第14話 都市国家防衛戦

 セントール・シェルターの上空に待機するキャリバーン号の各部砲門が開く。

 迫りくるソリッドトルーパー・ウッゾを迎撃する為に、主砲や副砲含めた現在使用可能な武装すべてを開放し、射程に入り次第発砲する。


「姫さん! アタシは火器管制に集中する。レーダーに注視してて!」

「はい!」


 姿勢制御と高度維持はシステムが勝手にやってくれる。

 だが攻撃ばかりはシステム任せにはできない。

 相手も人間だ。機械的な予測がどこまでも通用するとも思えない。


「各ターゲットオートロック! 主砲1番2番発射! 続けて副砲、1番から4番順次ターゲットに発砲。レーザー機銃はオートで発射」


 キャリバーン号の武装の全てはビームとレーザー。レーザー機銃は撃てばまず当たるし、荷電した粒子を放つビームもレーザーに劣るとはいえ超高速であり、撃たれてから回避するのは難しい。

 だがしかし、相手もバカではない。砲が回転し照準を合わすまでの間に小回りの利くソリッドトルーパーはオートロックなど容易くしのいで見せる。


「やっぱオートじゃ当たらない……!」


 戦場におけるソリッドトルーパーの役割として、艦砲を避けつつ敵艦に接近して直接攻撃というものがある。

 事実、接近するウッゾの大群にオートロックのまま攻撃したレーザー機銃はほとんど当たっていない。

 オートでは人間が繰り出す不規則な動きに対応しきれず、加えてキャリバーン号にとってはこれが初の実戦である。人間の動きに対する経験蓄積が不足しており、なおのこと攻撃が当たらないのである。

 が、それも無駄ではない。

 レーザー機銃を回避した先を狙ってマコ自身が操作した主砲が放たれ、一撃でウッゾの上半身を吹き飛ばした。

 だがそれを見ても怯まず、なおもシェルターへと近づいてくる


「マコさん! 抜けられました!」

「そっちは無視! 中の事は中に任せて外にいる奴だけを叩く!」


 レーザー機銃による攻撃はある程度効果がある。ほぼ光速で飛んでくる貫通力の高い弾幕はあちらからしても当たりたくない攻撃だろう。

 加えて当たれば必殺級の主砲と副砲も飛んでくる。逃げるためにも、シェルターへ駆け込もうとするのは当然だ。


「あの、マコさん。これ何かおかしくありませんか?」

「何が?

