霊素宇宙のキャリバーン

銀色オウムガイ

序章

プロローグ

 人類の生活圏はどこまで広がるのだろうか。その問いかけに応えられる者は、おそらくまだこの宇宙には存在しない。


 はるか昔の出来事。霊素――エーテルを発見した人類の科学技術は加速度的に発展し、太陽系の全域を生存権に作り替えるほどの発展を見せていた。

 例えば、赤く染まった火星の大地を緑に染めるほどのテラフォーミング技術だったり。

 例えば、地球から木星の往復を僅か1週間で可能にするほどの宇宙航行技術だったり。

 例えば――汎用機動兵器ソリッドトルーパーの開発だとか。


 しかしその一方で人類は地球という母星に大きなダメージを与えてしまった。

 そのダメージについて具体的なものはもはや残されてはいないが、きっとろくでもないものであったのは間違いない。

 その自業自得のせいで地球に住めなくなった人類は地球を脱出することを強いられ、いくつかの生物種を連れて母星の大地を捨てた。

 だがそれでも、全ての地球人口を受け入れるには太陽系にある生活圏だけでは足りず、多くのものが太陽系外にある未知なる移住地を探し遥かなる星の海へと旅立たねばならなかった。


 結果的に言えば、その航海は成功した。


 現代。

 それぞれの移民船団がそれぞれの移住惑星を見つけ、それぞれの惑星環境に適応した新たな人類へと進化するほどに時が流れても、人々の在り方は大きくは変わらなかった。

 いや、むしろ文化としては後退したと言っても過言ではないかもしれない。


 例えるならば大航海時代か西部開拓時代。あるいはその折衷。

 進み続ける技術に置いていかれた人類は、広大な宇宙でもまだ争いを続けている。


 尤も。


 今この時代を生きる彼等にとってそのような、神の視点の嘆きは何の意味も持たない。

 誇り高い宇宙海賊であろうと、大国の王女であろうと、遥かな時を生きる長命種であろうと、脱獄した死刑囚であろうと、相手を必ず殺す賞金稼ぎだろうと、それは変わらない。


 だから、誰も考えはしないのだ。

 自分たちのそのひとつ行動で、宇宙を揺るがす事件が起きるなんてことは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る