第39話 特攻
スペースポート到着から5日。
シールドジェネレーターの修理は予定の3日を過ぎても終わらなかった――というわけではない。
プラス2日でエネルギー効率を改良し、シールドの連続展開時間を延長。さらに効率化したことでシールドの強度も若干ながら向上した。
加えてクラレントの重力制御機構の改良も並行して行っていたのだから、シルルのマルチタスクかつ超速の作業速度にアッシュたちは驚かされるばかりである。
「さて。キャリバーン号は万全。クラレントとフロレントの整備も完璧。フロレント2号とクレストは……まあ、最後にメンテしてから使ってないから大丈夫」
「食料の備蓄も十分。弾薬系も補充OK。あとの問題は――」
操舵席にしがみついて唸っているマコくらいだろうか。
とはいえその抵抗が無意味であることは彼女も承知のことだ。
「はい、各自位置についてー」
流石に二度目ともなると、誰もマコを気にかけない。
各自が各々の定位置につく。
「操舵は俺が担当。シルルはサポート頼む。マリーとベルはレーダーを注視してくれ」
「レーダーを、ですか?」
マリーが不思議そうな顔をする。
今からレイスへ降下するのだが、それだけのためにレーダーを注視する必要を感じない、とその顔は訴えている。
「『ハンマーヘッド』の攻撃があるかもしれないんですよ、マリーさん」
「えっ? 大気圏突入のタイミングで、ですか?! そんなタイミングで戦闘なんてしたら……」
「下手すりゃ共倒れ、だな」
いくら制御システムが改良され、大気圏の離脱・突入が容易になったとはいえど、そんなタイミングでの戦闘などまともな発想ではない。
惑星の重力に捕まった状態で、艦の装甲に穴が開きシールド機能がダウンしたら、どうなるかは言うまでもない。
「各砲門、砲座はいつでも使えるようにしておいてくれ」
「了解です」
「さて、そろそろ出るぞ」
キャリバーン号が動き出し、スペースポートから離れていく。
まだ近い位置にいるため、このタイミングでの攻撃はまずない。
下手に攻撃してスペースポートにでも当てたら、その瞬間から攻撃を仕掛けた側が一斉攻撃にさらされる。
無論、アッシュたちもそれを理解している。だからあまり離れないようにしつつ、高度を下げていく。
言い方は悪いが、スペースポートを盾にすることでくるかもしれない襲撃者からの攻撃角度を制限。警戒する範囲を狭める。
「来るならそろそろだが……」
「ッ! 熱源接近! ミサイル確認。Y0時……って真上ッ!!」
「シールド!!」
ベルが叫び、アッシュの指示が飛ぶ。
即座にコンソールを操作してシルルがシールドを展開させる。
それからわずかに時間をおいて、大量のミサイルがキャリバーン号の真上から降り注ぐ。
「なんて奴だ! スペースポートギリギリを狙って撃ってきてる!」
「第2波来ます!」
「降下急ぐぞ!」
ミサイルの雨が迫る中、キャリバーン号は効果速度を上げていく。
やや強引であるが、そのまま大気圏への突入を始める。
「シールド、艦下方限定で展開。副砲、ミサイルめがけて発射!」
「任せてください!」
ベルが火器管制を行い、副砲を展開するなり砲塔を回頭させ角度を調整。調整完了と同時にビームを放つ。
放たれたビームはミサイルの雨を迎撃。通り過ぎたビームによって直接撃破されたものは少ないが、撃墜によって発生した爆発に巻き込まれた誘爆でそのほとんどが消滅した。
「アッシュさん!」
「ミサイルと同じ方向から大きな熱源が急速接近! これは――『ハンマーヘッド』!?」
「その首領の座乗艦、ハンマーヘッド号だ……!」
その瞬間。艦のコントロールがアッシュから離れる。
奪ったのは、操舵席に座っているマコだ。
「マコ、いけるか?」
「アイツが相手なら震えてなんていられない」
一種のスイッチ。自己暗示というのに近い何か。
恐怖を抱いたままではあるが、明確な敵を認識したことでマコは覚醒し、自身の能力をフルで発揮する。