「だって、明らかに襲撃を受けているのに、

「ッ!?」


 レーザー機銃を使った足止め。そしてそこめがけて放つ主砲および副砲。

 相当数は撃破したが、それでも10機程度はシェルターの中に突入した。

 にもかかわらず、シェルターから警報が発せられる様子はない。

 明らかな異常事態に、マコとマルグリットは何か嫌なものを感じ始めていた。



 孤児院の敷地内にある小屋の床にある隠し階段。ベルを含む一部の人間しか知らない開錠パスワードを入力し進んだ先にある巨大な空洞に並んだ3機のソリッドトルーパー。

 うち1機は先日アッシュたちの前に現れたフロレントそのもの。

 残りの2機はそれによく似ているが、装備が少ないように見える。おそらくフロレントのベースとなる機体か、万が一フロレントに何かあった時の予備機体ということだろう。

 なるほど。これほどの設備を整えれば、いくら金があっても足りなくなる。

 『燃える灰』にかけられた懸賞金はこちらの維持費のために必要だったのだ、とアッシュは解釈する。


「クレストか。ラウンドで使われていた1世代前の主力量産機だ。生産も終わり、民間に払い下げされていたとは聞いたけど、まさかこんなところで見るとは……」

「私はフロレントで出ます。アッシュさんとシルルさんはその機体を使ってください。武器はそこにあるのを持っていってください」


 そういうとベルはバイザーを付け自身の機体に乗り込む。

 アッシュとシルルも彼女に言われた通り、それぞれがクレストに乗り込む。


「ていうかシルル。お前、操縦できるのか?」

「クレストを設計したのは私だぞ? それにテストパイロットも私だ」

「へえ……って、待て。クレストの生産終了が10年前。それまでバージョンアップを繰り返して30年は使われてきた機体だぞ? お前、一体何歳なんだ……?」

「女性に年齢を訪ねるのはタブーだと教わらなかったかい?」


 軽口を言い合いながらも、アッシュはいかにも重そうなライフルを2つに対装甲用ナイフを、シルルはグレイブとマシンガンを選ぶ。


「え、それだけの装備で?」


 想定される敵の数に対して装備が貧弱すぎる。


「問題ない。俺はキャリバーンに戻るまでの足があればいい。シルルは――」

「使いやすい武器を選んだだけさ」

「そうですか……」

「一応、俺たちの使ってる回線をそっちにも伝えておく。これで外の状況と、中に入った敵の位置はわかるだろう」

「助かります」


 3機のソリッドトルーパーが起動し、開いたゲートに向かって歩き出す。

 しばらく進んで、脚部のローラーを起動。一気に速度を上げて地上へと飛び出す。

 と、言っても出たのはセントール・シェルターの中央部にある人工湖。そこから3機が各方面へと散らばっていく。

 ベルは西へ。アッシュは北へ。シルルは東へ向かうために機体の向きを変える。


「都市防衛隊、こちらシスター・ヘル。状況はどうか」


 と、言っても返答はない。

 シェルターに所属不明機が侵入しているのに出撃すらしていないというのもおかしい。


「キャリバーン、防衛隊の配置状況は?」

『そ、それが……さっきから何機か抜けられたんですけど』

『全く機能してない! 出撃が間に合っていないとかそういう話じゃない。最初から動いてない!』

「なっ……?!」


 ベルはキャリバーン号から届いた連絡に驚愕する。

 明らかにシェルターが攻撃を受けているのに、それを守るための部隊が動いていない。そんなこと、あっていいはずがない。


「これ、かなり拙いね。もしかすると、私達の考えているよりも事態は深刻かもしれない」

「防衛隊にも影響を及ぼせるデカい組織ってことか? ふざけんな。強引にもほどがあるだろ!」

『そんな組織、アレしかないでしょ』

『え、アレってなんですかマコさん』

「……ウロボロスネストだ」

「ウロボロスネストだって? 都市伝説じゃないのかい?」


 全宇宙の裏社会を支配する犯罪シンジケート。それがウロボロスネストである。

 あらゆる国家に強い影響力を持ち、目を付けられたモノは個人であろうと組織であろうと徹底的に攻撃される、と言われている。

 尤も、シルルが言った通り半ば都市伝説扱いされている話である。


「実在する。俺の親父は奴等に殺され」

『アタシは奴等にハメられた』

「奴等が出てきたんだとしたら、ちょっと本気になるしかないな。行くぞ」


 アッシュ機がスラスターを噴射し、シェルターの天井付近まで上昇。

 その高度から自身の進行方向にいるウッゾを視認する。

 同時にキャリバーン号から送られてくる敵の位置情報も照らし合わせ、正確な位置を把握するなりライフルを構えた。


「その距離から?!」

「当たらなくていい。こっちに注意が向けばな!」


 放たれた1発の弾丸。それは舗装された道路に命中。

 発砲音と着弾音。その2つが合わさり、3機のウッゾがアッシュ機のほうを向き、銃口を向ける。

 だがあまりにも距離が開いているからか銃を構えるだけで発砲はしようとしない。


「たった3機だ。全部潰して外に出る! あとはそっちに任せる!」


 そう言うなり、当初の目的通りアッシュは機体を北門めがけて機体を飛ばす。


「姫様。東門方面の敵の数は?」

『5機です!』

「うわ、多い……じゃあ西は?」

『そっちは2機です』

「聞いたね、ベル」

「はい。では、我々も」


 フロレントとシルル機も湖から跳びあがり、自身が当初向かうべき方向へと機体を飛ばす。

 ベルが向かった方角には、彼女の孤児院もある。

 そこに敵が近づくのは避けなければならない。

 一度足を付き、大地を蹴って再度スラスターを噴射させての加速。

 それでいて噴射で周囲の家屋を巻き込まないよう慎重にルートを選んで機体を飛ばす。


「敵の位置は……厄介な」


 現在位置からは丁度建物の影に入っていてここから攻撃するのは不可能。

 ならば大回りして奇襲を仕掛ける、と大回りして敵のウッゾの背後へ回り込む。

 距離としては装備しているマシンガンでは弾がブレる。正確な射撃を行える腕前をもつベルとてそもそも有効射程距離よりも遠い相手を狙うのは無理がある。


 だが、距離があるということはそれだけ加速がつけられるということである。

 ブレードを抜き突撃。

 ウッゾの真後ろから一突きで貫き、前のめりに倒れ込む機体はまるで地面に貼り付けにされたかのような恰好で動きを止める。


「まず1機……次は?」


 センサーを動かし、もう1機の敵機を探す。

 と、その機体を見つけた途端に引鉄を引こうとするが、その後ろにあるものに気付き手が止まる。

 ――孤児院だ。


「こんなところで戦闘なんて……!」


 動きが止まったことを察したウッゾ――いや、厳密にはウッゾ・ムゾと呼称される重装備型の機体がショルダーキャノンを倒してフロレントを狙う。

 そして、砲弾が放たれた。

 肩のシールドに角度をつけて受け流して避けたが、それによって明後日の方向へと飛んでいった砲弾が家屋を吹き飛ばす。

 串刺しにしたウッゾからブレードを引き抜き、それを構えた。

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