夜の金魚の内緒話

@sinobu2

(泡になって消えた、一匹の金魚のお話)







人魚姫 白雪姫に眠り姫

どこにも行けない 泡姫だって







吉原の女を金魚と言うらしい

生け簀の中のきれいな魚







「彼以外に初めて抱かれた日の夜は泣いた」と笑うNo.1嬢






「なんでこの仕事してるの」と聞く人の多さ

消費される身の上話







大体はどの子の話も本当です

「盛ってるでしょ」と言われますけど







人生と自分の欠片を切り取って売る職業を花売りと言う







何が死ぬわけもないのに

少しずつたしかに

心はすり減って

いく






男なんていらない

だけど子供は欲しいねと笑う

こんな場所でも







毎日のように下剤を飲んでいる彼女の脚はすんなりとして







彼氏なし未婚の彼女のお腹の子「誰の子なの?」と訊けないままに







六ヶ月目のエコー写真

「まだ足はないみたいよ」と無邪気な笑顔







シンママが抱かれるために待つ部屋でPTAの話などする







赤ちゃんを連れてきている金髪のギャルが買ってた無添加の菓子







同僚に連れられて行くホストクラブ

雄の金魚の群れきらきらと







偽物の優しさを売る姫たちが偽物の優しさに酔う場所







歌声を綺麗と褒めた気弱げな彼にはそれきり出会えなかった







もう誰の名前も覚えていない街

嫌いじゃなかったあの場所の風







誰も彼も皆それなりにいい人で

皆が必死に生きていた街







「できるなら皆幸せならいい」と二度と会えない過去に祈った







一匹の金魚の話はおしまいです

今日も生け簀の中はきらきら

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