第21話 布告
壊滅させた武装組織は5つ。それらから得られた物資は、キャリバーン号に不足していた多くのものを充填することとなった。
特に、ソリッドトルーパー関係の装備や弾薬類。加えてマコがプラズママグナムでソリッドトルーパーのコクピット部分だけを破壊するため、予備パーツが多く手に入ったのがうれしいところだ。
「さて、最終確認だ」
もはややることは決まっている。ケリュネイア・シェルターへの攻撃である。
当然かなり無茶な戦闘になる。
事情を知らない都市国家ひとつを相手取って戦うことになる。当然、激しい抵抗にあうのは間違いない。
それらすべてを相手取るだけの余裕はないし、不必要な破壊は望むところではないため、攻撃にも細心の注意を払う必要がある。
「武装のほうは十分。しかし、こちらの条件は厳しい」
「シェルター内に入れるのはクラレントとフロレントの2機だけ。アタシは艦の制御。シルルと姫さんはサポート。特にシルルは相手の妨害も兼ねるから、メインのオペレーターは姫さん。それはいいね」
シルルとマルグリットは頷く。
シェルターの入り口はそもそも、宇宙用艦船が入れるようにできていないのだからキャリバーン号が中に入ろうとすればシェルターを大幅に破壊するしかない。
もし破壊した場合、ウィンダムの気象の影響をモロに受けて人類の生活圏としての機能を失い、同時にキャリバーン号と『燃える灰』の評判は地に落ちる。
「目標地点はケリュネイア・シェルターの北東部のここ。都市防衛隊の駐屯地。そこの地下に研究施設がある。必要なデータの回収は終わっている。存分に破壊してくれたまえ」
「侵入ルートは北門から――とはいかないんですね」
地形の問題である。
ケリュネイア・シェルターの北門は水路になっており、そのまま大河へと繋がっている。
水上か水中以外では侵入できない場所であるため、ソリッドトルーパーでの侵入は困難を極める。
加えて、機体のほうにも問題がある。
「クラレントは元々宇宙での運用を想定しているから当然機密性はばっちりだ。けど、ベルの機体――フロレントは地上戦用に徹底的に調整されているし、脱出機構のこともあって機密性に不安が残る。それを調べている時間も惜しい」
「そうですね。この研究が続く限り、被害者は増え続けるでしょう」
「なので、北門からの侵入はなしだ」
残るのは東西と南門。そのいずれかからの侵入となる。
「最短ルートは東門。ただしここはなぜか不自然に防衛設備が整っている。それが、こうだ」
シルルが端末を操作すると、防衛設備が存在する場所が赤く染まる。
四方の門周辺はもちろんだが、彼女が指摘する通り東側――より正確には北東にだけやたらと防衛設備が固まっている。
まるでそこに重要な施設があると言っているかのように。
「これ、一応機密情報だろ」
「それを抜き出すのが私の腕さ。で、これだけの防衛設備だが、砲台とかならまだなんとかできる。問題はこれ」
「出撃ゲート、か」
その数も異常。地下にソリッドトルーパーを格納し、有事の際には部隊がそこから出撃するためのものだ。
シルルが言っている問題というのは、ハッキングでもこればかりは止められないということ。
仮に出撃ゲートの開閉機能を停止させたとしても、ソリッドトルーパーならばゲートを破壊して出てこれる。
「一応、
シルルの言葉の意味は当然、生体制御装置の計画に関わった人間のリストアップは終わっているということ。
そしてそれらを戦闘中に殺害したとしても、言い訳できるだけの素材をそろえているということでもある。
「ね、ちょっと提案」
「なんだ、マコ」
「出撃ゲート、全部塞がなくてよくない?」
「……ああ、なるほど。その手もあるか」
出撃ゲートがすべて塞がっていると、それを破壊してでも突破しようとして来るだろう。
しかし、出口が用意されていればそちらから外へ出ようとするだろう。
「まあ、冷静になられたら多分バレるだろうな。……北門をキャリバーンでつつくか」