まっすぐ突っ込んでくるハンマーヘッド号。
艦首部に左右へ突き出た巨大な物理シールドを有するそれは、完全に特攻を狙っていた。
ハンマーヘッド号の艦体すべてを見ても、そのシールドよりも頑丈な部位はないだろう。
そしてその硬い装甲の特攻をまともに受ければ、キャリバーン号は沈む。
「シルル、アレにシールドは耐えれるか!?」
「耐えさせて見せる! ベル。ギリギリまでアレを撃ち続けてくれ!」
「了解!」
「ミサイルも持っていけ!」
突っ込んでくるハンマーヘッド号に、副砲とミサイル、そしてレーザー機銃の一斉射が殺到する。
だが相手も相手で、艦首部の物理シールド周辺にシールドを発生させており、こちらの攻撃をことごとく弾く。
「敵艦、さらに加速!!」
「衝撃に備えろ!」
大気圏突入時の断熱圧縮を避ける為に、普通は大気圏突入時には減速する。
キャリバーン号も例にもれず、他の艦船と比較すれば十分高速ではあるが、減速しながら惑星へと降りて行っている。
しかし、相手は――ハンマーヘッド号は違う。
降下速度は速く、このままいけばシールドを張ったとしてもかなりの負荷がかかるはずだ。
キャリバーン号の攻撃で削られたシールドでは、下手をすればそのまま突入に失敗する可能性まであるだろう。
「そこまでするか、モブカ・サハギン!」
「限界だ! 各種武装収納。シールド展開!」
キャリバーン号もシールドを展開。ハンマーヘッド号の特攻に備えた直後――2隻のシールド同士が衝突。互いのシールドが干渉し、まるでビリヤードの球同士がぶつかったかのように弾き合う。
「ぐぅっ……!」
「マコさん、姿勢制御!」
「やってる!!」
「無茶苦茶してくれるな、アイツ!!」
なんとか姿勢を立て直し、突入コースの再計算を始める。
落ち着きを取り戻したキャリバーン号と違い、どんどん離れていくハンマーヘッド号はいまだに姿勢を立て直すことができておらず、不規則な回転をしながら降下していっている。
「あのままくたばってくれたら楽なのに……」
そうマコは吐き捨てた。
キャリバーン号は無事に大気圏への突入に成功し、高高度で一度制止する。
「マコさん?」
「シルル、周辺警戒。ベルは火器の準備。マリーはアッシュと交代して、アッシュは出撃。多分、ヤツは来るよ」
「そんなバカな。あんな姿勢での突入だぞ? 艦体やシールドにかなり負荷がかかっているはずだ。そんなボロボロの状態で挑んでくるバカなんているわけがないだろう?」
あんな状態で大気圏に突入したのだから、無事では済まないはずだ。
なのに、降りたばかりのタイミングで仕掛けてくるというのか、とシルルは訝しむ。
だが、アッシュはマコの言葉を信じた。
この中で、相手のことを一番理解しているのは間違いなくマコだ。そんな彼女が言うのだから、間違いなく仕掛けてくる。
だから、こう言い切る。
「バカは来る!」
そして、アッシュの放ったその言葉は現実のものとなる。
「敵艦確認! 熱源反応も確認」
「シールド展開そのままで! アッシュさん、お願いします」
「そのつもりだ!」
アッシュは自分の役目をマリーに引き渡し、レバーを引いてクラレントの元へ直行する。
マコの言った通りの操作を各自が行う。
そうしている間に、ハンマーヘッド号から放たれたビームがシールドを直撃する。
「うわっ……!」
「反撃は待ってください! クラレントを安全に切り離してから、攻撃開始です」
マリーの指示に従い、ベルは各種火器を起動させつつ、照準をあわせていつでも発砲できる準備をする。
シルルは若干混乱しつつも、次の攻撃に備えてシールドの出力調整をはじめる。
「アタシ個人を追ってくるのは構わない。アタシを殺すつもりでも構わない。けど、アタシの仲間もまとめてっいうなら――アタシはアンタも殺す」
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