為のなんらかの装置であった可能性が高い。
偽の情報を掴まされたか、と一瞬頭をよぎるが――そうであったとしてもオルカ団の連中は無関係であろう。
「……わからん。とにかく、鉱山に入って知らべればわかることだ。メンバーは俺、ベルは確定として――」
操舵席にシートベルトで固定されてはいるが、全身に力が入っていないマコに視線が集まる。
これは使い物にならない。
「戦力は少なくて、強い方が良かったんだが……」
「なら私がいこう。いざとなったら流石にマコも覚醒するだろうし、マリーの護衛としてもそれなりに鍛えている。何より、私の真の実力を見せる機会もあるかもしれないしねえ」
ククク、と不敵に笑うシルル。
実際、彼女については少々謎が多いとアッシュは感じていた。
現状一番の謎はその年齢なのだが。
「それじゃあマリー。キャリバーンは任せたぞ」
「はい!」
『ボクはどうすればいいのでしょうか?』
「お前さんは、万が一キャリバーン号が攻撃を受けたら、フロレント2号――こいつまだ名前ついてないのか」
「あ、なら今決めよう。そうだな……クラレント、フロレントと剣の名前が続いているから、これも剣の名前にしようか」
「ならアロンダイトにしましょう」
『アロンダイト、ですか』
「そのアロンダイトで敵の迎撃をしてくれ。勿論倒さなくていい。相手の注意をキャリバーンからそらしてくれればそれでいいよ」
『わかりました』
鉱山突入をするアッシュ、シルル、ベルは準備のためにブリッジを離れる。
ブリッジに残ったのはマリーとマコ。だがマコはいまだに気絶している。
『あの、彼女は大丈夫なんでしょうか?』
「えっと……今起きたほうが面倒なことになりそうなので、今のままのほうがいいんじゃないかと思います」
マリーもなかなかなことを言うものである。
◆
キャリバーン号を一度地上付近まで降下させ、アッシュたちは徒歩で鉱山の入り口を目指す。
スピードを考えるのならばエアバイクを使った方がいいのだが、鉱山に入ってしまうと使いようがない荷物でしかない。
「さて。今は業者もいないようだし、ちょっと掘っていくか?」
「アッシュ、それはいい提案だが――バレると即座にお縄だよ。入るだけでもかなりギリギリなんだから」
「いや、ギリギリじゃなくてしっかりと不法侵入ですからね」
「海賊だから問題ないさ」
「そういう問題でも……いえ、とにかく行きましょう」
坑道へと入ると、壁面に走る電源と、それに沿って等間隔で並べられた照明が目に入る。
この照明のあるところがすなわち正規の坑道であり、これが見られない道が、アッシュたちの目指すべき場所だ。
「とりあえず確認だが、シルル。お前は何も武器らしいものを持ってないけど、大丈夫か?」
アッシュはエーテルガンを手に持ち、防弾ローブを纏い、その内側EMPグレネードを2つと、ハンドグレネードを2つ。ついでに骨董品店で買ったハンドキャノンも忍ばせている。
このハンドキャノン、弾がないため銃としては使えないが、鈍器としては十分な強度と重量であるため、緊急時の予備として持ってきたが――多分こっちは使うことはないだろう。
ベルはいつも通りのバイザーと修道服であるが――この修道服、徹底的な改造が施されており、防弾防刃繊維で作られており防御力は高い。煽情的な印象を強める派手なスリットが入れられているのも、脚の可動範囲を邪魔しないための工夫である。
また常用するハンドガン2丁の他にも全身に暗器を仕込んでおり、特にブーツにはクサリマムシの毒を塗った仕込み刃は生身の人間に直撃すればその命を確実に奪える。
このように2人の装備は明らかにこれから殴り込みをかけることを前提としたもので固められているが、シルルの恰好はいつも通りの白衣。
武器を隠している――かもしれないが、どうもそのようには見えない。言ってしまえば、かなり無防備に見える。
「ああ、問題ないよ。ここでは使えるからね」
「使える……? 何がです」
「それは後でのお楽しみ。ククク……さあ、騒ぎの元凶、拝みにいこうじゃあないか」
と、率先して坑道を進んでいくシルル。
仕方ない、とその後にアッシュとベルが続く。
警戒をする2人に対し、シルルは全く警戒せずにどんどん進んでいく。
「ところで、2人はこの鉱山で採れるレイスダイトについてどこまで知ってるかな」
「比較的高温で超電導状態にできるレアメタルで、超電導磁石の材料になるくらいか」
「軽量かつ高出力のリニアモーターエンジンの材料、ですよね」
「そう。ただ産出量が少ないから、レイスダイトを使った製品というのはどれも高級品だ。けど、その性質だけが注目されていて、もうひとつの性質についてはあまり知られていない。だからここで知っておいてほしい」
そう言いながら坑道の壁を軽く小突く。それだけで壁の一部がぼろぼろと崩れ、その奥から鉱石が顔を出す。
青白く濁った水晶のようなもの――レイスダイトである。
「こいつはね、生きている鉱石なのさ」
「生きている? いやいや。石がか? そんな――」
「ありえない、とは言えないだろう。エーテルが絡めば、この宇宙における我々の常識はいとも簡単に覆る」
顔を出したレイスダイトを手に取ると、それをシルルは白衣のポケットに入れる。
「こいつはね、化石なんだよ。この惑星のエーテルを大量に含んだ宇宙植物の樹液で出来た、琥珀なんだ。だから――こいつは私みたいな人間ととても相性がいい」
にぃ、と口を吊り上げて笑うシルル。その姿に、アッシュとベルは嫌なものを感じた。
この後、きっと何かやらかすんだろう、と。
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