「つつく、ですか? でも門を破壊したら――」
「安心してくれ姫さん。門前の水面にビーム撃ち込むだけだ」
「殿下、相手の冷静さを奪うだけですので」
戦艦の攻撃で相手の冷静さを奪い、2機のソリッドトルーパーで直接攻撃。
そして対象施設を破壊するのが、アッシュたちの最終目的。
「クラレントとフロレントの侵入ルートは西側がベストだろう。南からは距離が遠すぎる」
「……いや、俺はあえて南側から行く」
「アッシュ?」
「ベルは西側から目標を目指し、制圧してくれるか」
「いいんですか? わたし、加減なんてできませんよ」
「今、あの研究に積極的にかかわった連中をリストアップしして片っ端から罪状つけて懸賞金かけてる。あ、ちなみに資金源はラウンドからちょろまかしたので安心してくれたまえ」
そういってシルルはコンソールの画面を4人に見せる。
さりげなくラウンドへの嫌がらせまでやっているのは抜け目ない。
「そしてその対象は君のバイザーに直接転送するし、君の視覚情報をこちらと共有すれば――」
「攻撃する対象を絞れる、と」
「その通り。だが彼等を犯罪者にして懸賞金をかけるのは、万が一殺してしまってもこちらの非を少なくするため。極力殺さないでくれると助かる」
「……努力する」
ベルは視線をそらしながらそう答えた。
「これ以上、何か話しておくことはあるか?」
そう4人に尋ね、全員が頷いて意識を共有できたことをアッシュは確認する。
「なら決まりだ。決行は――」
「懸賞金かけ終わってから、ね? あと3時間くらいかかるかもだ」
3時間。それは奇しくも、現在位置からケリュネイア・シェルターまでの移動にかかる時間とほぼほぼ一致していた。
「よし、それじゃあ……『燃える灰』とシスター・ヘルの共同作戦といこうか」
◆
その日のケリュネイア・シェルターは、いつもと変わらぬ平穏な日々を送っていた。
あれる天候を気にすることなく、いつものように時間が過ぎ、いつものように平和が続いていた。
だが、異変は静かに始まる。
最初に都市国家内の通信機器がすべて使えなくなった。
個人所有の端末から始まり、家庭用のもの、軍事施設と段階を踏んで使用不能になっていった。
突然のことでパニックになるものの、次第に落ち着きを取り戻す。
通信機器が使えない程度では、通信障害かもしれないと、まだ誰もが楽観視していた。
それから30分。異変はは終わらない。
次に起きたのは、電気の供給が不安定になるというものである。
生活に必要なものや、病院などの生死にかかわる部分には一切影響はないが、娯楽施設や多くの商店は機能を停止した。
そしてやはりこれも軍事施設の機能停止にまで至るのだが――この時点ではそれに気付けるのは都市防衛隊のみである。
この時点でケリュネイア・シェルターは内部での連絡は勿論、外部へ連絡を取る手段を失った。
加えて電気系統も停止している為四方のゲートは北門を除きすべて閉鎖状態。都市からの脱出も不可能となり、ここで暮らす住民はシェルターという巨大な鳥かごの中に閉じ込められてしまった。
だが、この時点で防衛設備の大半が機能停止。万が一、悪意のある何者かがゲートを突破してきてもシェルターを守る術すら失っている。
異変が始まってから1時間。
住民たちも事の重大さに気付き始めたころ、突如としてあらゆるモニターが一斉に起動した。
通信端末、街頭モニター、デスクトップのモニターに、テレビまで。それらすべてが、全く同じタイミングで全く同じ映像を流し出す。
『ケリュネイア・シェルターの皆様。私達は『燃える灰』。これからそちらのシェルターに攻撃を仕掛ける。何故なら、ケリュネイア・シェルターで行われている非人道的研究の証拠を掴んだからである』
それは、宇宙海賊『燃える灰』による宣戦布告。
同時にこのシェルターに存在していた深い闇の暴露であった。
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