第30話 談話

 アッシュたちがカジノを出てから約3時間。

 全員帰還したキャリバーン号の食堂は、いつもより少しだけ豪華な食事が並んでいた。

 なお、今日の当番はマリーだったのだが、全員で止めた。


「これからは毎回わたしがやりますから!」


 と、ベルが全員の前で宣言したことにより、キャリバーン号の食の安全は守られる事になった。

 マリーとしては若干納得のいかない部分があるようではあるが。


「それで、マコ。成果は?」

「4人病院送り。2人両足骨折。7人拘束。使っていた武器はオアシスで手に入るものを改造して作ったものだったけど、全部管理局が没収」

「それだけ狙われたとなると、俺たちの情報が洩れてるってことか?」

「だろうねえ。マコが普通に格闘技能高いってのも驚きだったが」

「そう? それなりに鍛えてないとプラズママグナム扱えないだけだから」

「しっかし、私ってば言ってなかったかなマリー。彼女、死刑囚なんだ」


 はっはっは、と笑い飛ばすシルルと、気にした様子のないマコ。

 かなり重要なことをさらっと話すんじゃない、と言いたいのかマリーとベルの表情ななんとも味のあるものになっている。


「ま、実際殺した人間の数だけ見れば普通に死刑が当たり前だからね」

「そんなあっさり……」

「つっても、俺とベルは似たようなもんだろ」

「まあ、わたしの場合は公的に殺してもいい人間でしたけど」

「で、まあ奴等は何も口を割らなかった。情報源にはなり得ないし、なんなら管理局側に引き渡した時点で情報収集は無理だね」


 と、結局は収穫がなかったと、マコはフォークをシーフードサラダに突き刺して口へ運ぶ。


「で、マリーとベルはカジノで大当たりして、俺たちの資金を増やしてくれたわけか。おかげで金策しなくて済んだわ」

「ちなみにどんな金策をしようとしたんです?」

「ここにも管理組合ギルドはあるからな。適当に依頼を受けようかと」

「……それ行き当たりばったりってことじゃないの?」


 管理組合ギルドで仕事の斡旋を受け、それをこなしたとしてその報酬はピンキリ。

 金策というには少々不安定すぎる。

 賞金首を捕まえて引き渡したり、殺害した後証拠を提出すればそれなりの資金は入ってくるだろうが、あいにくアッシュはそういう証拠となるものを持っていない。


「そういえば気になったんですけど、皆さん懸賞金がかけられているんですよね? なのに他の賞金首の懸賞金って受け取れるんですか?」

「ああ、そのための管理組合ギルドだからな」

「高額な懸賞金がかけられるヤツほど、裏の金が動いてる。懸賞金をかける際に管理組合ギルドが手数料として、管理組合ギルドお抱えのバウンティハンターが懸賞金を獲得することで巨額を裏社会から回収して正常な金銭の流れに戻すというのが当初の目的。裏社会の人間からしても、依頼人が秘匿されて、かつより広い範囲に周知されるから始末したい人間を始末できる確率が上がってデメリットはないから、結成時に問題はなかったよ。結成には、ね」


 と、妙にシルルが歯切れが悪い――というよりは、若干馬鹿にしたような感じだ。


「実際にはお抱えバウンティハンターだけでは対処しきれなくなって、結局アウトローによる賞金稼ぎも認めるようになったってワケさ。だから、管理組合ギルドにとって賞金首を狩ってくるのなら、それが賞金首であっても構わないってスタンスになったのさ」


 と、マコが締めくくる。


「で、アッシュ。それだけが目的じゃないだろう?」

「ああ。管理組合ギルドに顔を出す前に情報屋に会って、面白い話を聞いてきた」

「面白い話?」

「ここに来る前、オルカ団とかいう阿呆がいただろ」

「オルカ、団……?」

「どこかで聞いたような……」


 マコとベルの反応も、その名前をミスター・ノウレッジから聞いた時のアッシュと同じ。聞いた覚えはあるが、どうでもいいことだから記憶にとどめていないという反応である。


「2人とも。あの宇宙シャチにのってシールドにぶつかってきた人たちですよ」

「ああっ! あのバカか!」

「え、でもなんでそんな連中の話が?」

「アイツ等、最近巡洋艦と重巡洋艦をあわせて4隻買ったらしいぞ」


 なるほど、と。それ相応の場数を踏んでいるマコとベルに、そういう知識も蓄えているシルルはすぐにピンときたが、この手の話にはまったくもて素人もいいところなマリーはどういうことなんだろうという顔をしている。

