第15話:自己嫌悪。

「昔の女のこなんか覚えてねえよ」


「え〜冷たいんだ・・・元カノ泣いてるよ」


「そう言う沙都希だってモテただろ?」


「嬉しくないけどね・・・」

「ロクな男しか寄って来なかったし・・・」

「私のせいなのかな・・・」


「俺もそのうちのひとりかもな・・・」


「見てたら分かるよ、祐がもしロクデナシなら付き合うのやめるから」


「一週間持たないかもな・・・」


「一週間持てばおっけ〜だよ」


「一歩前進・・・ね、話してよかったでしょ私と」

「話さないとはじまらないからね」


「沙都希・・・沙都希ってほんとは明るい人なんだろ?」

「よく分かんないけど、いつからかどこでか・・・その明るさを封印し

ちゃったんだ・・・ 」


「またまた・・・分かったふうなこと言って」

「私のなにが分かるっての、祐に・・・」

「みんな、それぞれ人には言えない闇を抱えてるんだよ」

「誰にだってあるでしょ、そう言うの」


「たしかにな・・・人って傷つくことが多すぎるんだよ」


「たくさん傷つくと知らない間に自分にバリア張っちゃうんだよね」

「二度と傷つきたくないって思うじゃん 」

「って言うか・・・なんか、重い話になってない?」


「あ、そうだな・・・やめよう・・・こんな話」


「今日はもうお客来ないみたいね」


「そう言えばそうだな・・・もう来ないだろう・・・店、閉めるか」


「閉めてなにするの・・・やらしい」


「なにも考えてね〜よ、ったく」


「するか?セックス、私と・・・」


「あのな・・・酔っ払ってるのか?あんた・・・」

「なにもかも唐突すぎだよ」


「こういうのは気合とタイミングなの」

「っていうか・・・私のこと、あんたじゃなくて、沙都希って呼んでって

言ったでしょ」

「それから私、いっぱい棘があるかもしれないから気をつけたほうがいいよ」


「分かったよ・・・沙都希・・・ちゃん」


「さんもちゃんもいらない・・・さ・つ・き、でけっこう」


「ってかさ、祐もなかなかイケメンだよ、 なかなかってのも失礼だけど」

「背もシュッとして高いし・・・まじイケメン」


沙都希は親指を立てて見せた。


「だからって調子に乗らないでよ・・・」

「まだ、恋人未満だからね」


「いい子にしてたら・・・セ」


「言うな・・・」


たしかに祐はモデルにスカウトされてもおかしくない風貌をしていたし、

身長も180センチはあった。

沙都希は祐から、人に心許してないって言われてドキッとした。


(・・・人に心許してないっ て・・・ちょっとショック)

(そんなこと今まで言われたことないし・・・言った人もいない)

(人を避けてずっとひとりで生きてきたから、そういうのが自然と身に

ついてるんだ・・・)


この時の沙都希は祐の前で目一杯、背伸びをしていた。

ガラにもない自分を演じて、あとで自己嫌悪に落ちいった。


「あんなの本当の私じゃない・・・」


(私、バカばっか言って、なにやってるんだろ・・・)


やっぱり祐に声をかけるんじゃなかったと沙都希は思った。

どこか無理してる自分がいた。


(酔っ払いみたいに祐にからんだりして・・・バカだよね、私)


さっきまでの自分を消し去りたいと思った。

最近は人前で本当の自分が出せない・・・素直になれない自分が嫌で

しょうがなかった。


(なんでもっと人に優しくなれないんだろう・・・)


つづく。

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