 が、シルルはある事に思い至り、ハッとしてマリーに尋ねる。


「……ああー。その。マリー? 王族の金銭感覚で考えてませんか?」

「え? 巡洋艦とかってそんなに高いんですか?」


 違った。素人とかそういう問題ではなかった。

 そもそもの金銭感覚が違うから、それがどれだけのものか理解できていなかっただけだ。


「金額についてはおいておくとして、奴等は金がないから宇宙シャチを捕まえて使っていたって連中で、しかも艦船なんて買えるほどの収入はなかったってんだからな。そんな連中が急に普通に艦船を買うってなると……」

「絶対、マトモな手段じゃあないね。多分だけどチンピラにそれだけ払うとなると、口止め料も含んでるんだろうさ」

「加えて、奴等の宇宙シャチなら見つかりにくいし、時間はかかるだろうが他のオアシスまでなら余裕でたどり着くからな」

「ということは……」

「オルカ団とかいう連中が、そういう仕事を受けた可能性は高い、って話だ。んで、その拠点ってのは――シルル、まかせた」

「ええっ!? そこまでは聞いてないのかい?」

「追加料金取られそうだったんだよ……」

「まったく。仕方ないなあ」


 メインディッシュとなるムニエルをナイフで切り分けながら、シルルはため息を漏らす。

 また仕事が増えた、と。


「じゃあ、直近の目的はオルカ団と交戦して、口を割らせるってことでいいかい?」

「口割るかなあ。ねえ、ベル。自白剤とか作れないの?」

「え、できますけど?」

「できるの?」


 マコの問に、ベルは頷いて答えた。


「薬とつくものは一通り。素材もそろってますし」

「揃って……? ちょっと待って。ねえアッシュ。シルルが発注した物資に薬の材料になりそうなものなかったんだけどさ。たしかバザーに行ってたって言ってなかった?」

「なんだマコ。改まって」

「私もやたら荷物抱えて戻ってきたと思ってたんだよね。あの中身はなんだい?」

「あ、それわたしの買った各種植物とキノコ類ですね。全部薬の材料になりますし、暗器に塗り込むための毒にも使えるので」


 マコとシルルの視線がアッシュに突き刺さる。

 どうしてそんな危険物を持ち込ませたんだ、と。


「……動物持ち込ませなかっただけマシだと思ってくれ。薬の材料になるって言われたら断る理由もなくなってさ」

「まあ、動物を持ち込んでないなら……」

「というか、動物買おうとしたのはそっち」


 そう言いながら、フォークでマリーを指すアッシュ。


「あの赤と青のカエルとか、黄色くて斑点模様のタコとかかわいいと思ったんですけど、購入を止められてしまいました」

「警告色ッ!! なんでよりによってわかりやすい警告色なのをチョイスするの!」

「マリー、いや姫様。基本的に色の派手な動物は警告色と言ってで猛毒を持っている生物の特徴なんですよ?」

「……あー、とりあえず本題に戻すぞー」


 このままだといつまでたっても話が進まない。

 そう判断したアッシュは強引に話を本筋に戻す。


「生体制御装置を持ち出したのは誰か、というのは判らないが、それをどこかに運んだのはほぼ間違いなくオルカ団と呼ばれる宇宙海賊だ。そして俺は、この生体制御装置に関係する一連の出来事の後ろにはウロボロスネストの存在があると考えている」

「ウロボロスネスト……」


 アッシュにとっては父親の仇。マコにとっては自身を貶めた元凶。

 加えて、アッシュの予想が正しいのであれば、ベルにとっては自分が居場所から離れなくてはならなくなった元凶ということになる。


「蛇の尻尾を掴めるかどうか、動いてみたいと思ってる。だが、キャリバーンは動かさない」

「でもそれだとどうやって戦うつもりなんですか? 相手は巡洋艦を持っているんでしょう」

「そこで出てくるのが、ソリッドトルーパーってことだ」

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